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春の海 エイモス のたり 松太郎



 5 月12日に星屑のギタリスト「エイモス・ギャレット」のライブ「トムズ・キャビン 聴かずに死ねるかシリーズ!第2弾!」を観たときの感想は、すでに書いた。
 こ のときは、文字どおり天国的(行ったことないけど)心地よさを味あわせてもらった。だが天国気分なんてそう何度も味わうものでもなかろうと思って、追加公演があることは知っていたが、追っかけなかったのである。だが、後日、とあるライブハウスで会った知人から、追加公演のゲストボーカルが「中村まり」さん(写真左と真ん中)だと聞いて焦った。なぜなら彼女は僕の、今のところの日本人ミュージシャンの数少ないアイドルの筆頭なのである。数年前、吉祥寺曼荼羅で偶然見た彼女のライブでやられ、そこで会場販売していた500円の自主制作CD(写真右・・・心ある知り合いには、ことあるごとにこのCDをあげまくったなぁ)を聴いてさらにやられて以来のおっかけなのである。その彼女がこともあろうに(こういう時に使う常套句ではないな)エイモスと一緒のステージに立つとは!さらにあろうことか(こういう時に使う慣用句ではないな)マリア・マルダーの名品「真夜中のオアシス」を歌うとは!
 ま さに僕にとっても「聴かずに死ねるか!」となってしまったのである。あわててチケットを求めて奔走したが、もちろん完売・・・トホホホ。だが天国からの贈り物が、mixiを通して星屑のように降ってきた。エイモスのコミュを見ていたら「6月3日 ラ・カーニャのチケットですが行けなくなりました。どなたか、ご希望のかたがいらっしゃればお譲りします」だと!速攻で「お願いしますだ!お代官様!」とメッセージを送ったところ即座にお代官様より「どうぞ!かわりに楽しんできてください」とのありがたいお言葉がっ!はいはい、お言葉に甘えさせていただきますですよぉ〜!
 そ して当日・・・会場ではチケットの番号順に並ぶのだが、なんと譲っていただいたチケットは7番目(おそらく80人中の)である。その気になればエイモスにかぶりつける席を確保できる番号である。だがギターの弾けない僕が最前席に陣取っては申し訳ない。そこで慎み深く、3列目の席をゲットさせていただく。店内を流れるBGMは、カレン・ダルトンの「IN MY OWN TIME」!そう、この傑作アルバムのギタリストがエイモスなのだ。ラ・カーニャの選曲のセンスの良さに脱帽する。
 2 0時開演であるが今回は、知人のロックミュージシャン「Y口」さんと待ち合わせるため早めに行った(19時入場)ので時間余るなぁ、と思っていたら、中村まりさんがステージ上でなにやら動き回っている。ま、まさか!ひょっ、ひょっとしてオープニングアクトで彼女が?そのまさかだったのである。事前になにもアナウンスはなかったが、突然20分間、彼女のソロライブが行われたのである。う〜〜〜彼女のオリジナルは英語詞なので、意味はわかならないが、まるでキャロル・キングとジョニ・ミッチェルが合体したかのような美しいアルトの歌声にはどこか寂寞感が漂い、グッときてしまう。まだ20代半ばのはずだが、「大好きなミシシッピ・ジョン・ハートの歌を歌います」などとオヤジ泣かせなことをのたまう。そしてボブ・ディランのカバーまで披露・・・ったく、もぅ、この娘ったら!どこまでオヤジ殺しなんだろう、うれし泣きするしかないではないか!うるうる・・・・にしても一体、このところ、僕がどれほど善行を積んできたというのか、まったく身に覚えがないのに、チケットは入手できるわ、しかもいい席だわ、中村まりさんのライブは見れるわ、いいことづくめである。
 そ していよいよエイモスのライブが始まった。お〜何やら前回より演奏が滑らかで力強い!そしてベースとの一体感がなによりも素晴らしいグルーブを醸し出している。前回からほぼ1ヶ月、このメンバーで日本全国をまわってきたのだから当然かも知れないが、はっきりいうと前回の100倍くらい気持ち良い。前回が天国的気持ち良さ!と書いたので、今回はどう書けばいいのか、極楽的気持ち良さ!と書けばいいのか?(天国と極楽はどう違うのかわからないが、日本人の僕には極楽の方がいいような気がする。温泉にはいったとき口から出てくるのは「天国! 天国!」じゃなくて、やっぱり「ゴクラク! ゴクラク!」だもんね。限りなくスィートな時間が、のったりと、うねるように流れるエイモスの世界にどっぷり浸れば、やはりそこで口をついて出るのは「極楽じゃ、極楽じゃ」なのじゃ。
 与 謝野蕪村もおそらくエイモスのライブを観てこの句をよんだのであろう。

 「春の海 えいもす のたり のたりかな」
 前 回は遅れていったので、席からエイモスの指使いとかは見ることはできなかったが、今回はなんといっても前から3列目なので、ギター弾きではないのに、いやでも目がいってしまう。そんなギターが弾けない僕が見てもこのひとの弾き方は、他の人は違うようだ。まるでペダルスティールのようにきこえる部分では、どの指をどう滑らせているのか(しかも、その間に目にも止まらぬチョー早業でボリュームを調整するのだ!)わからないほど早い・・・・・ここの部分は、一緒に行ったロックミュージシャン「Y口」さんの解説によると「・・・エートスさんがスティールにしか聞こえなかった部分は指自体を大幅にスライドするのと、それに加えて、あり得ない音幅のチョーキング(2音半!しかも複絃でそれが一絃と三絃だったり)が組み合わされてたんですねー。更にそれにボリューム奏法が加わっていたりもしました。凄い!・・・」なんだそうである。)・・・・よくわからないが、Y口さんをその夜テレキャス小僧と化すほどに凄いのだ!
 僕 の前の席は親子連れ(お父さんと高校生くらいの)であったが、お父さんが、時々「ほら、見れ!見れ!」といったかんじで子供の肩を抱いてエイモスの方に顔を向けさせる。子供も食い入るようにエイモスの運指を見つめている。おそらく今回の入場者中最も若い、おそらくギタリストになりたいであろう彼に、エイモスの技芸が伝承されるのであろうか。そうであることを願わずにはいられない。おそらくエイモスは、どこかの音楽学校やギター教室に行って習ったわけではないのだ。エイモスのアイドルギタリスト、スティーブ・クロッパーのライブをまばたきもせずに見つめていたのだ。そして家に帰って、目に焼き付けたスティーブの運指を思い出しながら血が出るまで、腱が切れそうになるまで弾いたに違いない。それでこそ技芸の伝承だ。だからエイモスのギターはワンアンドオンリーなわけだ。あのあと父と子はどんな会話をかわしたんだろうなぁ。ちょっぴり尋ねてみたい気がした。

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