前のページへ 次のページへ 「エートス」こいて、もぉ〜!トップへ Net-Sproutトップへ
お〜レコはシロオモイ!


 ・ ・・・じゃなかったコレはオモシロイ!

 この本の作者は知っている。講談社現代新書から出ている「アメリカ南部」という本の執筆者であるので覚えていた。アメリカ南部出身でありながら1976年から日本文化に憧れて来日していらい20年以上日本で暮らしている著者が書いたこの本はアメリカ南部を視座にしていながら最終的にはアメリカそのものを語っていて興味深い本であった。
 ま たアメリカ南部の文化を語る割りにはやたら音楽のことが出てきて、それが僕にはとても面白くて、理解の手がかりにもなった。
 「この著者はよほど音楽が好きらしい・・この人がアメリカ南部音楽について書いてくれたら、オモシロイことになるんだろうなぁ」と思っていたら、なんと去年のくれにすでにオモシロイことになっていたらしい。
 プ ロローグは「すべてはふたりのキングから生まれた」と題し、キング・オブ・ブルース、「B・B・キング」とキング・オブ・ロックンロール「エルビス・プレスリー」が並んで写っている1956年に撮影された写真に始まり、エピローグは「都市という荒野で歌うボブ・ディラン」で終わっている。

その間に5つの章があり、それぞれのタイトルは次の通りである。

第1章 「黒人音楽はエルヴィスの中に焦点を結んだ」
第2章 「ブルースマンの悲痛な叫び?ミシシッピーデルタの混淆から」
第3章 「都市をゆりかごに生まれたジャズ?ニューオリンズの坩堝から」
第4章 「ゴスペルー魂の高揚?信仰と宗教、そしてアフリカの匂い」
第5章 「カントリーの故郷はどこか?オールドアメリカへの郷愁
 2 0世紀の音楽を塗り替えたロックが生まれた背景にはアメリカ南部の民衆音楽と過酷な歴史の綾織りが深く刻まれている。

 第2章ではブルース発生の歴史がミシシッピデルタの地理的偶然性によること、第3章ではジャズが生まれるにはアメリカ南部の街「ニューオリンズ」が都市化することが必要だったこと、そして第4章では、黒人ゴスペルと白人ゴスペルの違いと融合が、最終章では黒人音楽と結びつきロックを生み出すためのもう一つのルーツミュージックであるカントリーのルーツがどこなのかを語る。
 す べてがとても解りやすく、これまで知りたかったがよくわからなかったことがすべて氷解した。しかもそれらがマーチン・スコセージ「ザ・ブルース・ムーヴィ・プロジェクト」「ブルース・ブラザース」「ミシシッピー・バーニング」「オー!ブラザー」「コールド・マウンテン」「ソングキャッチャー(歌追い人)」など僕の大、大好きな映画を視座にして語られるのである。面白くないわけがない!あっという間に読了。

 特にエピローグで語られるボブ・ディランの音楽の真髄をつく文章はこれまで読んだどのボブ・ディラン論よりクールに熱い。とくに「風に吹かれて」について書かれた次の文章には唸ってしまった。
 「 ・・・「そうさ、友よ、答えは風の中、風の中に舞っている」そうとしか歌えなかった。なぜならディランの問いは答えのない問いだからだ。そして、ひとり答えのない問いを問うところに、ディランらしさがある。「風に吹かれて」の不思議な味わいには、いったい彼はだれに向かって歌っているのだろうかという謎めいた感じが含まれる。ディランには、比喩的な意味でだが、目の前に座っていて、彼の言葉をたちどころに共有するような聴き手はいなかったのではないか。そこに彼の現代性がある。聴き手がいないのだから、風の中に歌を送り届けるしかない。かって、ミシシッピー・デルタの野唄の歌い手がそうであったように。違いは、デルタが黒人の血と汗を無限に吸い込み続ける荒野であったのに対して、ディランがいるのは、だれも空を見上げてその高みに本当は何があるのかと問わなくなった都市という荒野であることだ」
 僕 はかって、「一体この人は誰をめがけてギターを弾いているのだろう?
 少なくとも目の前の聴衆ではない!まるでこの会場の外を歩いている人に、いや、もっと遠くのどこかにいる見ず知らずの誰かのこころに目がけているのではないか・・」そう思わされたギタリストと出会った経験を持つ。そのギタリストのレパートリーにはいつもボブ・ディランがあったことを思い出した。
 以 下はエピローグの、そのまたエピローグである。

「・・・・南部のルーツ・ミュージックは、ブルースにしても、カントリーにしても、悲惨な生活から生まれ、哀しみを歌うものが少なくない。そういう気の滅入るような内容の歌が、なぜか多くの人の心を捉える。それは、歌を通して体験を共有するということが人間に計り知れない力を与えるからだ。人間はただひとりで自分の存在の無意味さに絶えることができるほど強くはない。しかし、たとえ家郷に帰れなくても(homelessness)、土から切り離されても(uprootedness)、そしてまた、愛する者を失っても(blues)、 その喪失の切実さを分かち合う人々がいる限り、私たちは生きることができる。音楽が愛という言葉と結びつくとすれば、そういう意味でだろう。哀しい音楽がなぜ楽しいか。美しいからだ。そして心の有りようを偽らずに伝えようと模索するからだ。ルーツ・ミュージックはそうした単純さを失わない音楽だ」
 ま さに目から鱗の、一家に一冊の必殺のアメリカ音楽入門書である。

題名:「ロックを生んだアメリカ南部?ルーツ・ミュージックの文化的背景
著者:ジェームズ・M・バーダマン/村田 薫
出版社:NHKブックス 
定価:¥1,200(税抜き)

前のページへ 次のページへ 「エートス」こいて、もぉ〜!トップへ Net-Sproutトップへ