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「Stop Making Sense / Talking Heads」
全体のバランスを考えたあらゆるライブ・スタイルの集大成   by Ohji

 こんなタイトルがついていると、トーキング・ヘッズを良く知っている人は、意外に思うかもしれません。確かにデイヴィド・バーンの書くメロディはかなり個性的だし、歌い方も一風変わっていますが、バンドでの演奏内容はあらゆるタイプのロックンロール、リズム・アンド・ブルース、フォーク・ミュージックなど、とてもオーソドックスなアメリカン・ミュージックを基調としています。これにリズムに対するこだわりやエスノ・ミュージックのエッッセンスなどをバランス良く加えたのが彼らの音楽なのです。
 例えば1曲目の「サイコ・キラー」はどちらかというと、リズム・アンド・ブルースの要素を取り入れたフォーク・ギターをデイヴィド・バーン自身が演奏していて、途中でこれに絡むのは、テクノ風のドラム・マシーンです。
 クリスとティナが作った別ユニットの「トム・トム・クラブ」にしても、レゲエやハウスといったジャンルの単なるコピーなら、 あんな大ヒットにはならなかったでしょう。一般的なダンス・ミュージックにありがちな力強いオケは避けて、 ダブやレゲエのエッセンスを取り入れながら、オシャレな形にまとめあげています。 歌もボブ・マーリーやジミー・クリフのようでなく、あんなに気の抜けるようなソフト女性ヴォーカルなのが大きな魅力なのです。
 ト"ーキング・ヘッズの音楽の秘密は、こういう音楽再構成ワザにあるのです。 リズムだけとっても、ドラムスが8ビートで演奏している場合、ベースはキックにフレーズをあわせるか、8分音符のフレーズを弾くのが普通ですが、クリスが8ビートをたたいていると、ティナは16ビートのフレーズでドライヴ感を出すというような演奏を随所に聴くことができます。「他人と同じことを演奏する」のではなく、「今まであった音楽パーツを自分達流に組み合わせ、新しいものを創りだす」姿勢が強く出ています。
 これはオリジナル曲を作編曲するときにとても重要なコンセプトで、「他人が考えたものをフルコピー」するよりも、「自分達の好きに演奏」するよりも、勉強になり、面白い結果が出ることが多いのです。素材を元にしてどう料理するかを考えなくてはならないからです。この時、入念にチェックしたいのは、
1. 平凡過ぎないかどうか:これといった特徴がないとつまらな
いので、誰も聴いてくれない。
2. 他人にアピールできるかどうか:自分だけにしか意味の分か
らないような、独りよがりな表現方法では、他人が聴いたとき
に理解できないので、これも誰も聴いてくれない。
の2点でこれらは歌詞に関しても同じようにあてはまります。
 このライヴ・アルバムはトーキング・ヘッズの映画を録るためのライヴの音なのですが、映像の方は「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミが監督を担当しています。曲の並べ方など、なんとなくバンドの歴史を感じさせるように、弾き語りからシンプルなバンド、大人数のバンドという風に徐々に盛り上げていきます。ライヴの構成を考えるときに役立つので、音だけでなくヴィデオもぜひ見てください。
 ヴィジュアル的にはもちろんデイヴィドが圧倒的で、「サイコ・キラー」のフラフラ踊りに始まって、バカ歩き、ダボダボ・スーツなど強力ですが、“ライヴ”ということでプロモ・ヴィデオと比べると実直なリアリティを重要視しているようです。またジョナサン・デミの明かりと闇、あるいはモノクロームを基調とした映像もすばらしく、黒子のようなスタッフの映し方も効果的です。
 最後にエンジニアリングやHDレコーディング、サンプリングを担当している人は、「Remain in Light」とデイヴィド・バーンがブライアン・イーノと一緒に創った「My Life in the Bush of Ghosts」もぜひ聴いてください。キーワードは「録る時は深く考えず、曲の最後まで録っておこう。使いみちは後でゆっくり考えりゃいいさ。」です。
「Stop Making Semse」収録曲
1. Psycho Killer
2. Heaven
3. Thank You For Sending
Me An Angel
4. Found A Job
5. Slippery People
6. Burning Down the House
7. Life During Wartime
8. Make Me Flippy Floppy
9. Swamp
10. What a Day That Was
11. Naive Melody
(This Must Be The Place)
12. Once in a Lifetime
13. Genius Of Love
14. Girlfriend Is Better
15. Take Me to the River
16. Cross-Eyed And Painless
17. Cities
18. Big Business / I Zimbra


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