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オバマとグラミー

 期 せずしてオバマ新大統領の就任式の直後に行われることになった第51回グラミー賞の「ベストアルバム賞」は「ロバート・プラント/アリソン・クラウス」の「レイジング・サンド」であった。昨年度のハービー・ハンコックの受賞に続くベテラン勢の受賞に「グラミー選考委員」への保守反動批判がある。

 果たしてそうなのであろうか。

 『 一口にリズムやグルーブと言っても色々あるけど、リズムやグルーブがひっきりなしにアタマでうちつけるのもどうかと思うんだよね。例えばラジオで流れるような曲って、すごくハードなのが多いような気がするんだ。“ガンガンガン!”ってね。あれじゃ、色気が半減するよね。初期のR&Bやブルースなんて、素晴らしい感性に溢れていたじゃない。ゆったりとしたフィーリング、リラックスしたグルーブがあるんだ。ビートだって今のものみたいに緊迫感バリバリじゃなくて、もっと余裕があったよね。』

 これは今月号の「リズム&ドラム マガジン」に載っていた矢野顕子の新作「akiko」についてのインタビューに答えた同アルバムのドラマー「ジェイ・ベルローズ」(もちろん、「レイジング・サンド」のドラムでもある)の言葉である。

 た とえ世界中で何千万枚のセールスをあげようが、いかに世界中のラジオから繰り返し流れようが、「アタマからリズムやグルーブをガンガン打ちつけるような音楽」にはもう飽き飽きした。それらのルーツであった筈の初期のR&Bやブルースが持っていたような「素晴らしい感性に溢れた、ゆったりとしたフィーリング、リラックスしたグルーブ」になんとかチェンジできないものか!

 グラミー選考委員の思いは、まさしくこれだったんじゃないか?

 政治的にも、世界中に銃弾や爆弾が「ガンガンガン!」と打ちつけるられることにほとほと嫌気がさした人々が、もっとゆったりしたフィーリングに溢れ、素晴らしい感性に満ちていた時代への「変革」を求めたように、音楽の世界でも同じような「チェンジ」が求められていたのではないだろうか?

 世 界中で一番売れたレコードに贈られるべきは「ベスト“セールス”アルバム・オブ・ザ・イヤー」なのであって、グラミーが贈るべきは、「最もこれからの世界に聴かれていってほしいアルバム」・・それがグラミーのベスト・アルバム・オブ・イヤー・・

 そう考えているように思えてきた。

 だとすればブッシュの8年間で失ったものをオバマの8年間で取り戻そうとする健全なバランス感覚(感覚は健全でも財政は全く不健全そうなので、オバマをもってしてもうまくいかないのだろうが)を失わないアメリカ人とグラミー選考委員の感覚は見事にシンクロしている。

 ア リソン・クラウス/ロバート・プラントに限らず、2008年はベテランミュージシャン大活躍の年でもあった。とくに異常とも言えるアメリカ中南西部のベテランミュージシャンによる怒濤の新作発表ラッシュは、「9.11」、「イラク侵攻」、とどめは「カトリーナ台風」の影響がいかに大きかったかを物語る。

 まさしく「すぐれた音楽は意図せずとも時代を写し込む」

 土壇場にくるといつも絶妙のバランス感覚を取り戻すアメリカ人とは、つくづく不思議な人々である。


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