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今ごろだけど「グエムル〜漢江の怪物」を観る(ネタバレあり)



 韓 国映画はよく観るが、韓流怪獣映画は初めてである・・で、これがおもしろいのだ。

 どこがおもしろいのか?と言えば、怪獣映画のセオリーにことごとく肩透かしを食らわせるところである。
 ハ リウッド製の「ジュラシックパーク」や「ゴジラ」や「キングコング」とも、日本製の「ゴジラ」や「ガメラ」とも、まるで風合いが違う。大体にして怪獣の大きさからして、小さい!人間のせいぜい10倍くらいの大きさである。しかも、けっこうドジである。漢江で逃げ惑う人々を追いかけるのだが、堤防からずり落ちたりしている。しかも姿カタチが、美しくない。だってサバのお化けなのである。サバって鯖だよ!シメサバにするあのサバ・・他国の怪獣はそこそこにカッコいいが、グエムル君はまるでかっこ悪い。
 話 は、オツムの弱いお父さんカンドゥ(ソン・ガンボ)が、怪物にさらわれた可愛い娘(父に似ず、お利口さん)を、家族一同(カンドゥのお父さん(パク・ヒボン)、大卒なのに職がない酒飲みの弟(パク・ネイル「殺人の記憶」、なぜかアーチェリーのオリンピック選手の妹(ペ・ドゥナ「韓国版リング」)といった、変な家族たち)で救いに行くというものだが、怪獣に立ち向かう武器は旧式のライフルとアーチェリー!それになんと火炎瓶なのである。何故?というと単純にかれらはド貧乏な家族であり、特にお父さん(カンドゥ)は、オツムが弱いので、怪獣の血を浴びたと正直に話しちゃったので、家族共々、病院に隔離され、そこをほうほうのていで逃げ出したからである。つまり国や軍隊から見放された、というよりむしろ彼らに追われる完全に孤立無援なファミリーなわけね。
 こ の家族を演じる俳優たちが全員ウマイ!というかそれぞれが持ち味を全部出しきっている。とくにおじいさん役のパク・ヒボンはまるで「志村喬」が喜劇を演じているかのように味わい深い。まったく頼りなく、だらしないカンドゥにあきれ返る叔父(パク・ネイル)と叔母(ペ・ドゥナ)に「小さいときに栄養不良だったからカンドゥはアタマが弱くなってかわいそうなのだ、だからいまだに数もまともに数えられない。だから優しくしてやれ」と言うシーンがあるが、その「数の数えられない」カンドゥの言う「弾はあと1発残っている」という言葉を信じた(当然弾は残っていなかった)ばかりに、怪獣に倒されるシーンが哀しくもおかしい。前半の主役は完全にこのパク・ヒボンである。
 韓 国は、なまぬるい日本人と違って、政府や在韓米軍に激しい批判を浴びせているときくが、なるほど、漢江にウィルス絶滅のクスリを散布しようとする、あくまでもおせっかいなアメリカ軍や、的外れでお間抜けな怪獣対策にうつつをぬかす、どこまでもおまぬけな韓国政府など、見事なまでにおばかさんに描かれ、乾いた笑いの対象になっている。
 そ や、在韓米軍のホルマリン漢江垂れ流し事件という実際の話しをもとにして生まれた怪獣「グエムル」自体が、それら、オバカな現韓国政治体制のアイコンになっている。そのオバカなのに強力であるがゆえに、逆に危険この上ない存在である「怪物」に、名も無い無力な貧乏人家族が、力を合わせて全力で立ち向かい、最期は、反権力の象徴である火炎瓶とアーチェリーという原始的な武器で倒し、漢江に戻ろうとするグエムルを、あの情けなかった筈のカンドゥが、腕一本で、鉄パイプで串刺しにして、娘のカタキの「怪物」にトドメを刺すのである。
 韓 国人の胸はさぞかし、スーッとしたことだろう。韓国で歴代1位の興業成績をあげたのも、むべなるかな!であるし、日本ではそれほど受けなかった理由もわかる気がする。
 な んといっても、怪獣映画のパロディではないのに、全編を通じて笑え、最期に泣ける怪獣映画って滅多にないのである。

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