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いとおかしき「いともの(弦楽器)」弾き



 7 月はじめに、新宿タワーレコードで「リチャード・トンプソン」、「エリック・アンダーソン」の新譜と一緒に購入したCDのうち初めて聞く名前の二人のミュージシャンの一人「ダニー・フラワーズ」についてはすでに前回書いた。今日はそのもう一人の「ハリー・マンクス」(ウィズ 「ケヴィン・ブライト」)の新譜「IN GOOD WE TRUST」である。
 実 は、購入した翌日事務所でかけていたところ、事務所の同僚(といっても、20才以上年下のカントリーロックバンドのリーダー君)に、「こ、これ、なんすかっ!?」と詰め寄ってこられたので、「タワーで試聴して即買いしたんだけど、よかったら先に聴く?」「・・い、いいんすかっ!ぜし!ぜし!」ということで貸していたのであるが、それが昨日返却されたのである。「すっ、すっげぇ、よかったっすっ!」という賛辞とともに。

 あらためてじっくり聴いてみる。

 すっ、すっげぇ、好きっす!ワタシ。
 ジ ャケットでは2本のギターが交差しているが、左手のギター(見にくくてゴメン)は、かなり変わったギターに見えるが、実はこれ、インドの振動板付きスライドギター「モーハン ヴィーナ」(写真右)というチョー珍しいギターなのである。言ってみればインド式ナショナル・レゾナーター・ギターなのであるが、このハリー・マンクスさん、いろいろな種類のギターをスライドで弾く名手なのである。それとこのアルバムは、かれのソロではなく、ケヴィン・ブライトさんという、これまたギターのみならず、マンドリンまでもスライドで弾きこなす名人との共同名義アルバムなんであるが、二人の息がピッタリなので、心の奥底からリラックスできるまことに心地よいアルバムになっている。タイトルからして「おれたち、いいカンジで信じ合ってるぜ」だもんね。
 1 曲目は、シガー・ボックス・ギター(って初めて聞いたけど、どうやら昔ギターが高価な楽器であった頃、黒人ブルースマンたちがタバコの木製の箱を利用して造っていたギターもどきの楽器もどきらしい。ややこしくてすまん)にケヴィンのフィードバックギターがかぶさるイントロで始まるブルース・スプリングスティーン」の名曲「I'M ON FIRE」のカバー。しゃがれて味わいのあるハリーの声がまことに気持ちが良い。
 2 曲目では、ケヴィンがナショナル・テナー・ギター、ビブラート・ギター、エレクトリック・ギターという3種のギターを弾きこなし、3曲目では、ハリーがしたたり落ちるかのように甘美なラップ・スティール・ギター(ギターを両足の上に横置きにしてスライドする)を弾きこなす。めくるめく弦楽器のハーモニーを背景に浮かび上がるハリーのボーカルにうっとりする。
 き わめつけは4曲目のインストルメンタル「BETTER MAN'S BLUES」。ここではハリーがバンジョーを、ケヴィンがスライド・マンドセロと、なんとナショナル・マンドリン(つまりレゾネーターつきのマンドリンということである!そんなのあるんだ!)を弾くのだが、出だしから聞こえるスライドで弾かれるマンドセロが、緑したたる架空のアジアの国の雨空の下、どこか不安を抱える男女二人の行くあてさえない道行きを想起させるような、極めてブルーかつロマンティックな曲想に胸がワサワサする(僕はこの「ムネがワサワサ」に極めて弱い)。
 続 く5曲目「DEATH HAVE MERCY」・・・原曲はどうやらアメリカントラディショナルらしいが、ここでは冒頭に聴かれるインド式ドブロとでも呼びたくなる「モーハン・ヴィーナ」の、まるでシタールの如きアジアンエッセンス溢れるイントロから、一転印象的なフレーズをギターが奏ではじめるとこれまたブルージーな世界が拡がる。アメリカ南部ブルースとインド音楽が融合したかのような摩訶不思議な浮游感の中を、タイトルの持つ意味「死は慈悲を持つ」が仏教的寂寞感をともなって切なく胸を打つ・・名曲なり!
 6 曲目ではエレキギターがループする中を瞑想的なギターフレーズがカッコよく決まり、7曲目はゆったりとラップ・スライド・ギターが流れる静かなるロックワールド。
 そ して8曲目のアルバムタイトル曲「IN GOOD WE TRUST」はまたもやインストルメンタルである。ここでケヴィンは、マンドリン、マンドラ、マンドセロという「マンド3兄弟(左から右へサイズが大きくなっていくマンド族。バイオリン、ビオラ、バイオリンセロと同じ流れね)」を自在に組み合わせる。そこにハリーの味わいのあるシガーボックスギターが重なり、どこか不安定でミステリアスな世界を紡ぎ出していく。いとおかしき「いともの(弦楽器)」の世界の真骨頂がここにある。
 9 曲目も静かなブルージーな世界に「モーハン ヴィーナ」によるインド的な艶やかな味付けが、独特の世界をかたち作り、ケヴィンの控えめなコーラスがそれに彩りを添える。
 ラ ストの2曲は、これもインスト。どちらも極めてビジュアルイメージをかき立てる、映画のBGMとして絶好な色彩感溢れる豊饒の音楽。僕が映画監督なら、絶対、このコンビに音楽を依頼するなぁ。
 こ のアルバムで聴くことのできる、「いとおかしき、いともの(弦楽器)君たち」を以下に掲げる・・・楽器に詳しくないからかも知れないが、はじめてきくものばかりである。

CIGAR BOX GUITAR
BOUZOUKI
FEEDBACK GUITAR
LAP SLIDE GUITAR
BANJO
SLIDE MANDOCELLO
NATIONAL MANDOLIN
LOOP ELECTRIC SLIDE GUITAR
MANDOLIN
MANDOCELLO
MANDOLA
NATIONAL SLIDE GUITAR
ELECTIRIC SLIDE GUITAR
NATIONAL TENOR GUITAR
VIBRATION GUITAR
MOHAN VEENA

 ジャック・ジョンソン聴くなら、絶対こっちでしょ!
 1 週間後の追記

 アルバムタイトル「IN GOOD WE TRUST」はアメリカ合衆国の1ドル紙幣に書いてある「IN GOD WE TRUST」(われら、神を信じるものなり)のもじりらしい・・・一神教の対角線上にある多神教ブッダの故郷インドの楽器を奏でるハリー・マンクスは、如何なる理由をもってこのタイトルを付したのであろうか。

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