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ジプシーバイオリンと映画「オーケストラ!」

 脳 のMRI検査を受けに新宿へ行く。意外に早く終了し、次の打ち合わせまでに少し時間があったので、新宿ディスクユニオンのクラシック館まで足を伸ばす。渋谷のHMVが閉店するというニュースが流れたのは少し前だが、まぁ、エイチの商品群は、少数化、高齢化していくばかりのCD需要予測を予期せぬ、または信じたくない人がやっているとしか思えないヒドい品揃えだったから驚かなかったが、聞くところによれば、タワーもエイチ同様の本社一括注文管理システムになるんだとか・・つまり新宿9Fや渋谷5Fで見られるユニークな店員セレクションがなくなるということ・・・そうであれば、タワーも早晩エイチと同じ運命をたどるだろう。するともうCDショップとしてはディスクユニオンしか残らないということだ。

 そ んな新宿ディスクユニオンクラシック館は平日のお昼だというのに(いや!だからこそというべきか)おじさんたちでかなりにぎわっていた。そんな中、中古の輸入DVD「EMI CLASSIC ARCHIVE イブリー・ギトリス」を発見し即座に購入する。たったの1200円也。

 な んで急にそんな古いクラシック映像を?と思われるかも知れないが、実は、映画「オーケストラ!」で実際にヴァイオリンを弾いているのは誰なんだろうということがずーっとひっかかっていたからなのだ。映画の感動的なラストシーンに涙しながらも、決してオーソドックスはない、むしろどこかジプシーっぽいサウンドだなぁと思っていた。それはあの映画のストーリーに多分に影響されていただけかも知れない・・・だが「ジプシーバイオリン」といえば「イブリー・ギトリス」(写真左)しか思いつかず、しかしさすがにもう90才近い高齢の筈である。まさかね、でも、では誰なの?と言われても解らなかった。ギトリスがチャイコフスキーのコンチェルトを弾いているこのDVDを店頭で発見したとき、急にそのことを思い出したのである。

 画 像は1965年頃のモノクロ、モノラルのライブ演奏(会場は偶然にもパリ!)だが、あの映画で聴かれる演奏と同じく、力強く歯切れの良いリズム、疾風怒濤のテンポ、オケに挑みかかるかの様なアグレッシブさ、かと思えば第2楽章ではガクッとテンポを落とす大胆さ、当然ながらのウルトラ超絶技巧・・なのにボトムにはなんともいえない「哀しみの疾走感」が強烈にドライブしている素晴らしいチャイコフスキーにブラーボ!ブラーボ!



 イ ブリー(ちなみにイブリーとはヘブライ語で文字通り「ヘブライ人」という意味だそうである)は東欧系ユダヤ人。イスラエルに生まれた彼はその後パリ音楽院に行き、巨匠「ジョルジュ・エネスコ」(写真上)に師事している。「エネスコ」と言えば、ルーマニア生まれの大バイオリニストであり、指揮者であり、作曲家だった。その作曲にあたっては、故国「ルーマニア」の民族音楽に題をとった。

 そ っか、「ギトリス」は、ジプシー音楽が盛んなルーマニア出身の師匠「エネスコ」の影響で、あのユニークな奏法を身ににつけていったのだ。もちろんそれには自らも、迫害に会い続けたジプシーと同じ東欧系ユダヤ人だということも大きく関係しているに違いない。

 実 はあの映画を見たあと、家にある女流バイオリニストのチャイコフスキーを片っ端から聴いた。「チョン・キョン・ファ」、「アンネ・ゾフィー・ムター」、「ナージャ・サレルノ=ソネンバーグ」、「ヴィクトリア・ムローヴァ」・・・どれも素晴らしいけど、映画で聴かれる奏法とは違って至極真っ当、というかぬるくゆるくしか聴こえてこないのだ。

 だ が、この画像で見られ、聴かれるギトリスの奏法は、まさに映画「オーケストラ!」で見る「ジャケ」のように、いやその映像がモノクロだからか「ジャケ」の母「レア」が弾いているかのごとく、切ればボワッと血が噴き出るかのような烈しい演奏に見えてくるのである(あくまでそんな気がするということですが、それが何か?)

 と ころで、今日、ネットで「オーケストラ!」であちこち検索していたら、ついにあの映画でヴァイオリンを弾いている人の名前がわかったのである!

 その女性の名は「Sarah Nemtanu」・・・「サラ・ネムタヌ」とでも読むのだろうか???そのサラさん!なんとあの名門オーケストラ「フランス国立管弦楽団」の主席ヴァイオリニスト・・・つまりバンマス(バンミス?)なんだそうである。なるほどね!そりゃ、あのスゴ腕ヴァイオリンもトーゼンですわな。

 彼 女のことをもっと知りたくてウィキペディアを観たのだが、フランス語なので、どういう人なのかまったくわからない。わからないが、「ネムタヌ」なんてまるできいたことの姓である。フランス人でもイギリス人でもドイツ人でもなさそうだ。写真を見る限り黒髪だし、どこか東欧人のような雰囲気である。

 そ こで試しに”NEMTANU”だけでネット検索してみることに・・するとほとんどのホームページがブカレストに置かれているではないか?そんだけたくさんのネムタヌさんがいる「ブカレスト」は、もちろんルーマニアの首都である。あのチャウシェスクのル−マニア!コマネチッ!のルーマニア!

 そのルーマニアといえばハンガリーとともにジプシー音楽の揺籃の国である。

 さ きのエネスコもルーマニアの生んだ大ヴァイオリスト。おそらくこのネムタヌさんもその出自にルーマニアがあるに違いない。その証拠に彼女には「Gypsic」というCD(写真右)がある。当然にジプシー音楽だけを集めたものである。早速アマゾンで購入しようと思ったが売ってない!そこで今回生まれて初めて、ダウンロード購入にトライしてみた。フランスの超一流管弦楽団の主席ヴァイオリニストによる民族音楽集。これはまた実に品の良いジプシーバイオリン音楽大集合である。そういえば昔から「ツイゴイネルワイゼン」(意味はジプシーのメロディ)が大好きだった俺・・

 ル ーマニア生まれのエネスコに師事し、その影響を受けたギトリス、そのギトリスの音楽によく似たバイオリンを弾く、映画「オーケストラ!」のソリスト「ネムタヌ」!

 すべてが、ジプシーとルーマニアをキーワードにして一本に繋がった日であった。


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