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「潜水服は蝶の夢を見る」を見る!

 2 月29日の金曜日、ある日突然とんでもなく絶望的な状況に追い込まれた男性の物語の映画を見た。

 脳梗塞で倒れ、気づいたら病院のベッドの上、意識も記憶も思考も、何の問題なく完全に機能している・・・それなのに、身体の自由だけが全く効かない。唯一動かせるのは、左目のみ・・・そんな境遇に陥ったら、誰もが大パニックに陥るに決まっているが、この映画の主人公「ジャン・ドゥ」も、とうぜん大パニック!

 だ が、入院先の病院で言語療法士とともに奇跡的に再生し(なにせ左目を瞬きするしか意思の伝達手段がない!・・・そこで言語療法士(そんな職業があるんだね!)は、フランス語の単語で最も頻出する順番通りにアルファベットを口にし、ジャンが「それ!」と思ったスペルが出てきたところで一回瞬きをする、たとえば、「MERCI」であれば、療法士の読み上げるスペルで「M」が出てきたところで一回瞬きをする。次にまた同じ作業をし「E」が出たところで、また瞬きをする。続けて「R」が出てきたらまた目をつぶる・・・次に「C」、そして「I」・・・そこで初めて彼が言いたいことが「MERCI」(ありがとう!)であることがわかる、といった具合に、まさに気が遠くなるような時間をかけてコミュニケートするのであるが、最後はなんとその方法で書きとめられた文章により自伝を発表し世界的ベストセラーになるという、にわかには信じられないストーリー。

 彼 は本が出版されてから10日後、全世界から嵐のように寄せられる絶賛のレビューを読み上げる言語療法士に看取られながら亡くなるのだが、これがなんと、パリの有名なファッション紙「ELLE」の名物編集長を襲った実話だというのだから驚く!

 カ ンヌ映画祭の監督賞受賞やヴェネチア国際映画際での受賞、それにアカデミー賞ノミネートなど、2007年度の世界中の映画賞という映画賞を総なめしたこの映画、映像も「プライベートライアン」でアカデミー受賞の“ヤヌス・カミンスキー”だし、言語療法士を演じるマリ・ジョゼ・クローズも「ミュンヘン」に出演しているなど、隠れ「スティーブン・スピルバーグ」一派による映画だが、いやぁー、おもろかった!

 ス トーリーだけとれば、いかにも感動大作といったおもむきだけど、まったくそんな大げさな「難病モノ」感がなかったのは、主人公のフレンチエスプリに溢れた独白や、映像の美しさやカット割りの斬新さもさることながら、彼をサポートする言語療法士(二人もいる!)や配偶者や愛人やらが、やたらにカワイかったからではないだろうか?こんだけキャワいい女達に囲まれながら日夜励まされ続ければ、どんなに絶望の淵にあっても誰だってがんばっちゃうよな、と思いながらずーっと見ていた。まさしく”エロス”は生きる力であり、”タナトス”に打ち勝つ唯一の力の源泉であることをスンナリ実感する。

 と にかく2時間あまり、主人公を演じるマチュー・アマルリック(本当はジョニー・デップがキャスティングされていたのだが、“パイレーツ・オブ・カリビアン”の撮影が延びて代役だったそうである。オー!ジョニー!君はなんてついていない男なんだい?)の左目を見続け、また彼の左目に映る映像だけを見続ける、という滅多にない目ヂカラ映画であった。

 自 分自身の中に閉じ込められ身動き出来ない自分自身を、重い潜水服(宇宙服のようなヘルメットのついたあれ)を身につけされた自由を奪われた人間に例えたジャン・ドゥは、奇跡的なコミュニケーションの方法を会得し、最後は自由に羽ばたく蝶の夢を想像し、その夢を現実界に創造していく・・・ラストシーン近くで主人公が言う「健康な時には私は生きていなかった。存在しているという意識が低く、極めて表面的だった。しかし私は“蝶の視点”を持ち復活し、自己を認識する存在として生まれ変わった」という台詞を聴いたとき、近頃身の回りで重篤な病気の話ばかりに囲まれている僕はウッときた。

 だ が、この映画を見る気になったのは、上記のようなトリッキーなストーリーや重要な映画の賞を総なめしている、ということではない、というよりこの映画についての情報は殆ど持っていなかった。

 実は、僕は、元クラッシュのリードボーカル「ジョー・ストラマー」のコミュに入っているのだが、その書き込みに、この映画のエンディングにジョー・ストラマーの「ラムシャックル・デイ・パレード」が流れていました、というのを発見したからである。

 ナ ントまぁ!またもや、映画のエンディングにジョー・ストラマー・・・ついこのあいだの日記にリドリー・スコット監督作品「ブラックホーク・ダウン」でのエンディングで流れるジョーの「ミンストレル・ボーイ」について書いたばかりではないか!これぞシンクロニシティ・・・こういうシンクロニシティはただちにインカーネイト(受肉化)した方が良い結果を得られる、というのが、これまでの人生で得た僕の教訓の一つである。早速ネットで調べてみると、なんと2月29日金曜日が最終上映日ではないか!そこであわてて、新宿三丁目のバルト9に飛び込んだという次第である。(後日の註・・僕の勘違いでした!映画はその後も上映中でした!)

 見 てよかった!なぜなら、この映画もまた挿入歌が素晴らしかったのだ。
 エンディングのジョーはもちろんだが、トム・ウェイツ、U-2、ルー・リード、バッハのピアノ協奏曲第5番”ラルゴ”、シャンソンのシャルル・トレネの「ラ・マーレ」などマイ・フェバリットミュージックが実に効果的に使われている!そうか、そういうことか、だからおいらにそれを劇場で見ろ!そしてそこで使われている音楽を聴け!と、そういうお告げだったのね。

 主 人公の父親役でマックス・フォン・シドーが出ていた。「エクソシスト」での神父役が有名だけど、「007」シリーズでもいい味出していた。最初に見たのは「偉大な生涯の物語」(1965年)だから、もう40年になるんだな。大好きな俳優さんの一人である。


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