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知らんかったっとってん、ちんとんしゃん!



 7 月8日の日曜日、デヴィッド・フィンチャーの映画「ゾーディアック」を見るつもりで、新宿へ出かけたのだが、ナニをどう間違ったのか、「プレステージ」を見てしまった!!!あわわわわわわ、まるでつまらない。でも間違った僕がわるいんだし、大好きなスカーレット・ヨハンソンが出ていたし、渋い演技のデヴィット・ボーイも見られたからよし、とするか・・・とは簡単にはいかないくらいの怒り心頭に発するつまらなさである(「メメント」の監督だからな)。
 そ の夜は、代々木の串カツロックバーで、カントリーバンドのライブを見にいくので、まだ3時間あまり時間がある。それまでを、映画の口(目)治しに、新宿ディスク・ユニオン5Fとタワーの9FでCDあさり。

 タワーの試聴機に入っていた4枚を購入。リチャード・トンプソンの新作「SWEET WARRIORS」(写真真ん中)、エリック・アンダーソンのライブアルバム「BLUE RAIN」(写真右)・・これらは前から買うつもりでいたので、迷わず購入。

 あとの2枚はまったく名前すら聞いたことのないミュージシャン。RTもEAも本当に素晴らしいアルバムだったが、ダニー・フラワーズとハリー・マンクスという無名(って僕が無知なだけだから、ごめんね)の二人の音楽も実に新鮮でビックリ。
 と くに「ダニー・フラワーズ」の「TOOLS FOR THE SOUL」(写真左)は、実にスワンピーな一枚。英語が不得手なので、歌詞の意味はわからない。それなのに、心の奥底まで引っかき回されるかのような歌に胸がワラワラしたので、歌詞の内容を知りたくなり、辞書を片手にもう一度、聴き直す。  ウ〜〜〜、酒とクスリに溺れながらも、ひた向きに生きてきたギタリストの魂の叫びと真摯な宗教的霊感に満ちた傑作CDなのでした。
 1 曲目は、アルバムタイトル曲である「TOOLS FOR THE SOUL」・・・ここに彼の全てが言い表されている。このタイトルは、昔、ダニーにギターをプレゼントした人が「このギターは、魂に到達するためのツールである」と言ったというその言葉からとられている。
 なにも音楽家だけにスペシャルなことがおきるわけではない。普通に暮らしている人にも事実は小説より奇なり、みたいなことはしょっちゅう起こる。家族の病気や死、友人の寝返りや恋人の裏切りなどなど・・たまたまそれらが、ギターが弾ける人の身の上に起きたとき、その人は、ギターをもって、その事実に向き合い、ギターをもってその気持ちを表現するしかない。ダニーにギターをあげた彼の預言は「君はやがてギターを道具として魂の声を聴くようになるだろう・・・なぜなら、それが、神が君にギフト(ギターの才能)を与えたことの意味だから」ということかも知れない。
 音楽は、なつかしくてなごやかなメロディを奏でるナショナルギターのイントロに続いて「この人一体いくつ?」と聞きたくなるほどの老人声で歌が始まっていく。僕は、なにせ、老人声(ヨレてる、カスレてる、しゃがれてる)にめっぽう弱い。しかもナショナルギターの音が大好きときている。ことさらに好きな要素が二つも重なっているので、ぐっと、ぐっと、ぐっと、ぐっと(相乗効果、2×2ね)ときてしまうのに、な、なんとエミルー・ハリス姉さんの声がそれらに寄り添うのである。うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ(鼎乗効果、2×2×2ね)、まさかエミルー姐貴にこんなところでお逢いできるとは!相変わらず、お美しくていらっしゃる!と思わず声をかける(当然返事はない)
 と ころが2曲目の「KEEP ON LIVING」になると、老人声がハリのある力強い歌に変わる。高く張るところは声が潰れるが、そこに胸がキュンとなある。またところどころで聞かれるヒカップ唱法がなんともキュート!そして徐々にスワンピーな世界が広がっていく。
 〜「生き続けることのみが、前に進む唯一の方法。決してあきらめることなく」・・・この曲は、ジョン・レノンにハモニカを教えたナイスなテキサン「デルバート・マクリントン」との共作である〜ナットク!
 続 けて3曲目「REASON TO TRY」、かっちょいいピアノにのっかるボーカルは、まるでリオン・ラッセルである(中ジャケにある写真からして白いあごヒゲがすでにしてラッセル調です)。うひゃぁぁ、『』ええ(またか)カッコエエです。ここは完全にスワンプワールド。本人の解説によるとこのレコーディングはレイ・チャールズの絵が飾ってあるスタジオでワンテークでオッケーだったそうである。ふ〜ん。
 〜僕の人生は、まるで苦痛の運搬人。僕はそのあまりの苦痛に死にたくなったり、倒れたくなる。だがそれは「彼」が与えた、生きるための理由だ。だから僕はトライし続ける〜
 4 曲目は、「どのようにすればスライドギターをツールとして魂の最深部に到達できるのかということを教えてくれたロバート・ジョンソンへの感謝と祈りの歌」・・・1曲目のタイトルに見事に呼応している。たまりまへんなぁ。
 5 曲目・・・どうやらこのダニーさんは、どこかの宗教の信者かも知れない。その「集会」に行ったときの歌。ホントに悩んでいたことがときほぐされていく様が正直に歌われていく。
 6 曲目・・・ここからこのアルバムは、ベートーベンで言えば「傑作の森」へ踏み入るがごとく、名曲が連なってゆく。まずこの「WHAT WOULD THE FATHER SAY」は、もしこの曲をエリック・クラプトンが聴いたら「ぼくにカバーさせて!」と絶対言ってくるだろうと思わせるカッコよさ・・・強烈な反戦歌であるが、ダニーの歌声が真実味を持ってそくそくと胸に迫ってくる(残念だが、ECの歌ではそうは行くまい)実はダニーはエリックがライブでよく歌う「TALSA SOUL」の作曲者であったのだ!道理で、J・J・ケールまでもを彷彿とさせるわけだわ。へぇ〜。
 〜戦争は戦争を再生産するだけで何も解決しない。宗教的エゴ、強欲、オイル、権力と金、それらがわれわれが造り出した恐るべきドラマのスポンサー。子供たちが子供たちを殺していく。われわれは「父」なるもの、「母」なるものの代理人。いまこそ、そのように行動する時〜
 7 曲目は、「ある夜、ギグが終わってホテルに帰ろうと歩いていた時、通りに建っていた、有名な彫刻家アラン・ハウザー(大酋長ジェロニモの直系(甥))が彫ったインディアン戦士の銅像を見て心打たれた時に作った」という歌「PRAYER SONG」(祈りの歌)。インディアンに迫害を加えてきた白人の歴史に思いを馳せ、打ちのめされた彼は突然歩けなくなったそうである
 〜われわれは、確かにこの聖なる土地で戦った。正しい道は何?それを示してくれ!だが、きっと誰も正しくない。この祈りの歌を空に向ける。そこには命があってくれ〜珍しくフューチャーされるフルートの音色が、ケーナのように哀しく響くが、そのフルートには、再びエミルー姐貴のコーラスが寄り添い、コーダではフルーティストのビル・ミラーのコーラスがインディオの最後の叫びのように聞こえてきて、思わず涙腺がゆるむ。
 前 曲で極限までにゆるんだ涙腺は、8曲目「READY TO CROSS OVER」の冒頭のダニーのふりしぼるような歌声を聴いた瞬間、ついに堰を切ったかのように、泪、滂沱として流れ出す。
 〜「死」は終わりではない。それは理解はできないが変化だ。人生がそうであるように、その変化を平和におだやかに準備することはできない。僕のまわりには死があふれている。この歌は、家族の葬式で歌うために造った歌。時間の経過の中で家族は死をどう乗り越えていくのだろう〜タイトルの意味は「あの世に渡るための準備」とかいったところかな。
 一 転、9曲目はアップテンポなロックナンバーであるが、テレビに映る「テレビ伝道師」の胡散臭さにネガティブだった彼が、「神は彼でさえも愛している」ことに覚醒し、自らもそのように「彼」を愛していくことを決意する歌。一緒に購入したリチャード・トンプソンの「SWEET WARRIORS」(明快かつ強烈なイラク反戦歌アルバム!間違いなく本年度のマイベスト3)に共通する音楽性にビックリする。とくにそのアルバムの白眉「DAD'S GONNA KILL ME」(バグダッドに殺される!)との間に見事に音楽的な呼応(シンクロニシティ)がある。加えてお盆が近いせいなのか、ダニーのこの歌には、ウォーレン・ジヴォンが天国から蘇り、おひょいさん(憑依ね)しているかのようで一人で勝手にコーフンする!
 1 0曲目は子供への愛情を綴った歌。「僕は自分の子供を愛す。僕はあなたの子供を愛す。僕は僕ににできる最高のことを子共のためにしよう!」
 なんとも優しい希望と慈愛に満ちた、このアルバムでは珍しく明るい歌である。
 ラ ストはダニー・フラワーズが我が師と仰ぐ「平和の人、静かなる人、力強き人、カーティス・メイフィールド」へのトリビュートソング。

 歌詞は最後に

 〜僕は荷物運搬人〜神の御前で神の御手が私の上に置かれるまでは〜

 と、締めくくられる。善き言葉である。 
 に しても、ダニー・フラワーズに、ハリー・マンクス・・・こんなミュージシャンがリチャード・トンプソンやエリック・アンダースンの間に埋もれているなんて、「知らんかったっとってん、チントンシャン」(@スチャラカ社員。スーパーエキセントリックシアターじゃないよ)
 4 枚のCD、どれをとっても「若さシラズ」、「渋さシリ」の男臭い音楽にすっかり堪能したので、いつしか映画のことは忘れて気持ちよくなった。

 その夜の部の代々木の串カツロックバーでは、実に根性の入ったブルーグラスバンドの狂乱のギグを見ることができた。結局はまことに善き日曜日となったのである。

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