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ルイジアナのムジナ

 ア マゾンからソニー・ランドレスの新譜(写左)が届く・・・しかも2枚も!
 う〜〜〜やっちまったです。酔っぱらって記憶がないうちに同じ注文をしたらしい、が、ま、よくあることさハハハ・・・・でも、やっぱりトホホ。

 で、このアルバム、ゲストがスゴいんです。マーク・ノップラー、エリック・クラプトン(しかも2曲)、ロベン・フォード、ヴィンス・ギル、ジミー・バフェット、そしてアメリカ南部の“鍵盤の獅子王”ドクター・ジョン!!までが参加している!

 一 体、ソニーになにがおきているんでしょ?

 僕がソニー・ランドレスを最初に聴いたのは、7、8年以上前、ご他聞にもれず、渋谷のタワー5Fのブルースコーナーの試聴機だった。

 アルバムタイトルは「SOUTH OF 1-10」(写真真ん中)

 1 曲目、まったく異色のスライドとこれまた異色の声に「これ、な、何だ!だ、誰、このヒト!」とのけぞっていると、続いて聞き覚えのあるギターが聞こえてくるではないの。それはマーク・ノップラー御大のMK砲ギターだったのだ。どっひゃぁ〜〜、でも、あれぇ〜〜そういえば、このギターはMKの超名作「ゴールデン・ハート」でも聴いたことあるような・・・でも一体どういうつながりなんだ?!・・・とコーフンしながら、よくよく裏ジャケットを見ていると、アメリカ南部好きの僕のこころをくすぐる題名の収録楽曲ばかり。

 「CREOLE ANGEL」(クレオール・エンジェル)「CONGO SQUARE」(コンゴ・スクエア)[CAJUN WALTZ](ケイジャン・ワルツ)「MOJO BOOGIE」(モージョー・ブギー)「CREAT GULF WIND」(グレイト・ガルフ・ウィンド)・・・・順番に試聴機を聴き進めるうちに全身が南部性感帯と化していく。とくに最後の2曲はアラン・トゥーサンの鍵盤が南部の香りを醸しだす。なんといい香りですこと!“ジャケ買い”ってあるけど、“アルバムに収録されている楽曲タイトルに惹かれて買い”(長い〜〜〜っつうの!)って初めてである。

 と にかくこのソニーさん、ミシシッピ生まれ、ルイジアナ育ちの絶世のスライド弾きなのだが、とにかくまぁスライドのみ!スライドしか弾かない!普通、いくらスライドが素晴らしい、といったって少しは通常の弾き方をするものだが、ソニーはスライドバー嵌めっぱなし!寝るときも風呂にはいるときも外さないんじゃないか、と思うほど、ヌカロクのスライドギタリストなのだ。(ヌカロクの意味がわかんないヒトはスルーしちくれ)

 ぼくはギターキッズではないから、早弾きやギターバトルにまるで興味がない。でももちろん好きなギターはある。それは「色」と「方向」を感じさせてくれるギタリストなのだ。

 僕 は彼のギターを聴いて「夕陽色」というか「あかね色」をイメージした。 赤い夕陽を水面に映し出すミシシッピデルタのバイユーの上を、文字通り“滑る”ように水平方向に自在にスライドする赤いギター、そんな風景を思い浮かべてしまったのである。

 “天空を駆けるギター”というのはマーク・ノップラーにたびたび冠せられるコピーだが僕も本当にそう思う。MKのギターは地上から天空に向かって垂直方向に伸びて行く。だが、ソニーのそれは、まるでミシシッピやルイジアナから離れたくないとダダをこねるかのように、俺はいつまでもこの地を見続けたいんだ!と言いたいかのように、アメリカ南部をなめるかのように、水平に疾走するのである。

 実 は同じその頃、ソニーと同じくルイジアナ出身の渋々のミュージシャン「ボビー・チャールズ」のアルバム「君がここにいてくれたなら」を入手して聴いていた。大好きな曲「スモール・タウン・トーク」が収録された「ボビー・チャールズ」に続く待望の国内第2弾アルバム。

 このアルバムは、1984年ウィリー・ネルソン!ニール・ヤング!!ベン・キース!!!それにファッツ・ドミノ!!!!が参加して作られ、そのままお蔵入りになっていた(!!!!!)5曲に、1991年に新たに制作された7曲を加えて出来上がった異色のアルバム(だが、違和感はまるでない、どころか一体感しかない素晴らしいアルバムである。なにせ、「シーユーレイターアリゲーター」や「ウォークング トゥ ニューオリンズ」など“ボビチャ”の自作自演ヴァージョンがめじろ押しなのだ)が、その中でも、とくに僕が傑作ブルースバラードと言いたい「ジェラス・カインド」で出色のギターソロを弾いているのが、これまた、ソニー・ランドレスなのだ。これにはしびれちまった!

 ボ ビー・チャールズはその名前だけ見れば、典型的なイギリスあたりからの移民の末裔のように思える。だが、かれの本名は「ボビー・チャールズ・ギドリー」といい、フランス系移民「ケイジャン」の末裔である。

 北米大陸にわたってきたフランス系移民は、その地をフランス語で「理想郷」を意味する「アケイディア」と名付けた。もともとは「理想郷」を意味するギリシャ語「アルカディア」に由来する言葉である。

 だ がその地にはイングランドに遅れてスコットランド人も入植してきて、しばらくの間、二つの民族は共存していたが、フレンチ・インディアン戦争でフランスが敗北したことにより、フランス系移民は、その地からの移住を余儀なくされ、アメリカ南部に流れていく。

 そして、フランス王「ルイ」の土地ルイジアナまで流れつく。そこに同じくフランス領オルレアン公にちなんだ街「ラ・ヌーヴェル・オルレアン」=「ニューオリオンズ」を作り、住みつくことになるのである。
 その地に流れ着いたフランス系移民の末裔は、「アケイデイア」から流れてきた人々、ということで、「アケイジャン」と呼ばれる。そのうち、「アケイジャン」の最初の文字「ア」=「A」は弱音化し、いつしか「ケイジャン」と呼ばれるようになる。かれらの料理はケイジャン料理と呼ばれ、その音楽は「ケイジャンミュージック」と呼ばれていった。

 そ してここアメリカ南部ルイジアナは、アフリカから移住させられた黒人の街でもあった。当然のようにケイジャンと黒人たちの間にも子供が生まれてくる。かれらはクレオール(もともとは、移民先で生まれた白人の意味であったが、後には有色クレオールをさすようになる)と呼ばれ、そのフレンチとアフリカン、カリビアンの入り交じった独特の音楽が生み出されて行く。

 クレオール・ケイジャンミュージックから派生した独特の音楽の一つが「ザディゴ」だが、このザディゴの創始者「クリフトン・シェニエ」のバンドで腕を磨いたのが、本日の主役『ソニー・ランドレス』である。僕はソニーの音楽を通してザデイゴを知った。ソニーの音楽に骨がらみになっているルイジアナはここで確定したのだ。その後、ソニーは、ライ・クーダーの後釜として、ジョン・ハイアットのバックバンド「ゴナーズ」のギタリストとして大活躍する。このとき日本にも来ているらしい。

 こ のコラムの最初にソニーの歌とギターを“異色”と書いた。色香に迷いやすい僕は、確かに「色香」を感じたから、試聴器一発でもっていかれたのだが、その色香に「異」を見いだしたのは、ソニーの音楽的出自が、複数の“異”なる民族のスーパーハイブリッドの地「ルイジアナ」だからであった。

 エリック・クラプトンが「世界で最も過小評価されているギタリスト」といい、ボニー・レイットが「最も驚愕させられたギタリスト」というソニーについてマークノップラーはさらに詳しく次ぎのようにコメントしている。

 「 ソニーは偉大なギターの達人であり、驚くほどのソングライターでもある。
  ソニーと彼のスライド・テクニックの、また偉大なところは、彼がスライド奏法を前進させ、その中に自分自身を投影させてきたことだ。
  彼は言わば歴史上の存在ではないワケだが、膨大な量の音楽を聴き、それを愛してきたことは、彼のプレイの背後にいつも感じる。

  以前から、とことん詳しく知らなくちゃ、と思ってたミュージシャンだったけど、ルイジアナに行った時、彼のアルバム(「South Of I-10」)のレコーディングにも参加できたんだ。

  (「Golden Heart」に収録した曲、Je Suis Desoleの)エンディングでのサニーとの演奏は楽しいものだったよ。
  いくつかのブレイクを交互に分け合うようにして、 いい感じで刺激し合いながらロックしてたし、いい気分だった。
  そんな感じで僕たちは演奏できたんだ。」
  (www.mark-knopfler.com)

 こ れらMKやエリック・クラプトン、ボニー・レイット等、ソニー・ランドレスより圧倒的に著名なスパースターたちがソニーの招きに応じて嬉々として素晴らしいプレイをするのは、かれらアングロサクソンの末裔にはまねのできない、アメリカ南部の音楽をソニーが体現しているからに違いない。
 ルイジアナを共有する二人の"異能”のミュージシャン「ボビー・チャールズ」と「ソニー・ランドレス」が結びつくのはきわめて自然の成り行きだったのだ。これを「ルイジアナのムジナ」と言う(言わないって!)


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