前のページへ 次のページへ 「エートス」こいて、もぉ〜!トップへ Net-Sproutトップへ
“トニパキ”の息子〜Elvis Perkins in DearlanD

 “  トニパキ”ってあの「アンソニー・パーキンス」(Anthony Perkins 写真右)のこと?って思われたあなたは僕と同世代の「アラカン」(アラウンド還暦をこう呼ぶそうな)ですよね?

 “  トニパキ”は、ヒッチコックの「サイコ」で有名な俳優さんで、僕が小学生の頃は映画雑誌「スクリーン」の人気投票でも常に男優部門の上位だった。確か「小森のおばちゃまヨ」も大ファンだったはず。

 そ の彼に、キング・オブ・ロックンロール「エルビス」の名がつけられた息子(写真中)がいて、素晴らしい音楽を作っていることを教えていただいたのは、アメリカーナに関する情報をたくさんお持ちのマイミクの「matsuda76」さん。なんといってもアマゾンで1000枚以上のCDレヴューを掲載(しかもほとんどはアメリカ中南西部の音楽)している強者である。

 そ の日記にエルビス・パーキンス(Elvis Perkins)の動画が掲載されているのを拝見して、即アマゾンで購入したのだが、これが聴けば聴くほどに心に沁みるのである。

 声 も楽曲も素晴らしいけど、なんと言っても、そのアレンジが新鮮である。通常の楽器以外の多数の楽器(オートハープ、パンプオルガン、チューバ、ハーモニウム、コントラバスなど)が使用されているけど、すべてそのアレンジに必要な要素なのでしつこくない。むしろセンス満点なのでシンプルに響く。特にチューバが連続して使われる、5、6、7曲目あたりのマーチングバンド風のアレンジは、チューバ好きの僕にはたまらない。数年前、全編ジョージア州アトランタロケのマーチングバンド映画「ドラムライン」は2度も見たほどであるが、僕はマーチを聴くと元気が出るタイプではなく、何となく(特にチューバを聴くと一層)哀しくなるタイプである。

 僕 がマーチを聴くと切なくなるのは何故なのかはわからないが、イギリス民謡の「ミンストレルボーイ」もマーチ風のアレンジがほどこされたジョー・ストラマーのヴァージョン(映画「ブラックホークダウン」のエンディングで使用されている)を聴くとなぜかいつも泣けてくる。  そしてこのアルバムの底を伏流しているのも、哀しみのメロディである。

 エ ルビスの父、アンソニー・パーキンスがエイズで亡くなったのは1992年9月12日。同性愛者であることは公然の秘密であったとは言え、著名な俳優であった父のエイズ死に息子が受けたダメージはいかほどであったのか想像がつかない。だが、悲劇はそこで終らなかった。

 父 トニーの死の約10年後の2001年9月11日、エルビスの母「ベリー」(Berry)(世界的な女流カメラマン)は、ボストンからLAに向かう運命のアメリカン航空機11便の乗客となり、あの日最初に貿易センタービルに突っ込んだ同機とともに一瞬にしてこの世から消え去った。  遺体を確認できないままに、母の死を受け入れるのはさぞかし理不尽なことで困難であったろう。

 エ ルビスはこの事件の後、自身の初めてのアルバム制作を開始している。完成に4年を要したというそのデビューアルバム(Ash Wednesday)は未聴だが、今回のアルバムはその二作目にあたる。

 そ れはことさらに悲劇的でもなく、悲しみを煽る要素とて一つもない、ごくごく普通のアメリカーナミュージックなのだが、「哀しさ」がそくそくと僕の心の奥襞にまとわりついて離れない。おそらくエルビスは、この間の自らの思いを完全に昇華させ、音楽として表現しきっているので何度聴いても飽きることがないのだろう。胸は一杯になってもお腹は一杯にはならないのだ。。

 と ころで、このセカンドアルバムのタイトル「ELVIS PERKINS IN DEARLAND」(写真 左 アルバムタイトルであると共にバンド名でもある)とはどういった意味だろうか?  DEARLAND・・・辞書を引いても出てこない。思うにこの後半の単語「DEARLAND」(あえて訳せば 親愛なる大地)は造語ではなかろうか?

 僕 の音楽業界人生は1976年、RVCというレコード会社(現・BMG)への入社で始まったのだが、同期入社に「M田」君がいた。彼は、どうしても演歌体質から抜け出せないRVCに嫌気をさし、社内に自らのレーベルを作ることに成功する。所属のアーティストは「エポ」「大貫妙子」「鈴木さえ子」。そのレーベル名は「DEAR HEART」(ディア・ハート)だった。

 の ちに「M田」君から、新レコード会社「MIDI」への参加を求められたとき、色々な話をした後「ところで“ディア・ハート”の意味は何なの?」と長らくの疑問をぶつけてみた。

 「 DEAR HEART・・・まず“HEART”は分解すると、最初の4文字は“HEAR”で「聴く」、真ん中の3文字は“EAR”で「耳」、後半の3文字は“ART”でこれは「アート」、そして全部で“HEART”すなわち「心」・・・耳で聴く心、それがアートでありハートである音楽・・・とかいった意味づけかな。それを「親愛」「DEAR」する、ここにも「EAR」(耳)がかくれている。もちろん造語なんだけどね。」

 エ ルビスがみずからのバンド名に「DEARLAND」という造語をつけたとしたら、それはどういう意味を含めたのであろうか?

 L AND・・・様々なものを生み出すガイアであり、すべてを飲み込むプルートを孕むもの・・・母を産み、父を産み出し、再び飲み込んでいった大地。

 こ の世には正解のない設問が圧倒的に多いが、その理不尽さを含めても、尚「ELVIS PERKINS」は、この「すべてを生み出す」大地「LAND」を親愛のアティチュード(DEAR)を持って生きていく、そういう意味がこめられているのではないだろうか。


前のページへ 次のページへ 「エートス」こいて、もぉ〜!トップへ Net-Sproutトップへ