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グラミーを超えるアルバム

 ア リソン・クラウス/ロバート・プラントの「レイジング・サンド」は2年連続のグラミー受賞であると先のコラムに書いた。つまり2007年度の発売である。

 では、2007年度の「マイ・ベストテン」において僕はこのアルバムをどこにランキングしていたのだろう?。

 お 〜〜、そこでは、このグラミー「ベストアルバム オブ ザ イヤー」を第7位に位置づけているではないか!

 もちろん自らの不明を恥じようというのではない。

   2007年、僕は、このグラミー受賞アルバムよりさらに素晴らしいアルバムに6枚も巡り会ったということだからだ。

 あらためて2007年のマイ・ベストテンを振り返ってみる。

 第1位 カレン・ダルトン 「イン・マイ・オウン・タイム」

   約40年程前の音源の初CD化。ボブ・ディランをして「カレンは最も好きな女性シンガー」と言わしめた彼女の1曲目「WHEN A MAN LOVE THE  WOMAN」を聴いた瞬間、背中を戦慄が走った。天涯孤独、断崖絶壁をギリギリ生きた人の歌であり、衝撃度はナンバーワン!宙づりにされた孤独な世界に絶句!音楽の世界遺産があれば真っ先に登録されるべきである。

 第2位 リヴォン・ヘルム 「ダート・ファーマー」

 とにかく、満身創痍とはいえ、なんとか故郷アーカンサスに帰還したリヴォンの最新作は、一掬の甘味も塩味も入っていない、それなのに滋味と栄養にあふれた、実にしみじみとしたキング・オブ・ルーツミュージック!リヴォンは自らを「ダート・ファーマー」(貧しい農夫)に比定したが、その反対語は「ジェントル・ファーマー」(豪農)・・・どうやらロビー・ロバートソンとの確執がとけることはなさそうである。作年発売された30年前の音源「リヴォン・ヘルム & RCOオールスターズ」のファンキーなライブアルバムともども人類の宝物が増えた。

 第3位 ライ・クーダー 「マイ・ネーム・イズ・バディ」

 よわい60を迎えられたライさん・・・この夏、偶然このアルバムの解説を翻訳された友人の奥様にサンプル盤を頂いたのだが、いやはや驚いた!なんという歌心!しかもほぼ全曲自作自演!リヴォン・ヘルム同様、世界を長く旅してきた彼もまた、僕らに真実を伝えるために還ってきてくれたようだ。ラスト2曲はいつ聴いても涙があふれる。これをきっかけに入手した最近のライさんの「チャベス・ラヴィーン」や「ネヴァー・ターン・バック/メイヴィス・ステイプルズ」におけるプロデュースワークはすでに神技、というかこの3部作はどれも神域に達しておられました。

 第4位 ルシンダ・ウィリアムス 「ウェスト」

   「CAR WHEELS ON A GRAVEL ROAD」(1998)、「ESSENCE」(2001)、「WORLD WITHOUT TEARS」(2003)と僅か6年の間に立て続けに3作の傑作アルバムを発表したのに、さらにそれら以上の次元に上っていけるとは姐御はやっぱりただもんじゃありまへんな!でもそれもやはりハル・ウィルナーの魔法のプロデュースがあってのことのようだ。ビル・フリゼールのギターも全開だったし、グラミーノミネートも納得の一枚。またハル・ウィルナーは、パイレーツ・オブ・カリビアンのイメージアルバム「Rougue'sGallary〜Pirate Ballads,Sea Songs & Chanteys」という素晴らしい海賊盤(もちろん正規盤である)もプレゼントしてくれた。

 第5位 ガーフ・モリックス 「ダイヤモンド・トゥ・ダスト」

 昨年行われた日本でのライブを見て落涙。親友が酒場で刺殺されたり、盟友に裏切られたり、散々な人生を生きているかのような彼の最新作のテーマは「白化した骨」。アルバム全編に哀しみが白化し氷結した「氷の世界」・・・安藤広重の氷雪の世界が描かれた浮世絵「蒲原」の中で菅笠をおさえながら深々と降り積む雪の中を進む男ガーフの「白化」した絶唱の世界に瞑目。

 第6位 ティナリウェン 「アマン・イマン」

 4年ほど前偶然ライブを見て、その大地と直結したかのようなグルーブと美しい民族衣装にこころ奪われた彼らの、まさに「砂漠に蒼きブルースが吹き荒れた」快作。来日がエブライムの病気で中止になったのがかえすがえすも残念。

 彼 らはサハラ砂漠の遊牧民『トゥアレグ族』である。そのかれらの象徴である「蒼き衣装」をいち早く自作「風の谷のナウシカ」に取り入れたのは日本の天才監督「宮崎駿」

日記の最後に僕はこう書いていた。

 『木々を愛で 虫と語り 風をまねく 鳥の人。
  その者 青き衣をまといて 金色の野に降りたつべし。
  失われた大地との絆を結ばん。』
      〜from「風の谷のナウシカ」コミック版

 アルバムタイトル「AMAN IMAN」とは「水こそ命」という意味だそうだが、砂漠に生きる放浪の部族の言葉ゆえに説得力がある。少なくとも「自らも加害者である」との視点を欠くアール・ゴアの「不都合な真実」より真実味がある。

 第7位 アリソン・クラウス & ロバート・プラント 「レイジング・サンド」

 L.A.の大アルケミスト「T・ボーン・バーネット」の奇跡のようなプロデュースによって突如この世に出現したいまだかってない音楽。マーク・リーボウ(ギター)とジェイ・ベルローズ(ドラムス)という秘密の触媒を使って完成した天下無敵の超合金の誕生を素直に喜ぶ。またアリソン嬢は、「ア・ハンドレッド・マイルズ・オア・モア」というグラミーノミネートを含む未発表5曲と、これまであちこちに散逸していた客演を集めた、コンピレーションとはこうあるべき!という素晴らしいアルバムを届けてくれた。ラウンダーレーベルの手抜きのないお仕事に感謝!

 第8位 ジョリー・ホランド 「スプリング・キャン・キル・ユー」

 僕は、この「ジョリー・ホランド」と「エイミー・アリソン」、「アイリス・ディメント」の三人を「アメリカの日吉ミミまたは平山三紀」と呼んでいる。それほど特徴のある声。もちろん、変な声大好きの僕のことだから彼女らの新譜が出れば試聴することもなく購入するが、この彼女自身の3枚目のアルバムは素晴らしい完成度。相変わらず歌の世界からかすかに死の匂いがする。だが、それは決して死臭ではない。死の影の匂い・・・影に匂いがある筈はないのだが、そんなあり得ない匂いを感じさせるところにスッカリやられてしまう。「トム・ウェイツ」が彼女の大ファンだというのもむべなるかな。おそらく「ノラ・ジョーンズ」の1000分の一も売れていないと思うが、僕にはノラちゃんの1000倍以上もグッと来る歌の世界であった。

 第9位 イライザ・ギルキーソン 「ユア・タウン・トゥナイト」

 アリソン・クラウスをラウンダーレーベルの歌姫というなら、さしずめ、イライザは、レッドハウスレーベルの歌姫である。もはや姫と呼ぶのは、ばかられる57才の大ベテランであるが、50才をすぎてから怒濤の勢いで傑作アルバムを発表し続けている。

 今回のアルバムは、彼女の初のライブアルバムであるが、これまでの名作群から、特に僕の好きな楽曲が収録されているのでマイベストアルバムのようでもあり無性に嬉しい。静かな歌い口ではあるが、ブッシュに敢然と抗議する厳しい内容の歌詞は痛快である。同時期に発売された彼女のライブDVDも、必見。ラストでお孫さんをステージ上から発見してはにかむシーンには思わずこころがホッコリする。

 第10位 ダニー・フラワーズ 「トウールズ・フォー・ザ・ソウル」

 これまで全く知らなかったシンガー・ソング・ライターの2作目。これがまるで絶好調時のレオン・ラッセルの再来か!と思わせるような実にスワンピーなアルバム。こころの奥底まで引っかき回されるかのような歌に胸がワラワラする、酒とクスリに溺れながらも、ひた向きに生きてきたギタリストの魂の叫びと真摯な宗教的霊感に満ちた傑作CDなのでした。

 「レイジング・サンド」が何度グラミーを受賞しようがしまいが、やっぱり、この順位に変わりはないのである。


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