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2007年のマデリン



 「 21世紀のビリー・ホリディ」「ジャジーなノラ・ジョーンズ」「女版レナード・コーエン」「ポスト・ジョニ・ミッチェル」・・・よくもまぁ、レコード会社もいろんなコピーをつけるものである。
 そ んな彼女(ってどんな彼女?)「マデリン・ペルー」が日本にやってくると聞いて、渋谷のQUATTROに聴きに行く。なんと立ち見で、7,500円である。
 そ もそも彼女の存在を知ったのも、御他聞にもれず、3年ほど前の新宿のディスク・ユニオンでの決算大セールで大人買いしたときのCDの一枚「ケアレス・ラブ」だった。ちょっと、キレイなオネーチャン風のジャケ写(写真左)だったので、ひょっとしてポップカントリーだったらどうしよう、との不安もあったのだが、なにせレーベルは「ROUNDER」で、プロデユースがなんとジョニ・ミッチェルのプロデユーサー「ラリー・クライン」である。間違いがあるはずがない!実際、大正解だったわけだが、一聴してビックリ!レナード・コーエンの名曲「哀しみのダンス」のカバーという渋い幕開けである。しかも、チョイこむずかしい本人のそれより歌全体が香しい!それだけでも驚きだが、全編(ほとんどがカヴァーである!)を通じてなんともオールドタイミーな南部のジャズフレイバーが「ただ酔って」(漂って、と打ったらこう変換されてしまいました・・確かにそうだけど、ワープロにまでそう思われていると思うと少しグヤジィ)くる・・だけど、どこか「おされ」な佇まいで、あまり土やホコリの匂いがしない。でもどこかブルージーで哀しく切ない。思わずバーボンを飲むのを辞めて、ワインに切り替える。何故酒を変えるのか?って言われても、ここらのメカニズムは我が事ながらわからないので答えようがない。
 そ いでもって、カヴァーされますものは、先述のレナード・コーエン、ビリー・ホリディ、ボブ・ディラン、ベッシー・スミス、エリオット・スミス、ジョセフィン・ベイカー、それにカントリーブルースのハンク・ウィリアムスである。それにノラ・ジョーンズの「ドン・ノウ・ホワイ」の作曲でグラミーを獲得したジェシー・ハリスとマデリンとプロデューサーでもある「ラリー・クライン」三人共作の1曲のみオリジナル・・・この渋いカヴァーの人選はど、ど、どうよ・・こころある方はもちろん、こころない方さえも、全員、異口同音に「そりゃー、めちゃしぶいワ!」と叫ぶであろう。
 実 はこのCDの存在はしばらく忘れていたのだが、1ヶ月ほど前にCDを少し整理していたら、ポロリと僕の眼の前にあらわれた。「あれ?これ何だっけ?あー、マデリンだ・・・ごめんよ、CD棚に横置きしてたから忘れていたんだ、スマんのう!」と、罪滅ぼしにさっそく久しぶりに聴くとこれが実に心地よい。それで最近はどうしてるんだろう?と思い、ヤフーでHPを見てみるとビックリ!なんと去年の暮れに新譜が出ているではないか!それに、4月に東京でライブがある、との情報まで。おー、これをシンクロニシティと呼ばずして何を呼ぼう!これは新譜を買わネバ!ライブに行かネバ!イカがネバネバ、「イカネバの娘」である。(スルーしてもいいよ)
 そ れで新譜「ハーフ・ザ・パーフェクト」(写真真ん中)を購入。さらに驚いたことに、彼女の幻のデビューアルバム「ドリームランド」も再発されているではないか!もちろんそれも購入(写真右)する。
 一 挙にマデリンの全アルバム(といっても3枚)が揃ったので、聴きくらべてみる。これが見事に同じ完成度である。実はデビューアルバム「ドリームランド」は、1997年、彼女が若干22才の時の作品である。これを聴いて22才の女性が歌っていると思う人がいればお目にかかりたい。それほど成熟しきった大人の歌いっぷりである。すでに完璧にでき上がっている。だから、その10年後、彼女の32歳の最新作「ハーフ・ザ・パーフェクト」の完成度と同じ完成度なのである。成長がない、ということではない!あまりにも早くに完成していたのである。パッツィ・クラインの名曲「ウォーキン・アフター・ミドナイト」のカヴァーの1曲目から、アシッドジャズの変態ギタリスト「マーク・リボ」(トム・ウェイツで有名ね)、サイラス・チェスナット(巨漢で有名ね)など、一筋縄でいかない腕っこきが、マデリンの放つ波動に呼応して見事なサポートを聴かせている。
 マ デリンは、ジョージア生まれだが、13歳のときに両親が離婚。そのため13歳からはパリで育ったらしい。なるほどね!3枚のアルバムのどれにも、1曲づつ、デビューアルバムには「バラ色の人生」、「ケアレス・ラブ」には、ジョセフィン・ベイカーの「二つの愛」、最新作にはセルジュ・ゲインズブルの「ジャバネーゼ」というようにフランスの曲が入っているのはそういうことか。しかもフランスと縁の深いカナダ生まれのレナード・コーエンをことの他好むのもそういうことか。カナダの代表選手ジョニ・ミッチャルの代表歌(リバー)をこれまたカナダ人K・D・ラングとデュエットするのもそういうわけか!
 「 父が好きだった音楽にも影響を受けたの。ジョニー・キャッシュ、ハンク・ウィリアムス、ロバート・ジョンソン、ファッツ・ファーラー、それにルイ・アームストロング。家ではいちもそういう音楽が流れていた」

 「10代の頃から、パリの街角で歌っていたんだけど、例えばエディット・ピアフなどの音楽をフランスで体感できたのは本当に貴重だったわ」
 ジ ャズにブルースにカントリー、ここまでの融合ならわかる。彼女はそれに加えてシャンソンまでもが融合しているのだ。この独特の洒脱感はアメリカで様々なジャンルの音楽を身体に溶かし込んだ後、ストリート音楽のメッカであり、NY以上に様々な人種が溢れかえるパリのストリートで、様々な人種のミュージシャンと入り交じって自らの音楽性を磨いていったマデリンにしか醸し出せないものなのだろう。
 ク ラシックでもベートーベンやバッハなどゲルマン人の音楽をフランス人が弾いたり、指揮したりすると、ドイツ人やロシア人のそれとはあきらかに違うニュアンスが生まれるが、それに近いのかもしれない。僕はシングルモルトウィスキーが好きだが、ブレンドも好きである。シングルモルトの放つ、強烈で独特のクセのある香りの魅力に抗し難いが、何10種類のモルトを絶妙にブレンドしたウィスキーの洒脱で洗練された味わいにもこれまた抵抗しがたい。そんな絶妙の新型ブレンデッドウィスキー・・・それが「マデリン・ペルー」新発売!
 最 新作「ハーフ・ザ・パーフェクト」も前2作と同じくカヴァー中心の組立である。違うのは、マデリン、ジェシ・ハリス、ラリー・クラインの共作が3曲に増えているいることくらい。それとドリームランド、ケアレス・ラブ、ハーフ・ザ・パーフェクトの順番にカヴァー曲の時代が新しくなることぐらいである。どれをお聴きになっても、損得なしである。それと冒頭で日本のレコード会社が彼女にかってにつけた様々なコピーを紹介したが、内心ではマリア・マルダーが一番近いイメージなのになぁ、と僕は思っていた。だがこのアルバムのボーナス・トラックにおさめられている、これまたレナード・コーエンのカバー曲「クレイジー・トゥ・ラブ・ユー」を聴いていると、まるで「帰らざる川」か「荒馬と女」の中でマリリン・モンローが歌っているかのような錯覚に陥る。それは、たった今誕生したばかりの、砂塵吹き荒れる西部で生きる女の生々しい物語である。まさに「2007年のマリリン」がここにいる。
 と ころで、肝腎のライブであるが、初日ということもあったのであろう、ノリが悪かった。特に前半は、調子悪く、ラフというより少し雑な演奏に、歌も洗練とはほど遠い、ハスッパな歌であった。後半は少し持ち直したけど。だがそういうときもあろう。CDがこれだけいんだから、それでもおいらは応援するぜ!だってそれがファンってもんだろう。
 に しても、マデリンの日本のレコード会社さん、ユニバーサルミュージックさんよ!マデリンを呼べるなら、同じレーベルの「ルシンダ・ウィリアムス」姉御を何故呼ばぬ??どういう料簡だ?ルシンダなら、7万5千円の立ち見でもおいらは行くぜ!75万では行かないぜ!逆立ちして聴け、というのなら逆立ちだってするぜ!ソファーに横になって聴け!というのなら、めちゃくちゃ喜んでそうするぜ!
 そ のルシンダ姉御の育ての親とも言える、ギタリスト「ガーフ・モリックス」がもうじきやってくる。やでうでしや「ガーフの世界」!を楽しみながらルシンダに思いを馳せることにしよう。
                 2007年4月18日記

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