前のページへ 次のページへ 「エートス」こいて、もぉ〜!トップへ Net-Sproutトップへ
ノーベル賞とネットスプラウト〜日本で天才ミュージシャンが出現しにくい理由

 数 年前、京都の島津製作所の社員の田中耕一さんという方がノーベル化学賞をとったことがありました。このとき、小泉首相は、「大変おめでたく、すばらしい出来事です!」とテレビでニコニコしながらコメントしていました。ぼくはこのノーテンキなコメントに大いに違和感を持ちました。
 よ く「ノーベル賞級の発明」とか「ノーベル賞ものの発見」とかいいますが、文字通りの「ノーベル賞ものの発明」が、当の日本で「発見」されず、ユーラシア大陸の東の果ての北欧の小国で「発見」されるという事態を「ヤバイ!」と思わず「おめでたい」とは「お前の方がよっぽどメデタイわい!」と思ったわけです。
 む しろ逆に「このような国際的発明を自国で認識できないことは異常であり、まことに恥ずかしく、由々しき事態です。至急、国内の体制やシステムを見直し、素晴らしい発明が速やかに認められるよう点検します。それが技術立国ニッポンへの近道だと確信します」というコメントであれば、彼は「歴史に残る名宰相」だったでしょうに。いまのままでは、「自民党を壊さず、日本そのものを破壊しただけのアホバカ宰相」と呼ばれることになるであろう。
 で 、このように憤慨しつつ、小泉さんに呪いをかけていた時に、「・・・でも、これって日本のレコード業界にも言えているかもなぁ」と思ったのです。「ほんとうに天才ミュージシャンが生まれていないのか?いや出現しにくいシステム、たとえ出現してもそれを見逃すシステムになっているのではないだろうか?」と思いました。
 で 、この「全曲聴きます!全曲コメント返します!」というデモーテープ募集サイト「ネットスプラウト」も、実は、ささやかながら、そういうミュージシャンを見いだすためにぼくらできることは何かないものか?という視点から始められたたわけです。ですから、なぜそんなメンドクサイこと(だってホントにメンドクサイんだもん!チャン隊長とOHJIさんホントにゴクロウさま))を始めたのですか?と問われれば「ぼくら(つまりスタッフ)のように直接音楽を作れないものにとっての最大の喜びは、一にかかって、天才ミュージシャンとの邂逅にあるのだから、そのチャンスを大きくしたいからです」と答えると思います。
 こ のサイトには「いちおしスプラウト」というコーナーがあります。ここは、1番「面白かった」アーティストをリコメンドするコーナーです。1番「売れそう」というミュージシャンを取り上げているわけではありません、と言うより何が売れるかなんて、僕らには、全くわからないので、できないだけなんだけどね。「なんだかよくわからないけど、やたら気になるミュージシャン」とか「いわく言い難いし、ヘンだけど、こころに残る歌声」とか「ぎゃー・・そうくるのか!わけわかんない・・でもそれってありかも!」・・・そんなミュージシャンを取り上げています。

 コイツってひょっとして天才かぁ?・・そういうミュージシャンに出会いたくて。
 音 楽は安定した世界にしか出現しません。ソマリアやボスニア・ヘルツェゴビナやイラクでは音楽は生まれません。爆弾や銃弾をよけながら作曲活動にいそしむなんて有りえないからです。
 日 本は、戦後60年以上にわたって平和を享受し、安定的な時代を迎えています。だから本来なら豊かな音楽文化がその食卓に豊かに花開いていて当然なのに、実は日本の音楽文化はちっとも豊かではありません。
 食 卓に寸胴いっぱいのカレーとバケツいっぱいのライスがあり、「好きなだけたべていいわよ」と言われても、そんな食卓を誰も「豊かな食卓」とは呼ばないと思います。焼き魚やオヒタシやみそ汁やタマゴ焼きや肉ジャガ等々いろいろな料理がのっている食卓を「豊かな食卓」と呼ぶし、誰でもが、できれば後者の食卓の家族に生まれることを願うと思います(多分)。・・(この文章、前にどこかで書いたな。)
 と ちろん、赤貧洗うがごとしの状況であれば、そんな「ゼイタク」は言えない。生きるのに精いっぱいなのだから、目の前に出された食えるものを食うので当たり前です。
http://www.akashic-record.com/y2005/ldpvsa.html#01
http://www.azusawa.jp/genron/nhk-03.html
 だ が、日本は生きるのに精いっぱいの国ではない・・なのに音楽に限らず、およそ文化と呼ばれるものは豊かに見えない。
 音 楽文化が豊かに花開くためにはどうしたらいいのだろう?市場はなぜカレーライス食い放題というような大量単品文化に傾斜していくのだろうか?

 本当に何故なんでしょうね?
 「 音楽業界というかレコード業界とて資本主義のルールに乗っかっているという構造上の問題だろう」、とか「所詮、白人が発明した黒鍵と白鍵だけの音階で、日本人の情緒を表現するのに無理があるのでは」、とか理由はいくつか思いつくものの、本当のところは誰もよくわからない・・わからないし、実は「答えイッパツ」なんて正解もないのでしょう。
 で も、ぼくら音楽業界人は、この正解もなければ、時間制限もない難問に立ち向かうしかない。音楽業界がこれからどうすると豊かに栄えていくのか?これは連立5次方程式を解け!というのとおなじくらい難問(というより連立五次方程式は解不能であることが証明されている)です。
 そ してよくよく考えてみれば、僕らのまわりは正解のない設問だらけです。ヒトは何故生まれるのか・ヒトはなぜ死ぬのか?それだって正解に辿り着いたヒトはいままでいなかったし、これからもいないでしょう。でも考え続ける・・「音楽業界でスタッフとして働く」というのはそれと同義ではないでしょうか?
 日 ネットスプラウトはそういう正解のない問いかけに対する僕らの一つの回答です。

ですがもちろん、これが、日本の天才ミュージシャンを発見し、日本の豊かな音楽文化を花開かせられる正解であるはずもありません。
 た だ、ネットスプラウトはたった今も「そのこと」考えているし、これからも「そのこと」考え続けるということだけは確証があります。

前のページへ 次のページへ 「エートス」こいて、もぉ〜!トップへ Net-Sproutトップへ