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50!60!喜んで! 二人の「E」姐御たち〜その2

 先 週の大姐御「エミルー・ハリス」に続き、今週は中姐御「イライザ・ギルキーソン」の新譜「BEAUTIFUL WORLD」を聴く・・・・ううう、すっげぇ!

 2000年(ちょうど彼女が50才を迎えるころ)突如“レッドハウスレコード”に移籍し「HARD TIMES IN BABYLON」というアルバムで大変身をとげ、続けて2004年「LAND OF MILK & HONEY」で僕の心をザックリ抉りとっていったイライザの本年2008年発表(・・・っーか、彼女は宿敵「ジョージ・ブッシュ」の大統領選の年に新作を発表しているんだね! )の今作は、これまでの2000年以降の彼女の音楽世界の深度をより一層深めた素晴らしい作品だと思う。

 だ が、今作は、これまでの作品群とはちぃ〜とばかし趣きが違っている。それは全曲とてもテンダーであり、穏やかな曲調ばかりであることだ。一聴しただけでは、優しい雰囲気に彩られた和やかで美しいフォーク・カントリーアルバムに聴こえ、少なくともこれまでの作品群に見られるような露骨な反ブッシュ調(それらは痛烈な歌詞もさることながら、音楽的にも素晴らしいものが多かったけど)は聴かれないのである。

 そこで歌詞を探す・・・あれれ、歌詞カードがない!というかライナーノートがついてない!不良品????ぎゃぁ〜〜〜もちろん国内盤など出るはずのない彼女のCDである。英語が不得手な僕は彼女の英語詞を時間をかけて訳するしか、それを理解できない。ぶぅぅぅぅっ!アマゾンめ!めっ!

 だ が、よくよくジャケットを見ていたら「Complete liner notes and lyrics at elizagilkyson.com」と書いてあるではないか!そっか、歌詞カードが見たけりゃネットでどうぞ!というわけなのね。省資源?了解!さっそくネットで探しだす。が結局プリントアウトしたら紙が10枚になってしまい、なんだか悪い事したみたいな気分になる・・・これって最近のはやりなんだろうか?というのは、先月新宿タワーの9fで、素晴らしいジャケットに惹かれ即試聴、その素晴らしい音楽にびっくりして即購入した「KRISTA DATOR」の「COVER THEIR EYES」(写真中)もそういう仕様だったのだ。

 と にかく、苦労しながら訳してみれば(全部は理解できないけど)、その歌詞にはやっぱり、生来的に彼女が持っている激しいアメリカの政治に対する怒り(特にブッシュ!)や荒廃してくばかりの地球へのやるせない思いが、直接的な言辞ではないが、メタファーとしてタップリ詰め込まれている。

 そ もそも今回のアルバムもジャケット(写真左)からして思わせぶりである。おそらくNASAの人工衛星が撮影した夜の地球(雲がかかっていないときの写真をつなぎ合わせたもの)であるが。それを眺めているとアメリカ東部、ヨーロッパ北西部、それに日本がいかに明るいかがわかる。それに比べてアフリカの暗いこと。いまだに暗黒大陸である。ホントはちっとも「ビューティフル」ではない地球・・・そこに「BEAUTIFUL WORLD」のタイトルがかぶさる、何とも皮肉なジャケット!

 ア ルバムは1曲目から軽快なカントリーフォーク調の曲で幕開けする。イライザの口笛がのどかな雰囲気を醸し出す。

   だが、曲調とは裏腹に歌詞にはこうある。

 “ whole world’s goin up in smoke hard times comin, I ain't jokin' “
 「世界は硝煙の中に突入していった
  困難な時がやってきた
  私は少しも楽しめない」

そこで彼女は

“ just tryin to keep my heart wide open “
   「とにかく私は心を広く持ち続けよう」

“ love still makes my world go round “
   「“愛”はいまでも私の世界を回る」
と歌う。

  そこではもう露骨なブッシュ批判は姿を消しているが、その代わりに“愛”しか地球を救う道はない、とでも言いたげだ。

 2 曲目は都会の窮屈さに嵌って身動きできない人々を哀れみ、野生の森に帰ろうと歌う。そこでも初めて「私が人を愛せたとき、それは祈りより素晴らしいことであることを知った」と初めて知った愛の本質が歌われている。

 そ して3曲目のタイトルは「THE PARTY’S OVER」・・・まるで「ブッシュの辿ってきたこの8年のばかげたパーティはもう終わったのよ!」とでも言いたそう!続く4曲目では「GREAT CORRECTION 」(大いなる矯正)がやってくると歌っている。

 タ イトルチューン「BEAITIFUL WORLD」それにラスト曲「UNSUSTAINABLE」共に雫が滴り落ちるかのような実に美しい曲だが、モデラートな曲調に拘らず、ポリティカルな言説は相変わらず健在である。

 また半数の曲でギターを惹いているのは、イライザの実弟「トニー・ギルキーソン」・・・単なる歌伴ではない、姉の作り上げる音楽世界への深い共感に根ざした絶妙のギターソロが素晴らしい。

 今 それにイライザのお抱えリズム隊である愛息「シスコ・ライダー」と「グレン・フクナガ」以外に本作を盛り上げる参加ミュージシャンクレジットのどの名前にも見覚え、聞き覚えがあったので、レッドハウスレコードのホームページを訪ねて驚いた!だってそこにはこう(↓)あったんだもん。

 ジュリー・ウルフ(キーボード)・・“アーニー・ディフランコ”、“インディゴ・ガールズ”、“ブルース・コバーン”でおなじみ

 シンディ・キャッシュダラー(ペダル・スティール)・・“アスリープ・アット・ザ・ホイール“、”ボブ・ディラン“でおなじみ

 デヴィッド・グリッソム(ギター)・・“ディキシー・チックス”でおなじみ

 エラナ・ジェームス(フィドル)・・“ホットクラブ・カウントダウン”でおなじみ

 ジョン・インマン(ギター)・・“ジェリー・ジェフ・ウォーカー”、“ジミー・ラファーベ”でおなじみ

 ・ ・・「おなじみ」な筈である。どのミュージシャンも僕のフェバリットばかりじゃないの!

 こりゃ、何度聴いても飽きない筈だわな!

 と ころで弟「トニー」のソロアルバムも素晴らしい。数年前、新宿ディスク・ユニオンに行ったおり、風変わりなジャケット(写真右)と皮肉なタイトル「グッバイ・ギター」に心を奪われ手にとってみた・・・アーティスト名は「トニー・ギルキーソン」・・「ギルキーソン?」・・ギルキーソンなんて名前はそう多くはない!きっと「イライザ」の血族に違いない!と思い、試聴もせず購入!もちろんビンゴ!弟であったのだ。もちろん肝心の音楽が何とも素晴らしいカントリーロックアルバムで2個目のビンゴ!

 ネ ットで調べると、このトニー君、元「X」のメンバーとある。僕は知らなかったのだが、この「X」なるバンドは、アメリカでも超有名なパンクバンドだったらしい・・・で、驚いたのは、日本のバンド「Xジャパン」は、このバンドに憧れて「日本のXたれ!」というネーミングであったことである。その音楽を聴いたことはないけど、“ヨシキ”や“ヒデ”の名前くらいは知っている・・・ふ〜〜〜ん、そうなの、知らんかってん、ちんとんしゃん!

 よ くよく考えてみれば、パンクを一回通ったカントリーといえば、それこそオルタナティブカントリーではないか!だからこのお魚ギター(本当にあるんだろうか?)が表紙のアルバム、カッコいいのはきわめて当たり前だったのである。

 ジャケ買い、タイトル買い、名前買いで大成功!!

 つ いでにこちらもライナーノートなしの“クリスタ・データー”(初めて聞いたアーティストである)の「COVER THEIR EYES」も美しくも哀しいアルバムである。

 波 打ち際で顔を覆い尽くす子供とその奥に浮かぶ洪水にあって半壊している家屋のジャケットからカトリーナ台風のことをテーマにしたアルバムかと思ったのだが、それだけがテーマではない、消え行く地球、絶滅する動物たちを含めて、今の地球が抱えているすべてが主題の荘厳なアルバムであった。  なにより落ち着いたクリスタの声が、心に沁みいる。そして彼女の弾く瑞々しい清冽なピアノの音が僕のこころを打つ。

 ラ スト曲はまさにスピリチュアルな祈りのようなゴスペル(映画“オー・ブラザー”で、川辺でのバプティスマの幻想的なシーンで歌われるゴスペルを思いだした)・・一緒にデュエットしているのはなんと「キャリー・ニューカマー」!これは静かにコウベを垂れてじっと聴き入るしかないなぁ。

 全編、どこにも激烈なところとてない、だが聴き終えると、とても心洗われる思いのする暖かい音楽世界である。

 これまたジャケ買い大成功アルバムの一枚!

 こ うやって眺めていると、どのジャケットも美しいなぁ・・これがLPのアルバムだったらしばらく飾っとくだろうな、きっと!


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