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「パンズ ラビリンス」ヌメロ・ウーノ!



 ヒ ャァ〜、本年度ナンバーワン映画(もちろん僕的に)を観てしまった!
 ド キドキする、というよりヒリヒリする映画「マッチポイント」、「ロシアより愛をこめて」以来の面白ボンド映画「007カジノ・ロワイヤル」、トミー・リー・ジョーンズは名監督でもあることがわかった「メルキアデス三度の埋葬」、これはDVDだったけど、笑いながら泣けた韓国怪獣映画「グェムル」など、今年も面白い映画をたくさん観たけれど、それらをアッという間にゴボウ抜き!、あと2ヶ月を余して、本年度ナンバーワン(スペイン語でヌメロ・ウ〜ノ)確定!である。
 昨 日、台風の中「パンズラビリン♪パンパンパン、パンズラビリン♪リンリンリン♪」と、朝からウルサい配偶者と共に、朝霞のシネコンに行く(どちらかが50才を超えているとお一人1000円なのである)。善福寺からは遠いのだが、環八が開通しているので、意外に早い!予約時間の1時間も前に着いてしまったので、下のスーパーで夜のキノコ鍋の具材まで買ってしまう。
 で 、「パンズ ラビリンス」・・・オープニングからエンドロールが終わるまで、眼をそむけたくなるようなリアルな残酷描写も多いのに、一瞬たりともマバタキできない(これって変な表現だな)重くて、観るのがつらい、残酷で美しく、そして哀しい 、まさしくダーク・ファンタジー! (そんなのをファンタジーなんて呼んでいいのだろうか?)

 時代はフランコ政権下における内戦時代のスペイン・・考えてみれば、日本人が、バブル景気に向かって狂奔しかけていた1970年代中頃まで、あの国はフランコ将軍の独裁政権下にあったのである。その記憶はまだまだ生々しいわけなのね・・・あ〜、でもここらで止めとこう!これ以上書いていったら、完全にネタばれになってしまう!
 僕  はスペイン映画が大好きだ。キッカイな映画「KIKA」はもちろん、「バニラスカイ」もスペイン映画の方が(というか、トム・クルーズのは完コピだもんな)面白かったし、「ペネロペ・クロス」も時々本国へ帰ってスペイン語を喋っているときのほうが、そのハスっぱ感がスクリーンに躍動して、「この人、根っからの演劇人なのね!」と感心してしまう。

 スペイン映画は他国の映画に較べて、もともと表現の閾値が高く設定されているのに、更に、かの国の表現者達は、その閾値をらくらくと超えていくので感動の規模が大きい。そういえば、ピカソやダリやチェリストのカザルスなどの芸術家たちもそうだ。つい、この間まで、平和とは言えない国であったからこそ、これらの芸術家たちは、あれほどの巨大な規格外の作品群を生み続けたのかも知れない。
 こ のところのアメリカ音楽には、従来からの表現の閾値を超えた素晴らしい作品が多く出現しているが、これは、9・11やカトリーナ台風が影響していると思う。ひるがえって我が日本の音楽は長きにわたって低調の極みにある。だが、それは、それだけ日本が平和であるということでもある。連日扱われるニュースは、食品偽装と亀田ファミリーだ。

 僕はいままでのところ、その人生において一度も戦争を経験していない・・・そんなの当たり前でしょ!と思われるかもしれないが、周りの国、中国、朝鮮半島、ベトナム、ミャンマー、カンボシア、インド、パキスタン、チベット、アフガン、中近東、東欧、アフリカ、ほとんどの国の人が、その人生のどこかにおいて戦争か内戦の時代を経験している筈だ。僕らの父母世代、祖父母世代の日本人たちは、全員が戦争経験者である。ぼくらの世代は、それら先行する世代が戦争の時代を丸ごと担ってくれたという、全くの僥倖によって、「偶然今を平和に生きているだけ」という奇跡を忘れてしまいがちだ。
 大 芸術が生まれる不幸な国と、見るべき絵画、見るべき映画、聴くべき音楽が生まれない平和な国があり、どちらの国に生まれたいか?と問われたら(問われることはないけれど)、僕はためらうことなく(ゴメン、それはウソ!ホントは少しためらったのち)後者を選ぶ。たとえその国を2等国、3流国といわれようと。憲法9条改正論議もこの視点からなされてもいいのに。

 映画を見終わって、そんなことを考えた。
 先 日の日記に北欧神話のことを書いたばかりだが、今回の映画の題材はギリシャ神話である。僕はギリシャ・ローマ神話の中では、ディオニッソス(ローマではバッカス)、ヘルメス(同じくマーキュリー)、そして半人半獣神のパン(同じくサチュロス)が大好きだ。

 ヘルメスは泥棒と音楽の神、ディオニッソスは酒と狂乱と音楽の神、そしてパンは、狂気と性愛と音楽の神である。これで好きにならずにいられようか!特にパンは、パニックの語源にもなっているようにメチャ凶暴な神でもある。
 映 画の主役は、可愛い少女「オフェィリア」なのだが、実はもう一人の主役が、残酷無比、極悪非道のフランコ軍のカピタン、「ビダル大尉」である。かれは毎朝、音楽をかけながらヒゲを剃る。そして亡き父への複雑な思いを、その遺品である懐中時計で確認した後、毎日人殺しに出かけて行く。

 音楽と狂気の神、だから半人、半獣のかたちで描かれる「パン」の迷宮・・・それは今の時代を映してもいるが、僕たちの中にも棲まっている「ビダル大尉」の心の迷宮も映し出している。

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