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ロード・オブ・「ザ・バンド」〜リヴォンの騎士の帰還



 事 務所に向かう車中でリヴォン・ヘルムの新譜「ダート・ファーマー」(DIRT FARMER)を聴く。

 渋い!実に渋い!渋さでいったら本年度ナンバーワンである。
 1 曲目、リヴォンの振り絞るようなボーカルを聴くや否や一瞬にして、「ザ・バンド」としての大成功と解散後の大絶望(スタジオの火事消失、再建のための借財、そしてガンの宣告・・・いや何より仲間の死とロビー・ロバートソンとの終わりのない確執)をジェットコースターのように駈け抜けた彼の生涯に思いを馳せてしまい、涙腺がゆるむ。だが、そのドラムの粘りは健在だし、何より歌が力強い。もちろん、喉頭ガンを克服したとはいえ、その声はかすれている。だがみずからドラム、ボーカル、アコースティックギターを担当し、全13曲中半分を占める彼の生まれ故郷のアーカンソーで幼い頃聞き、歌ったトラディショナル、マウンテンミュージックを全力で演奏する彼の音楽からは鬼気とした、いや嬉々とした空気が清冽に溢れ出してくる。
 死  と絶望を見据え、それを克服した人間の作り出す音楽は、なんとすがすがしいのだろう。決して聴きやすいわけでもない。エレキ系なんぞ皆無!わずかに全曲できくことのできる真情溢れるコーラスが音楽に暖かみを与えるのみ。だがいわば素材の缶詰めのごとき、まったく甘味のひとかけらも、わずかばかりの塩味すら入ってはいないこの音楽をひとたび噛みしめれば、あごはくたびれるが、素晴らしい後味をいつまでも味わい続けることができる。真理はまことに噛み砕きにくく、嚥下しにくいのである。
 ア  ルバムでは、全編にわたって、愛娘エイミー・ヘルムがコーラスやマンドリンやピアノ、果てはドラムス!まで参加して、この偉大なるオヤジをもり立てる。なによりその励ましが、この渋さの極みのような名品を完成させた原動力だろう。彼女のみならず、ボブ・ディランバンドのマルチ・ギタリスト、ラリー・キャンベルの愛情と緊張感溢れるサポートが素晴らしい。
 ま た3曲目(南部の硬骨漢スティーブ・アールの傑作曲「THE MOUNTAIN」のカバー!)では、嬉しいことにバディ&ジュリー・ミラー夫妻が参加!二人はどういう思いで参加したのだろう?おそらく生涯で最も名誉を感じるコーラスワークスだと感激しまくっていたのではないか?そう思わせる渾身のハーモニーコーラスが聴ける。そればかりか、アルバムのラストは彼ら夫婦の名曲「WIDE RIVER TO CROSS」のカバーである。身に余る光栄とはこのことだよね、バディ君とジュリーちゃん!トリを飾るにふさわしいタイトルと素晴らしいリヴォンのバラードが娘エイミーとテレサ・ウィリアムスのゴスペルにも聞こえる敬虔なコーラスをともなって締めくくられる。間奏の泣けるような素朴なフィドルソロはまたもやラリー・キャンベル!
 ア  ルバムタイトル「DIRT FARMER」・・・・辞書でひくと、小作農とか水飲み百姓の意味とあり、反対語で「GENTLE FARMER」とある。こちらは「豪農」と訳されるそうだ。
 ア  メリカ南部からカナダに行き、そこで4人の素晴らしいカナダ人と偶然出会い、そして巨人ボブ・ディランに必然的に邂逅りあってしまった自らの人生を問い直した彼は、結局みずからを、「豪農」ではなく、故郷アーカンソーの「貧しい農夫」に規定し直した。
 だ が、そのダート・ファーマーは、見事に素晴らしい家族や仲間に囲まれている。表4のジャケット(写真右)では、愛嬢エイミーとラリー・キャンベルやテレサ・ウィリアムスという素晴らしい音楽仲間に囲まれた老人が幸せそうな笑みを浮かべている。
 リ ヴォンの騎士は帰還したのである。教会のシンガーであった母や姉、そしてギターが上手だった父の生まれ故郷へ。だから当然にこのアルバムはリヴォンのご両親ネル アンド ダイアモンド・ヘルムに捧げられている。
 そ の故郷アーカンソーの綿花畑にたたずむヴォン・ヘルムのセピア色の顔(写真左)を見ているとしみじみと幸せな気分になるが、ただわけもなく(いや、わけは十分あるんだけど)涙が出てとまらない。

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