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マイ“NOT”ブルー”BUT”ベリー・ナイス・ノラ!

 事 務所を早めに抜け出し、「マイ・ブルーベリー・ナイツ」を鑑賞。
なんや、おもろいやんけ。

 とにかく、前回の日記にも書いた通り、この映画のサントラが耳タコである僕にとっては、映画の方こそが、そのCDのプロモーションビデオといった風情もあったけれど、終始ステキな色合いを失わない(特に、紫の色使いがラストのクレジットタイトルまで巧みで艶めかしい)映像、それぞれがこれまでで一番(と言っても僕が見た範囲で)の演技を決めた役者たち、ストップやスローの王道を行くカメラワーク、何といっても出色のライ・クーダーの音楽、否応もなく想像をかきたてるあっさりとした(というより、あまりになぁ〜んも描き込まれないので見る側が、それぞれの経験をだぶらせて想像するしかない、見る人の数だけ存在する)ストーリー・・・そしてなにより、あれほど、その音楽が苦手だったノラ坊の演技のなんと切なく可憐なこと!

 映 画は、ノラ坊の主題歌「ザ・ストーリー」が流れるところから始まる。しかしすぐフェードアウトされることもあり、やはりそんなに歌がグッとこない(実はラストでそれが大きく変化するのだが)。むしろその直後に流れるキャット・パワーの「ザ・グレイテスト」の歌力の方が存在感を増す。それどころか、その後、映画の主要なシーンでは、ひんぱんにキャットのこの歌が流れる。イントロで使われている「ムーン・リバー」の旋律が実に印象的だ。

 恋 人に裏切られたノラ(エリザベス)を優しく見つめ、恋をしてしまうカフェのオーナー“ジェレミー”役の「ジュード・ロウ」がとてもキュート!そして慈愛に満ちた彼の声の良さにしびれる。イケメンというよりイケゴエだね。

 ノラが演じるエリザベスは、恋の痛手を癒す旅に出る。だがジェレミーに別れを告げるために訪れたカフェのドアノブに手をかけた瞬間、電流が走ったかのように新たな恋を予感してしまう・・・その旅は傷心のこころを癒す旅ではなく、ジェレミーに向き合うため自らの自信を取り戻す旅に変わったことを直感した彼女は彼にサヨナラを告げずに去っていく・・・

 旅 の最初はメンフィス。そこで彼女は昼間ウェイトレス、夜はバーで働くが、そこで女房に逃げられたアル中の警官アーニーと知りあう。アーニーを演じるのはデヴィッド・ストラザーン・・大好きな俳優の一人だが、情けない男を演じさせれば天下一品(“激流で”のラストシーンでは思わず彼を抱きしめたくなった)がこの演技が一番好き。文句なく泣ける。その妻役はレイチェル・ワイズ。ハムナプトラでのおマヌケな演技や、「スターリングラード」でのジュード・ロウとのラブシーンが好きだけど、アカデミーをとった“ナイロビの蜂”より、この映画における、二人の出会いの場所で自殺したアーニーに対する屈折した思いを演じきる彼女の演技の方が断然素晴らしい。またその彼女をじっと抱き寄せるノラがいじらしい。

 次 の街でエリザベスが知り合う、賭け事に身を費やす女ギャンブラー“レスリー”を演じるのはナタリー・ポートマン。誰も信じず、そのせいで最後は父の死に目にも会えない孤独な演技がこころに沁みる。レスリーに「絶対人を信じるな」と教えた父とは「レオン」かも知れない。孤独なマチルダは成長しても一人ぼっちの旅を続けているかのよう。

  エリザベスを待ち続けるカフェのオーナー「ジェレミー」もまた、自らのもとを去っていったロシアの娘を忘れられない。その彼女が、突然彼の店を訪れる。そして、こんどこそ本当のサヨナラをジェレミーに告げて去っていく。そのロシア娘を演じるのはなんと「キャット・パワー」本人である!  これがまたエキゾチックで可愛い!ノラ猫・ジョーンズと”キャット”と叫んで”猫力”の二匹のネコがそろって(しかも同じ映画で!)役者デビューしていたとはね!

 旅 の途中で巡り会った、孤独から逃れようもがき苦しむ様々な旅人たちから少しづつ勇気と希望をもらう彼女は、旅の途中、「リズ」「ベス」「ベティ」と名前を変えて呼ばれる(おまはんはブリか?スズキか?出世魚か!)、だがトドのつまりは、やはり「エリザベス」となってジェレミーの懐に飛び込んで行く彼女は、もう1年前の「エリザベス」ではない。また彼女を待ち続けたジェレミーも1年前のジェレミーではない。その二人の出会いの時のキスと、再開した時の激しいキスだってもちろん違っている。ラストの二人のキスは、画面上から横顔をとるという画期的な映像でも映画史に残る美しいキスシーンの一つである。

 と にかく、アル中の警官アーニーとその妻スー・リンの間にどういう葛藤があったのか、孤独なギャンブラー「レスリー」とその父の間にどのような確執があったのか、何故キャット・パワー演じるロシア人の彼女はカフェの店主ジェレミーの元を去っていったのか、すべてが語られない。

 だ が、こんな話は誰もが経験している、否、今は経験していなくてもいつかは経験するありふれた日常の話である。

 だから、見る人は、自らにこれまでおきた葛藤、確執、不条理な厄災を思い浮かべながら見ることになる。

 そう言った意味では、この年まで馬齢を重ねてきた僕はこの映画の登場人物の誰にも感情移入することができた。

 ラ スト近く、旅を終えたノラは一段と美しい。

 映画のエンドロールで流れるのは、映画の冒頭で流れるのと同じ、ノラの「ザ.ストーリー」なのに、今度は、うってかわって彼女の歌がスーッと胸に沁みてくるのだから我ながら身勝手というのか、実に不思議。

 ミス・ジョーンズ!・・・僕は旅を続ける君が大好きなノラ!


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