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雀四重奏団〜バンジョー・ミーツ・チャイナ

 前 回のコラムに書いた「ベン・ソリー」(BEN SOLLEE)がそのメンバーの一員である「SPARROW QUARTET」を聴く。

 驚いた!いや、ウソ!もう驚かない。ベラ・フレック周辺というか、若手ブルーグラス周辺は、すんごいことになっていることが十二分にわかったから。

 確 かにチェロの存在には、もう驚かない、でも今回は、なんと中国なのだ!やっぱり驚いた。メンバーの女性ボーカル & バンジョー「アビゲイル・ウォッシュバーン」(ABIGAIL WASHBURN)は長年中国文化にはまっているらしく、中国語も堪能。

 このアルバムにもたくさんの中国(っつーか、チャイナ)が詰まっている。中国語の歌もたくさんあるし、中国で採取した(北京のタクシーの運転手に聞いたらしい)メロディに英語詩を載せたものや中国滞在時にインスパイアされてつくった曲など。でもこれがチェロ、フィドル、バンジョー2丁と、中国に縁もゆかりもない楽器で弾かれているのに何の違和感もない。

 考 えてみれば、ゴールドラッシュの昔からアメリカには数多くの中国移民がいた。だから西部劇に中国人が登場しないのは史実からすればおかしいのだが、その後の大陸横断鉄道の建設にも多数の中国移民が参加している。その西へ西へのフロンティアが太平洋に達した時、そのどんづまりのLAにチャイナタウンが誕生したのにはそういう理由がある。だがアメリカのフロンティアスピリッツ(西漸性)はそこで終らず、ハワイを属州化し、それでも飽き足らずフィリピンを植民地化する。そして中国を属国化したのち反転し東に漸進しつつあった日本と真正面からぶつかり覇権を争ったのが、さきの「太平洋戦争」である。 

 そ の戦争で原爆2発をもって日本を折伏したアメリカは、1960年代に入ると、ついにアジア大陸を蚕食し始める。ベトナム戦争がそれだ。だが、これまでインディアンを駆逐し、アラモの戦いでメキシコを成敗した後ハワイ王族を滅亡させ、フィリッピンではスペインを屠り、つまり、連戦連勝、向かうところ敵なしで西に向かっていたアメリカが初めて一敗地にまみれる。

 しかもまさかジャップにはるかに劣ると侮っていたイエロー野郎ベトナミーズに負けることなど、これっぽっちも想定していなかったアメリカもさすがにしばらくの間へたり込む。

 だ がそんなことで西漸のサガはとどまらない。1990年、いきなりアジアの西、ペルシャ湾岸に上陸する。そして21世紀に入るとアジアの西の端、イラクに侵攻する。アメリカ東部からぐるっと西回りに進むスピリッツは、念願のアジアの西の果てにたどり着く。

 テロリスト擁護国家の撲滅を大義にしているが、「何はなくてもとにかく西へ」というフロンティアスピリッツの本能がそうさせただけである。

 し かし、そこから先に広がっている西部は、自らの出自であるヨーロッパ大陸そのもの、さすがにそこには侵入できない。

 だが、加速がついたアメリカの本能、フロンティアスピリッツ(しゃにむに西へ!)に急ブレーキはかからなかった。

 自 らの出自への侵出を避けようとするあまり、勢いあまったフロンティアスピリッツは大西洋を渡り、アメリカ東海岸に到達するやいなや自らの横っ腹を食いちぎり、もともとはインディアンへの防御の為に構築された文字通りの“ウォール街”の“壁”を突き崩した。

 つまるところ今回のアメリカ発の世界恐慌とは、「地球は丸い」ということを忘れたアメリカのグローバル(地球の意)主義=フロンティアスピリッツの自業自得なのである。

  オマヌー!

 ・ ・・っと、話がそれたが、アビゲイル・ウォッシュバーン嬢(長いからアビー嬢と呼ぼう)がなぜ中国に傾倒していったのかはわからない。だが、アメリカにおける中国は、日本におけるアメリカより親和性があるのかも知れない。

 とにかく、アビー嬢の歌が素晴らしい。1曲目「序曲」(アルバム収録曲のテーマをアレンジしてつなげた曲)の後半で聴かれるヨーデルはアパラチアンたっぷりだし、声を張って歌うところでは、ブルースがドロッと流れ出す、誠にドラマチックなシンガーである。

 6 曲目「OH ME,OH MY」では

 「NO I DON’T KNOW WHY,I DON’T KNOW WHY,
  NO I DON’T KNOW WHY,YOU LOVE ME」

 と切なくバラードを歌う。ノラ坊の「DON’T KNOW WHY」とはまるで違う、切ればピュッと血が吹き出るような真実味がある。

 ま たチェロのベンとの共作「IT AIN’T EASY」ではその返歌のように

 「I KNOW,I KNOW,I KNOW YOU
  I KNOW YOU KNOW ME TOO」

 と歌われるこれまたひときわ美しい曲である。

 “ キャリー・ロドリゲス”が「ルシンダ・ウィリアムス」を、“オイーフ・オ’ドノバン”が「アリソン・クラウス」を受け継ぐとするなら、さしづめ、こちらは「ギリアン・ウェルチ」を受け継ぐのだろうか・・・かの国の技芸の伝承は羨ましい!

 このバンドは正式には「ABIGAIL WASHBURN & SPARROW QUARTET」である。つまりアビー嬢に惚れ込んだベラ・フレックが「たのむから俺と一緒にバンドやろうぜ」と言って結成されたバンドなのだ。

 ベラを夢中にさせるのもわかるなぁ・・

 ベ ラ・バルトークからその名をもらった鬼才「ベラ・フレック」
 前回の日記に書いた驚異の天才チェリスト「ベン・ソリー」
 それに顔は可愛いが、凄腕のバンジョープレイヤー「アビー嬢」

 それともう一人のフィドラー「CASEY DRIESSEN」(キャシー・ドリーセン?)にも驚嘆した。というのはベンの映像をネットで探していたら、ベンとキャシーの二人のライブ画像があって、それを見て腰を抜かしたのだ。(最近よく抜かすけど)

 だ ってフィドルを弾きながら歌うんだもん!
・ ・・・って当たり前でしょ!アリソン・クラウスだってそうじゃん!

 違うのよ!アリソンだって、歌うときはフィドル下ろすでしょ。かれは弾きつつ歌うんですよ!フィドルは肩に乗せ、あごで押さえるでしょ!その状態(あごでバイオリンを押さえた状態!)で歌うんですよ!しかもその歌がブルージーでこれまたいいのである。
その驚異の映像は↓
http://jp.youtube.com/watch?v=1wmisbm07d0

 と にかくこのバンド「SPARROW QUARTET」なんて名乗っているけど、メンバーは雀どころか、全員、鷲と鷹と隼と梟という、鋭い鈎ぎ爪を隠し持った猛禽類による、とんでも玉川カルテットだったのだ。


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