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イタリアで迷子になり、そして猪を轢く 最終章

 迷 走はここから始まった。まずなかなかシエナにたどり着けない。シエナへの標識はたくさん出ているので、一番効率のよい出口で降りようと思っているうちに通り過ぎてしまったのだ。だがフリーウェイなので簡単にUターンできない。ひとまず最初の出口で降りて道を探すことにする。とにかく逆方向に戻らなければならないのだが、その入り口がどこかがわからない。結局ここでなんだかんだと1時間ほど迷う。

 最 後はやはり人に訊くことにする。しばらくするとガソリンスタンドとマクドナルドが一緒になっている場所があった。マック?ひょっとしたらアメリカ人がいるかもしれない。そうだアメリカ人を探そう!だがアメリカ人とイタリア人との区別がつかない。当たり前だ。とにかくガソリンを入れている若物をつかまえて「イクスキュイーズミー。ドゥーユースピークイングリッシュ?」と訊くと「シュァー、アイムアメリカン」「ワオー、リアリー?ウィアーロスト!」というと「ウィーツー」『はぁ〜〜、あんたらも迷子なの??』

 彼 らも道に迷っていてイタリア人を捕まえてなんとか道を訊こうとしていている最中だったのだ。そこで彼に「ところでどこへ行くの?」と訊くと「モンテヴェルキ」であると言う。お〜、ガイオラはそのモンテヴェルキ(プラダのアウトレットとイタリア一のキャンプ名所で有名)に行く途中にあるのである。大ラッキー!ようやくそこへの道を聞き出したようだ。ぼくらもその情報のおこぼれにあずかることになった。やれやれ『サンキュ〜 アンド グッドラック』

 だ が、そこで訊いた道に行くつもりなのだが、どこでそのルートにのればいいのか、標識を瞬時に読んでジャッジしなければならないのに、標識が暗い!しかもアルファベットを一瞬で判読できない!日本語なら「仙台」の仙の字が見えれば「ここだ」と判断できるのだが、これができない。またもや降りるべきところを通り過ぎたようで再びフリーウェイを降りる。

 も うずいぶん暗くなっている。人通りもじょじょに少なくなっている。もう一度地図を見るが、いったい今どこにいるのかがわからないので、意味がない。とにかく「シエナ」に行きえばなんとかなる筈だ。しばらく走るとお店が見えてきた。入るとコーラやパンを売っているコーナーがあり、そこの女の子に訊いてみる。まったく英語が通じないが、地図を見せて、シエナにはどう行けばいいのか、を聞いているのは理解してくれたようで、Uターンしろ、と言っているのがわかる。とにかくこうなったら自力救済しか方法がない。「よっしゃ!とにかくユーターンしてシエナの標識を探そう!」

 じ ーっと目をこらしていると、あった!SIENAの文字が!「あったど〜〜」やれやれ。やっとの思いでシエナの市街地に入ることができた。ほっ!

 だが、すでに8時。もともとが小さな中世の街である。この時間帯ではさすがに極端に人通りが少ない。

 ど こかに「ガイオラ」か「モンテヴァルキ」の標識がないか、ぐるぐる市内を回るが、なかなか見つからない!あちこち走り回っているうちに、やたら日本の進入禁止と同じ様な標識を目にするようになった。「あれっ、俺ら、ひょっとして一方通行を逆行してる?」だが、もうどうしようもない。捕まったらどうしよう!(って運転しているのは僕ではないが)ビクビクしているうちに向こうにホテル発見。車をとめてホテルに入ると、英語が通じる支配人が出てきた。配偶者は英語が話せるので、ここぞとばかりに聞きまくる。「よっしゃぁ、わかった!駅だ、駅!とにかくシエナの駅に行けばそこからは一本道よぉ〜!簡単よぉ〜ホホホ」と叫ぶ配偶者。すぐに車の向きを変えて出発。だが今度はシエナ駅が見つからない。ホテルから駅はすぐの筈なのに・・・ほとほと疲れてくる。

 ど うやら方向性はあっているような気がするが、もはや完全に自信喪失状態である。またもや何かの店の前にたむろしてる若者二人に尋ねる。すると一人が比較的英語が話せる。「う〜〜ん、たぶんこの道をまっすぐ行けば、右手にガイオラ行きの標識が出てくると思う。ルート408は一本道だからその道をまっすぐ行け」と言う(多分)ヘロヘロになりつつノロノロ標識を探しながら行くと「ガイオラはこちら」の標識を発見『あったどぉ^^^』

 そ こからは本当に一本道であった。だが、実は道を迷っているうちにもう一つ心配なことが起きていたのである。それはふと気づけば、何か警告灯らしきものがダッシュボード上にずーっと点灯しているのだ。アルファベットの「i」のマークが黄色く輝いている。なんだろう??不安になる。途中でレンタカー屋に電話するがわからないという。ここからは街灯もない、真っ暗な山道である。途中で何かあったらどうなるのか?JAFなんて外国では意味がないだろうし・・ひょっとするとこのまま一生日本には帰れないかもしれない。マジでそう思い始めた。

 だ が、警告灯はつきっぱなしだが、とにかくガリオラに向かっているのは確かである。だが、対向車もこない。ついてくる車もいない。ひたすらライトを上向きにして走る。すでに10時をすぎている。焦る。

 そして「ついに今日のその時はやってきました」(@NHK「その時歴史は動いた」の松平さん)

 少 し見通しのいいところだった。ライトの向こうに何やら白いものが道に横たわっているように見えた。

 「な、何!あれ!何よぉ〜〜〜??何なの〜〜っ!」
 「わ、わからん、ネコだ!」
  ネコ??だが、だとするとそれはそれできわめてヤバい!

 な にせ我が家はネコ一家である。すべてはネコを中心に回っているネコセントリックファミリーといっても過言ではないのだ。家に3匹、外ネコも2匹飼っているし、何より日頃から配偶者には「もし万一ネコを轢いたら、私は、その場で死にますから、後はなにとぞよろしく!」と遺言されているのである。幸いもこれまでそういうことは起きていない。

 だ が、なんということだろう、異郷の地でネコを轢いてしまうことになろうとは・・二人とも硬直したまま呆然としていると、そのネコはどんどん近づいてくる。だがネコにしてはデカい。デカすぎる!しかもクルンとした牙がこちらを睨んでいる!イノシシだ!気づいたときはそれはもう目の前にいた。道幅いっぱいにそのチンギアーレは横たわっていた。フォードギャラクシーの車体が一瞬、「グアァ〜ン」という音と共にふわりと空中に浮いた。

 轢 いちまった。もちろん、すでに死んでいたチンギアーレだったけど・・・

「・・・・なかったことにしよ!」
「・・・・・・」

 「 風と共に去りぬ」のスカーレットではないが、「明日考えることに」して、二人とも何事もなかったかのように沈黙したままひたすらガリオラを目指した。するとはるか山の向こうにボヤーとした明かりに照らされた建物が見てきた。

 「あったどぉ〜〜」

 や っと、「ガイオラ イン キャンティ」に到着。と思ったが、その建物が見えなくなった。あれぇ・・先ほどから何度も甥っ子君の携帯に電話するのだが、ほとんど通じない。イタリアは電柱がなくて本当にきれいだな、と思っていたが、それだけ携帯の中継点が少ないということでもある。なにかあっても携帯があればなんとかなる、と考えていたのが甘かった。100回に一回も通じない!

 近 くまで来ているのはわかっているのに最後の最後の直前でまたもや迷う!

 だが、行ったり来たり引き返したりウロウロしていると、目の前に一台の車が駐車するではないか。こんな時間に胡乱なやつ??いやいや胡乱も何もない!すっとんでいってその胡乱君に「このホテルはどこでしょう?」と聞く。少し英語ができるイタリア人で幸いであった。「そこに見えている十字路を左に行けば200メートルでそのホテルであるぞよ」とのたまう(多分)「グラッチェ!」

 つ いにたどり着いた。11時をすぎていた。サン・ジミニャーノを出てから6時間。ぼろぼろになりながらチェックインして無言のまま二人でレストランに行く。腹ぺこである。甥っ子君が心配して待っていてくれた。だがキッチンはすでに閉まっているので当然に食べるものはない!とにかくテーブルに残っているワインをがぶ飲む。うまい!

 1 2時過ぎ部屋に戻る。そうだ、さっき買ったチンギアーレのサラミとワインとグラッパがある。それを食おう!(なにせチンギアーレを轢いたことはなかったことになっているのだ。そのことは明日考えることにしている。だから今日はいいのだ)

 だ が、部屋にナイフがない!さすがに怪力を誇る我が配偶者の握力も歯がたたない。「ちょっと探してくる」と言い残して配偶者が消えた。しばらくすると「ピンポーン」とチャイムが鳴る「あけて〜〜」ドアをあけるとナイフを握りしめた彼女がぼぉ−−っと突っ立っていた。

 どこにあったの?

 キ ッチンに忍び込んでガメてきたのさ!まだ中に人がいたから気づかれないように中腰のままズリズリ包丁のあるところまで行って一本がめてきたんだよぉ〜〜!何かご不満かい?

 ご不満はありまへん!!

 誠 に頼りになる配偶者である。

 もちろんイノシシのサラミは死ぬほど旨かった。ワインもね!

 チンギアーレ!永遠なーれ!そう叫んでベッドに倒れ込んだ後の記憶はない!


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