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ステキな海賊盤



 パ イレーツ オブ カリビアン

 最初の映画こそ、そこそこ面白かったけれど、2作目は、途中で寝てしまったので、いくら大好きなジョニー・デップ主演でキース・リチャーズが出ているとはいえ、おそらく「デッドマンズ チェスト」は見ないであろうが、映画以上に(多分)素晴らしいイメージアルバム(写真上)が発売されている。
 映 画監督のゴア・ヴァービンスキー監督とジョニー・デップの発案による海賊と海をテーマにした音楽「Rogue's Gallery〜Pirate Ballads,Sea Songs & Chanteys」がそれである。

 プロデューサーがなんと、ハル・ウィルナーである。ハル作品にハズレはない(本当です!)。今年春、ルシンダ・ウィリアムスの傑作アルバム「WEST」で、これ以上はもうないと思っていた姉御の音楽を一段と高いステージに押し上げたのもハル・ウィルナーマジックがあればこそである。
 し かも参加アーティストが僕の大、大、大好きな人ばかりなのである。

   「Rogue's Gallery」・・・その意味は、「極悪犯人の指名手配写真館」・・・にその写真が張り出されて指名手配中の主なパイレーツ オブ ミュージシャンは以下の通り(出演順)である。

リチャード・トンプソン(Richard Thompson)
ニック・ケイブ (Nick Cave)
ロウドン・ウェインライト 三世 (Loudon Wainright 3rd)
ブライアン・フェリー (Brayan Ferry)
ロビン・ホルコム (Robin Holcomb)
ビル・フリゼール (Bill Frisell)
スティング (Sting)
テディ・トンプソン (Teddy Thonpson)
ルーファス・ウェインライト /ケイト・マッガリグル(Rufas Wainright & Kate Mcgarrigle)
イライザ・カーシー (Eliza Carthy)
ボブ・ニューワース (Bob Neuwirth)
ボノ(U2) (Bono)
ルシンダ・ウィリアムス (Lucinda Williams)
ホワイト・マジック (White Magic)
ヴァン・ダイク・パークス (Van Dyke Parks)
ジョリー・ホランド (Jolie Holland)
ルー・リード (Lou Reed)
 他 にも僕の知らないアーティストが参加して、海にちなんだバラッドや水夫の伝承歌を歌っているが、どれもこれも素晴らしい歌ばかりである。
 だ が、いくらハルの呼びかけとは言え、また世界的な大ヒット映画に関連しているとは言え、なぜにこれほどまでに地味で素朴きわまりない、売れそうにない歌(だから日本盤は出ていない)を、かくも素晴らしいアーティストたちが一同に会し、嬉々として歌うのであろうか?

 海賊というと僕ら日本人は、歴史か漫画か映画か遊園地でしか馴染みがないが、欧米人にとって「海賊」とは、実はもっと身近なものなのかも知れない。
 9 世紀頃、バイキングと呼ばれるゲルマン民族の一派であるノルマン人がスカンディナビア半島からイギリスやフランス西北部へ侵入する。当時は、まだ我々現代人がイメージするような主権国家は誕生していない(誕生するのは18世紀になってからである)ので、勇猛果敢なバイキングに勝てるわけもなく、ひたすら侵略されていく。フランス北西部には「ノルマン人」の国「ノルマンディ公国」が誕生する。1000年後、連合国軍とドイツ軍との激戦地となったあのノルマンジーである。そしてイギリスは1066年、そのノルマン王朝から王を迎え入れ、その後約200年間はフランス(実はノルマン王)の支配下に入る。イギリス王室の公用語はフランス語になり、王室ではフランスから連れてこられたコック(シェフ)が料理を作ったせいで、牛(カウ)や豚(ピッグ)がビーフ、ポークと呼ばれて今日に至るのである。
 ま たバイキングは遠く地中海にまで進出し、イタリアのシシリーに上陸「シシリア王国」を誕生させる。  また9世紀には、ロシアに「ノブゴロド王国」や「キエフ公国」が誕生するが、これらの祖はそもそも「ルス族」というノルマン一族である。「ルス」が訛って「ルスア」「ルシア」「ロシア」となるのである。  ことほど左様に、バイキング(ノルマン人)の影響は、ヨーロッパ各国の歴史に密接に係わっていて現在にもその影響を及ぼしている。
 ま たバイキングに最初に侵略され、その後200年間もノルマン王朝下にあったイギリスから派生したアメリカは、意外にもデンマークやスエーデンからの移民も多いのである(グレタ・ガルボもイングリッド・バーグマンも、いわば海賊の末裔なのだ)。

 欧米の音楽には、歴史や地理が必ず映り込んでいる。とくにロックや、そのもとになるカントリーはバラッドの影響が強い。

 欧米のミュージシャンにとって海賊ソングは、遺伝子的な記憶を呼び覚まし、音楽的な共鳴運動を揺り起こすアイコンなのだろう。そうでなくては、こんなに売れそうもない地味な内容のアルバム(・・・にしては2枚組 全43曲!)に大挙して参加するわけがない。
 ジ ョニー・デップはもともとはミュージシャンである。彼にはインディアンのチェロキー族の血も流れている。映画で海賊を演じているうちに、自らの音楽的情動と、少数民族の遺伝子が共鳴し、このアルバムを企画したのでないだろうか。

 ジャック・スパロー船長、なんとも嬉しい海賊盤をプレゼントしてくれたものである。

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