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「Deja Vu / Crosby, Stills, Nash & Young」   by Ohji
 かつて筆者が中学生の頃はギターを持って歩いていると不良と呼ばれるような時代もありましたが、今ではギターという楽器は私たちに大変身近な楽器となっています。親に無理やりピアノを習わされたという人でなければ、始めて触れた楽器は何かと問われたら大半の人がギターと答えるでしょう。
 やはり始め易いというのが一番の理由でしょう。管楽器のようにただ音を出すだけにも時間がかかるとか、ピアノのように練習曲ばかり演奏しなくてはならないということもない。左手でコードのポジションを押さえ、右手でポロンと弾けば、まがりなりにも何らかの楽曲を歌えてしまうというのは大変入っていき易いし、自分のことながら、ちょっとした可能性さえ感じてしまうかもしれません。
 この楽器がこんなにも取っ付きやすいのは、他にもいろんな要素があるだろうけど、西洋音楽に不可欠なコードを比較的楽に押さえられるよう考えられたチュ−ニングにより、あまり苦労しなくてもコードを押えることができるからでしょう。例えば、もしギターのチューニングが1弦、2弦も4度チューニングで
1弦:F2弦:C
となっていたら、ローコードのAでさえ押さえにくいコードとなり、Eに至ってはギター弾くとき専用の指が必要になってくるほどです。
 このようにヨーロッパでチューニングは長い年月をかけて今のシステマティックな形に落ち着いたのですが、アメリカ合衆国ではある種のミュージシャンの間で、もっと単刀直入な方法が使われてきました。日本ではそれを変則チューニングと呼びます。
 言葉の意味からすれば、レギュラーつまり普通のチューニング以外の調律方法はすべて変則チューニングということになるのですが、大抵はブルースメンが良く使用するDチューニング、Gチューニングといった解放弦を全部弾くとコードになるものを差します。ロック・ミュージシャンでもブルースの影響が大きい人たちは、こういった変則チューニングを使う事があります。ローリング・ストーンズのキース・リチャーズなどはしょっちゅうGチューニングで演奏しているうちに、6弦のDがじゃまになってきたので、6弦をはずして5弦ギターにしてしまった位です。
 今回紹介するアルバム「Deja Vu/クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤング」の中にもオーソドックスな変則チューニングに工夫をしたものが使われています。このグループ名はメンバーの名字を並べた物ですが、メンバー4人の中でスティルスとクロスビーが良く変則チューニングを使います。
 スティルスのチューニングはDチューニングを元にしたものですが、3弦を4弦と同じDまで落とすため、3度の音がなくなって、メイジャーだか、マイナーだか良く分からないウヤムヤな雰囲気を造り出すことができます。また3、4弦が同じ音の高さであるため、自然なコーラス効果が得られます。主に「4+20」のようなフォークブルース系の曲でオーソドックスに演奏する場合と「キャリー・オン」やウッド・ストックで有名な「青い眼のジュディ」のようにインド音楽とラテン音楽が混ざったようなこの人独自の世界を表現する場合とに使われます。
 クロスビーもスティルスと同じような変形Dチューニングを使いはしますが、彼の場合、ありとあらゆる変則チューニングを自分で編み出し、それを駆使して作曲し、演奏しています。チューニングには曲を作る段階でマイナーチェンジを加えていくようで、同じタイプの中にも曲により、いろいろとバリエーションがあります。このアルバムではタイトル曲の「デジャ・ヴュ」ではEマイナーセブンにサス4を加えたチューニングを使っています。この曲の途中で3連のノリから大きなノリになる時にブレイクがありますが、この響きがこのチューニングの解放弾きのサウンドです。
 以前からこのサイトでは「オリジナリティ」という言葉が良く出てきますが、自分の持っているイメージを具体的な音にするための自分だけの技術を追求することは「オリジナリティ」につながると思います。ここでの変則チューニングもその中の一つの要素です。実際問題として考えてみれば、そんなことを考えず、もっと誰もが考え付くようなコード進行に合うようにメロディを手直しして、ごく普通なアレンジにした方がより多くの人に気にいってもらえるかもしれないし、なにも変則チューニングなどにこだわる必要はないように思えます。しかし、作曲・演奏している本人にはもはや「このチューニングを使わないと、この曲じゃなくなってしまうんだ。」という最低必要条件になっているわけで、その曲の特徴を形作る基本部分になっているのです。
 スティルスの場合、曲を書くという行為そのものが「通常ギターで演奏するとごく当たり前のフレーズを変則チューニングでどうアレンジするか?」と考えるところから始まっているでしょうし、クロスビーの場合はコードとメロディ、どちらが先かは判りませんが、不思議なコードをどのように連結してメロディを支えるかというところから始まっているのです。そうして一度アイディアが作品へリンクすると、具体的なスタイルが音として残り、さらに別のアイディアを加えていく時、新しいアイディアに集中することができます。
 もちろんチューニングだけでなく、いろんな技術がこういった「オリジナリティを形成する一要素」と成り得るでしょうが、一番重要なことは「新しい技術を覚えたら、次に自分なりにちょっと変化を加えて演奏し、歌ってみる」ということです。積み重ねていくと、知らないうちにオリジナルよりも居心地の良いものになっているかもしれません。
 
「Deja Vu」収録曲
1. Carry On
2. Teach Your Children
3. Cut My Hair
4. Helpless
5. Woodstock
 6. Deja Vu
 7. Our House
 8. 4+20
 9. Country Girl
10. Everybody I Love You
 
「Deja Vu」以外で聴いておくと良いCSN&Yのアルバム
(3人以上が参加しているもの)   
Crosby, Stills & Nash (1枚目のアルバム)
4 Way Street (live)

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