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「Bring the Family / John Hyatt」
セーノで録音する前に聴いておこう!!
by Ohji

 最近ではあらゆる音楽でコンピュータで作ったオケが使われていて、ごく当たり前のことになっています。使い勝手もどんどん便利になり、普段コンピュータを使っていない人でも音楽では打ち込みができるというのも、普通のことになってきました。

  Net-Sproutに送られてくるデモテープの中にもヴォーカル、作詞、作曲、打ち込みをすべて一人で行っている人が少なくないし、ドラムは一番カンタンに打ち込みが出来るので、ユニットでメンバー内にドラムを演奏する人がいるということはまずありえません。バンドの中にもドラムがいなかったり、ベースがいなかったりという人たちが増えてきて、どこまでがユニットで、どこからがバンドかという境界線はあやふやなものになっています。
 だけど、一方ではインディーズ・ブームも落ち着いて、バンドで演奏するということが比較的気軽なものになってきたので、バンドで演奏できれば、けっこう無理のない価格でデモテープを録音してくれるスタジオも増えてきました。打ち込みリズムから始めて、打ち込みベースを録音し…というような録音方法に対して、バンド形式でメンバー全員が音を出し、一気に録音することをセーノなどというのだけれど、今回はこういったバンド形式によるレコーディングについて考えてみましょう。
 通常レコーディングする場合、まず最初にリズム録りと呼ばれるベーシックトラックの録音をします。ベーシックという位だから、ここで曲の骨組みをしっかりと確立しておかなくてはいけません。ドラムス、ベースに加え、コード感が分かりやすい楽器を1トラック位はベーシックトラック録音内で最終的なものを録っておく必要があります。

  他にグルーヴに強く影響するパーカッションや打ち込みのリズム楽器があるなら、それらもこの時点で録音します。
 この時、ヴォーカリストも一緒に歌い、録音はするのですが、このヴォーカルをそのままOKにする(つまりCDで使用する)ということはあまりありません。一般的にこの時点では管楽器やヴァイオリンなどの弦楽器は録音しません。バンド内にそういった種類の楽器を演奏するメンバーがいる場合は一緒に演奏すると思いますが、これもヴォーカルと同じで、そのままOKテイクになるということはあまりないと思います。

 ベーシックトラックは1日2曲、多くて3曲程度のペースで録音するのが普通です。10曲入りCDを制作するなら、ベーシックトラックだけで4〜5日かかることになります。
 次に楽器のダビングと歌入れの段階に入ります。なぜダビングと歌入れを平行してやるかというと、ヴォーカルは声の状態が悪くなってしまうとすべてがパーになってしまうので、1日にレコーディングする時間をなるべく短い時間に抑えるためです。ただこういった配慮をするかどうかは、ヴォーカリストによってずいぶんとマチマチで、例えばお酒を飲むようなお店で長く下積みしていたタイプの人には飲んで歌うひとも多い為、普段から声がざらついた感じで、長時間歌い続けてもあまり声の質が変わらないという人が良くいます。

  ダビングの方ではソロや管楽器、弦楽器はもちろんのこと、リズム録りの時にあまり出来の良くなかったトラックの差し替え、シンセやレアなキーボード、バッキングヴォーカルといったようなものも録音します。時間的には場合によって変わってくるけれども万全を期して、歌入れが1日1曲で、予備日を1日設けて11日間というのがベストでしょう。
 こうして音が全部入って、「カンパケ」と呼ばれる状態になったら、いよいよmixに突入します。お金を節約するとしても、1日2曲が限界だと思いますから、全部で5日に予備として1日用意して、6日といったところでしょう。
 と普通のレコーディングなら半月はかかってしまうのですが、今回紹介するアルバムは最初から最後までをたった4日間で終えてしまったという超ハイスピード・レコーディング・アルバムなのでした。このCDにはリズム・セクション入りが8曲、弾き語りタイプがアコースティック・ギターとピアノが1曲ずつで計2曲入っているので、普通ならかなり急いで進めても、ベーシックトラックの録音だけで4日はかかってしまうワケで、いかに能率の良いレコーディングだったかが分かってもらえることでしょう。

  それもそのハズ、ヴォーカリストのジョン・ハイアット以外の3人は60〜70年代からずっとスタジオ・ミュージシャンやプロデューサーとして活躍し続けている超ベテランつわものミュージシャンたちなのでした。
 ギターのライ・クーダーはローリング・ストーンズのアルバム「Let It Bleed」と「Sticky Fingers」のレコーディングに参加していて、その時キース・リチャーズがライ・クーダーのフレーズをパクって曲を書いていたというのがあまりにも有名な話なスライド・ギターの名手。ナルホドこのアルバムを聴いていても、この人が2小節弾いたものを繰り返したら、1曲できてしまいそうなリフの応酬です。

 スタジオ・ミュージシャンとしても、エリック・クラプトン、リトル・フィート、ドゥービー・ブラザース、ジェームス・テイラー、ジャクソン・ブラウン、ヴァン・ダイク・パークス、ランディ・ニューマンと大物アーティストのレコーディングに参加している彼ですが、メキシコ音楽とのミクスチュアやハワイの音楽などを研究して自分のモノにしていく姿勢はみならいたいものです。
 ベースのニック・ロウは70年代前半にブリンズレー・シュワルツというパブ・ロックの元祖みたいなバンドに在籍していたのですが、本領を発揮したのはこのバンドが解散して、新しく設立したStiffレコードでプロデューサーを始めてからでした。グラハム・パーカーとルーモアに始まって、ダムド、プリテンダーズ、ドクターフィールグッドなど数々のCDをプロデュースしています。

 その後、ロックパイルというバンドを結成したり、ソロアルバムを何枚も発表したりしていますが、ベーシストとしては大変落ち着いた、まわるようなグルーヴが特徴で、アップテンポの曲でもホット過ぎてまとまりのない演奏になるというようなことがありません。オリジナル楽曲に対してどういうフレーズをつけたらいいのか分からないというベースの人は一度彼の演奏を聴いてみた方が良いでしょう。その時、他の楽器特にキックとスネアとどのように絡んでいるのかを良く聴いてみてください。あるいは故意に絡まなかったりというようなこともあるはずです。
 ドラムスのジム・ケルトナーはソロになってからのビートルズの各メンバーのアルバムやミック・ジャガーのソロなどで有名なセッション・ドラマーで、音楽の幅が広く、演奏内容もそのセッションによって驚くほど違います。他に参加したアルバムのアーティストをちょっと書くだけでも、エリック・クラプトン、リンダ・ロンシュタット、ロッド・スチュワート、ボブ・ディラン、ジョニ・ミッチェル、アート・ガーファンクル、BBキング、ブッカーTジョーンズ、ジャック・ブルース、ミッシェル・ポルナレフ、バーブラ・ストライサンドと多岐多様なジャンルに渡って仕事しています。

 彼の場合は演奏内容もいろいろですが、細かい部分を丁寧に演奏する人なので、短いフィルの入り口のロール一つとっても勉強になると思います。また彼のスティックは通常のものより長く、離れた場所からでも動きが見やすいので、演奏するところを見ることのできるチャンスがあったら、ぜひ見ておいた方がよいでしょう。ジョージ・ハリスンのバングラ・デッシュのコンサートがDVD化されれば、それがベストなのですが。
「Bring the Family」収録曲
1. Memphis in the Meantime
2. Alone in the Dark
3. Thing Called Love
4. Lipstick Sunset
5. Have a Little Faith in Me
 6. Thank You Girl
 7. Tip of My Tongue
 8. Your Dad Did
 9. Stood Up
10. Learning How to Love You


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