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「Fragile, Close to the Edge / YES」
  バンドのアレンジとフメンの関係とは?   by Ohji

 誰でもある程度楽器が弾けるようになったり、カラオケで自分のお気に入りのアーティストの楽曲が思いの他うまく歌えたりすると、次の段階としてバンドを組んでみたくなります。もちろん自分で生ギターやピアノを弾きながら、一人きりで歌うのがサイコーって人も多いだろうけど、バンドには弾き語りにはない素晴らしい要素があります。それは音楽によるメンバー同士のコミュニケーション!
 このコミュニケーションにもピンからキリまであり、その中でも究極の「何も決めずに突然音を出し始めたら、いつの間にか素晴らしい演奏になっていた」なんて夢のようなパフォーマンスがベストですが、演奏中お互いに他メンバーのフレーズを聴きながら、次に来るものを予測し、絡み合っていくには技術だけでなく、経験が必要になります。
 そこで経験も、プレコグのような超能力も持っていない人には、演奏のガイドになるものが必要になります。普通、この役目を果たすのが楽譜で、音楽ギョーカイではフメンと呼びます。あらゆるタイプのフメンを読み、演奏することができれば楽しいとは思いますが、もしこのフメンが小中学校で音楽の時間に見た教科書のようなものだったら、そこに書いてあるフレーズを弾くしかなく、自分の個性を出すことができないでしょう。(厳密に言えばそうではないのですが...)
 この種類のフメンは「自分が思った通りに演奏してもらいたいアレンジャー」には好都合ですが、バンドをやっている楽しさは半減してしまいます。バンドが活き活きとした演奏をするには、リハーサル時にメンバーそれぞれが、ある種のアレンジをしながら自分のフレーズを決めていく必要があります。また、そのガイドにするにはどのようなフメンが最適なのかを知っておかないと、ムダなスタジオ時間を過ごしてしまうでしょう。今回はYESの2枚のアルバムを聴きながら、いかにしてボーカルをサポートし、他の楽器と調和、なおかつ自分の個性を出していくかというコトを考えてみます。
 YESというグループは1968年結成で今年もツアーしているので、35年間も続いていることになります。といってもその間ずっと同じメンバーでやってきたのではなく、まずギタリストが交代し、次にキーボードプレイヤーも代わって、第一の最盛期を迎え、その後はYESというバンド名のもとに様々なミュージシャンが集まってはやめていき、元のメンバーが戻ってくるというサイクルを繰り返しています。
 その第一の最盛期に発表されたのが、今回紹介する「Fragile:こわれもの」と「Close to the Edge:危機」の2枚です。「こわれもの」はキーボードのリック・ウェイクマンが参加した直後に緊張感の中で録音され、その次のアルバム「危機」はYESサウンドが確立されたといっていい演奏に仕上がっています。
 この2枚のアルバムで興味深い事実は、この当時メンバーのうち何人かは譜面が読めなかったということです。とはいってもこれら以前のアルバムを聴いてみても、コードによってコミュニケーションを図り、バンドのサウンドを創っていたのは明らかですから、この場合のフメンが読めないというのは、「オタマジャクシが並んだフメンを突然見せられても、急には弾けないよ。」位の意味でしょう。
 そういうフメンのことを「書き譜」といい、フレーズが決まっているので通常はその通りに弾きます。とはいえこのフメンにもコード・ネームが書いてあるので、ソロやアドリブを演奏することも可能ですが、クリエイティブな気持ちよりも先に「まちがえずに読まなくては...」というあせりを生んでしまうこともあります。フメンにはこの他にタブ譜、リズム譜、コード譜などがあります。
 タブ譜はギターやベースの弦の数だけ横線があり、オタマジャクシの頭の替わりにフレット番号を書くフメンで、ギター専用、ベース専用になりますから、メンバー間のコミュニケーションにはあまり役に立ちません。リズム譜は名前のとおり基本的な書かれているもののことですが、コード進行を決定しないままバンドで自由に演奏する場合などにはドラムスの基本パターンとフィルインの入る場所などを書いておくと便利です。リズム譜にコードネームを書き込むとコード譜になります。楽曲の基本となるリフやメロディ、歌詞などが書いてあることもあります。これだけの情報が書き込んであれば、バンドでサウンドを煮詰めていくのには十分でしょう。
 YESがコード譜を使っていたかどうかは分かりませんが、新しい曲は全員でスタジオに入り、セッションを重ねるうちに最終的な形に近づいていったといいます。このように音楽的な記憶力が良く、メンバー全員がしっかりとコードに沿った演奏ができるなら、コード譜を使っているのと同じことです。ということで、そんな記憶力がゲットできるまでは、バンド内でのコミュニケーションにはコード譜が必要であることが分かります。余談ですが、不思議なことに書き譜に弱い、あるいは読めないミュージシャンの中にはこの音楽的記憶力が優れている人が多いようです。
 CDを聴いてみると、「危機」タイトル曲のイントロでは、「Harmonic Minor Perfect 5th below」というスケール(音階)が独特な雰囲気を演出しています。このスケールはジャズでマイナー・キーの時、ある種のコードに対して使うことがあるスケールで、こんな風にベースのラインが呪文のように演奏し続けるというのは、とても個性的なアレンジ方法です。一般的なスケールだけでもユニークなフレーズを考えられないことはありませんが、今まで知らなかったスケールを弾いていると、思わぬアイディアが出てくることもありますから、本などで知ったスケールはどんどん試してみましょう。フメンにしるしをつけておいて、「このC7はxxxスケール」などと決め、セッションを進めます。
 リズムに関しても「こわれもの」では「Five per cent for nothing」のようにベースラインがギターのフレーズを16分音符遅れてフォローするとか、「Heart of the sunrise」のように4拍子の部分にイントロで弾いていた3拍子のフレーズを入れ込んでしまうなど、「やってみたら面白かった」とでも言いたそうなアレンジメントが出てきます。「危機」のラスト「Siberian Khatru」には4分の15拍子が使われています。これは4拍子を3小節間演奏したら、次は3拍子となる4小節パターンの形式で、慣れないうちは気を付けていないと、ついつい4拍子のつもりで3拍子の小節を迎えてしまいます。他のタイプの変拍子もそうですが、コード譜を見ながら、カウントをとって演奏していれば、知らない内にカウントの必要はなくなります。
 アレンジの全体像、構成に目(耳?)を移せば、「Roundabout」ではさらに自由奔放で、クラシカルなギターのイントロに続いて、カントリー・ピッキングのドリアンリフに16ビートのベースをのせ、ブリッジではオールディなR&Bスタイルのリズムが登場したかと思えば、2拍3連の応酬になり、エンディングはクラシック風に同主調メイジャーへ解決するなど、めまぐるしい展開を聞くことができます。いくらイントロとAメロにあたる部分が同じパターンだとはいえ、曲として破綻しないのが不思議なくらいです。
 むろん、今すぐ皆さんにこんなジェットコースターのような曲を創りなさいとは言いませんが、コミュニケーションはキャッチボールのように、相手が投げてきたら投げ返さなくては成り立ちません。他のメンバーが曲を書き、あなたの楽器で弾くフレーズを考えてきたら、ただそれをそのまま受け入れるだけでなく、自分なりにそのフレーズを出発点として工夫をし、あなたのアイディア加えたものを返すことが重要なのです。
 ちょっと前に某パソコンのCMで「Think Different」というキャッチコピーが使われていました。直訳すれば「違った風に考えよう」というようなイミですが、いったい何と違いたいのか?は「他の人と」とか、「いつもの自分」とかいろいろに考えることができます。バンド内でのコミュニケーションには必要な姿勢だと思います。
 
各アルバム収録曲
Fragile
 1. Roundabout
 2. Cans and Brahms
 3. We have heaven
 4. South side of the sky
 5. Five per cent for nothing
 6. Long distance runaround
 7. the fish(Shindeleria Praematurus)
 8. Mood for a day
 9. Heart of the sunrise
Close to the Edge
 1. Close To The Edge
 2. And You And I
 3. Siberian Khatru

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