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世界史が必修なのに未修なのら!事件:後編

 実 は、このしごく「当たり前にように」見える順番(過去から現代に向かう視線)と、過去の歴史と現在の自分との関係性の切断こそが、生徒たちが歴史を苦手とする原因なのではないだろうかと思えてならない。
 たとえば世界史の場合、エジプトだのメソポタミアだのはとりあえず自分たちとは縁遠い。「ファラオがピラミッドをおっ立てるのが、おれらに何の関係があるってわけ」という気持ちにさせるってことはないのだろうか?
 こ れを、逆に「たった今の私」、「現時点の自分の目線」から発して歴史を遡って観る、ということにすればどうだろう?過去から出発して現在にいたるのではなく、今現在から出発して過去の歴史を射程におさめる、という「逆引き広辞苑」のような歴史の勉強方法はどうでしょう、という提案ですね。
 つ まり、竹島が問題になっているのではあれば、「なぜ韓国はあれほど、竹島にこだわるわけ?」と問い立てる。靖国が話題になっているのであれば、「どうして中国は靖国参拝にあれほど反発するわけ?」と問い立てる。すると、こういう問い立ては常に「いまの私」から発想しているので、「こんなこと勉強して何の役に立つんだよう!」ということがない。靖国について考えれば、当たり前のように太平洋戦争に行き着く。何で戦争をはじめたのか?と問い立てる。すると植民地主義というか帝国主義に行き着く。するとなぜ日本はドイツとイタリアと三国同盟(ベルリンとローマは同経度上にあるのでその2都市を直線で結ぶとヨーロッパ大陸の真ん中(枢)にまっすぐな縦線(軸)が引かれるので枢軸国とも呼ばれる)を結んだのか?というところにもたどり着く。するとドイツとイタリアと日本には「国家統一が遅れて植民地獲得競争に出遅れた国」という共通項があることがわかる・・すると何故ドイツは統一が遅れたんだろう、同じくイタリアは何故遅れたのか?そして肝腎の日本はどうだったのか?というようにどんどん過去に遡って歴史を考えることになる。すると明治維新の原因もわかる(我々は、日本は昔から日本として統一された国家のように思っているが、実は江戸時代までは、多数の邦(藩)が寄り集まっていただけの集合体、UNITED STATES OF TOKUGAWAJAPANだっただけなので、島津藩人とか黒田藩人という意識はあるにしても日本人という意識はなかった。そこへ突然黒船が来航して大騒ぎ、国家として統一されなければ清国のように植民地化されかねない・・統一すべきや否や、統一するのであれば如何にあるべきや・・その大騒動の顛末が明治維新に至る激動の歴史なのです。)また三国同盟について学べばその余禄として、何故、ブッシュが、北朝鮮とイラクとイランを「悪の枢軸国」と読んだのかもわかる(ブッシュの言う「悪の枢軸」=「THE AXIS OF DEVIL」を耳にすれば欧米人は誰でも軍事独裁国家であった第二次大戦中のドイツ・イタリア・ジャパンの悪夢を想起するのである。おバカなブッシュもやるものである。)ついでに何故国連軍のトラックに「UN」の文字が大書されているのかもわかる。(国連も旧連合国軍も英語にすれば同じ「UNITED NATIONS」である。つまり旧枢軸国はいつまでも「UN」の監視下にあるのだぞ!わかっちょるね!あ?ん!特にEUに入った独・伊はいいとしても、おい!そこのニッポン!変なことすんじゃねよ!)というドーカツ警告記号である(たぶん)でなければあれほど巨大な文字で「UN」と書く理由がない。
 こ ういう逆転の歴史の学び方は如何であろうか?
 こ の勉強の仕方には、いくつかメリットがある。  一つは先にも言ったが、常に「今の私」から発想しているので、「こんなこと勉強して何の役に立つのかしら?」と疑念をはさむことがないことと「いまの自分」と常に接続しているので歴史が他人事ではなくなること。もう一つは、それぞれ別個だった筈の日本史と世界史が融合することだ。日本も世界の一部なのだから、そもそも別個で勉強することが不自然なのだ。それにもっと言えば、地理だって密接に融合してくる(世界地図をながめれば、ロシアに不凍港がなく、つねに港を求めて南下しようとする国であることがわかる。そしてイギリスとイギリスの裏庭であった中国・インドへの道の中間にはトルコがあり、トルコがロシアに負けると黒海からロシアが進出するので、イギリスはそれを嫌がり、ロシアに敵対する国を応援する構図が見えてくる。日露戦争でイギリスが日本を支援したのも同じ理由による。またユーラシア大陸の地図を開くとインド大陸をはさんで東西対称の国家体制図になっているように見える(のは僕だけだろうが。)つまり、東に「共産主義」でユナイテッドされた異民族国家連合「中国」が、それと対称的に西には「EU」としてユナイテッドされたヨーロッパの多民族国家連合があり、東の海に日本が浮かんでいるのと対称的に西の海にはイギリスが浮かんでいて、その双方に象徴天皇制の皇室と、統治しない王室が君臨している。そしてこの両国は共に、ユーラシア大陸の裏側の巨大な移民族国家連合(U.S.A)の強力な同盟国である。つまり、ユーラシア大陸の東西二つの巨大な他民族連合体である「EU」と「中国」を、もう一つの巨大移民族連合体(アメリカ)の意を受けたイギリスと日本が左右から挟んで監視しているようにも見えてくる)。さらに言えば、地学(地球の温度の変化によって世界史が変わる・・・天候不順によって飢餓や疫病が発生し、民族の移動が起こる。中国でも天候異変による飢餓が民族抗争を引き起こして王朝交代が起こる。)も関連してくる。
 な どなど、「いまの私」から歴史を振り返れば、すべての分野が興味の対象となって浮き上がってくる。そうすればもっと色々なことを知りたくなってくる。時間がいくらあっても足りないくらい勉強が楽しくなってくる。必修だけでは物足りず、あらゆる学科を学びたくなる・・おー!これぞリベラルアーツの神髄ではないか!
 そ れからもう一つ、かねがね世界史の教え方で疑問を持っていたことがある。それは、現在の日本に最も影響を与える2つの大国、アメリカと中国についての勉強の比重が、欧州史に較べて相対的に低いことである。
 少なくとも、僕らの世代(1960年代から70年代にかけて高校生活を送った世代)においてはそうだった。中国に関しては、確かに、殷・周の時代から秦・漢・隋・唐・・と学んでいって、その比率は低くはない。だが、肝腎の清朝末期から日華事変、満州建国から、戦後の社会主義国家建設にいたる、最新中国史の勉強は少なかった。
 アメリカ建国の歴史にしても、大学受験での出題が少ないとかの理由でおざなりだったように記憶する。南北戦争の起こった理由を正確に言える僕の同世代人は少ない筈だ。
 北 朝鮮をめぐって六カ国協議が取りざたされるが、なかでもアメリカと中国が今後の日本の命運を掌握している二大国であることは自明のことだが、この二大国の行動パターンを我々日本人の何割が正確に予想することができるのであろうか?今の外務官僚とて我々と同世代の筈だが、僕らと同様の世界史の学び方をしてきたのであれば、その読みが的確である蓋然性は当然に低いとみなければならないのでないだろうか?大学で学んだ?いやそのころの大学においては、現代中国史やアメリカ史の専門家は少なかった筈だ。専門の教授が少なかったからこそ、受験問題に出なかったのだ。
 そ もそも、日本いや、東南アジアは、ヨーロッパの歴史に較べれば、民族間の抗争そのものは少ない。ヨーロッパや中東に較べれば、戦争も少ない。そんな状況では、虚々実々の外交的駆け引きに長ける国民性も醸成されまい。但し、そんな東アジアで唯一の例外が、中国である。ここは実は、ユーラシアの西の果てのヨーロッパが民族抗争にあけくれ、常に戦争状態にあったのと同じくユーラシアの東の果てにおいて常に漢民族と異民族の抗争が絶えなかった。なるほど、あれほど多数の政治戦略書や戦争戦術書などが書き著わされたわけである。
 そ れに引き換え、我が日本は、鎌倉時代に元に攻め入られただけだし、江戸時代の260年の間は鎖国を続けていた。それゆえ、外国との交流がなく、もちろん戦争もなかったわけであるから、考え方も宗教も異なる外国人との交渉術も発達する余地はなかった。もちろん、江戸時代までは、日本とて戦争に明け暮れていたわけではあるが、あくまでそれは日本人間における内戦だったのである。
 そ う考えると、国際社会におけるタヌキとキツネの丁々発止の化かし合い外交には、そもそも、中国を除くアジア諸国は向いていないとも言える。いや、永きにわたって鎖国を続けてきた日本は最も向いてない国民である、とも考えられるのである。
 実 は、日本の政治家や官僚たちはそのことに気づいていて、歴史的に苦手な外交は、ヨーロッパから派生したアメリカにすべて丸投げでおまかせしようということになっているのではないだろうか?苦手な外交は、それが得意な国アメリカにやってもらい(もちろんお金を出す)、その間に自分たちは得意な「ものつくり」に励む、これが日本の外交の基本戦略なのかも知れない。これは、それほどコストをかけずに安全を保障し、苦手なことに手を出して二度と大ヤケドはしたくないためには実は一番戦略的な外交なのかも知れない(決して口にはしないけど)。であれば、というかそれ(丸投げお任せ)ならばなおさら、その相手であるアメリカの考え方のクセや傾向を読み取る必要がある。得体の知れぬ相手に身を委ねようとは思うまい。そのためにはそもそもアメリカとは何であるのか?何故アメリカができたのか?何故アメリカはそう動くのか?それらについて学習しなくてはなるまい。
 ア メリカは実に不思議な国である。こんな不思議な国は世界中でたった一つしかない。日本や韓国のような創世神話も、イギリスのアーサー王物語のような伝説も持たず、つまりいくつかの歴史的過程を経て、だんだんと成熟して今のアメリカになったのではなく「アメリカは出来た時から、いきなりもうアメリカだった」(?2004内田樹@『街場のアメリカ論』)のである。イギリス国教会にたいそうご不満な清教徒たちがいきなり自分たちの宗教的実践の地を誰もいない(インディアンはいたけど)広大な新大陸に渡って壮大な実験場とした国アメリカ。最初からアメリカは今と変わらぬ宗教的理念国家ですね。自身それなりの長く複雑な栄光の歴史を誇っているアラブ諸国以上に宗教原理国家とも言えます。日曜日に教会にいく人口比率は実はヨーロッパ諸国に較べて圧倒的にアメリカ人が高い。こういう建国伝説を持たず、しかも多くの国の移民によって構成されている国をユナイテッドするには、確かにアメリカは世界一「強い」という幻想と新教の理念を実現するという強固な意思を維持し続けなければあっという間にバラバラになるのだろう。だから、アメリカは常に強い「ドル力」と強い「フォース力」と強い「アメリカンドリーム実現力」を維持しなければならないわけである。つまり・・・「国をあげて外に向かって自己をアピールし続けなければ自らの存在理由を確認できない国アメリカ」(?1995大村憲司@「アポロ13?何用あって月世界まで。月はながめるものである」)なわけです。
 わ れわれ日本人はアメリカが50個の国(州)の集まりであることをとかく忘れがちだが、あくまで合「州」国です。そうでなければ、ある州では死刑がなく、テキサスはやたら死刑だらけ、とか、ある州では中絶が禁止なのに、別のある州では合法なんて有りえないもんね。青森県では死刑がないが、鹿児島県では毎日のように死刑が執行されてます!なんて考えられない。昔アメリカ映画を見ていて、どうして州境を超えると警察は主人公(または犯罪者)を追うことをあきらめるのか不思議でならなかった。それもこれも異なる邦(州)の集まりだからなのである。だからこそ州をまたぐ犯罪の時だけ、州をまたいで捜査できるFBI連「邦」警察がしゃしゃり出てくるわけですね。そして国外になるとCIAが出てくる・・壮大は理念実験国家!それがアメリカで、他にそんな国は歴史上、旧ソ「連邦」があっただけだから。とにかくアメリカ合衆国は特異で奇っ怪な国家なのである。
 中 国とて同様だ。ヨーロッパにおいて最も外交上手な国イギリスの雌ギツネサッチャーを向こうに回して、いつのまにか香港を中国に返還させた古ダヌキケ小平・・つまり現時点での中国の外交手腕は、世界第1位とさえ言えるのである。

 なぜそういう国なのか?そんな国ならそもそも清の時代に、イギリスの植民地になるはずがないではないか?
 い やいや実は、中国は明と清の時代は日本の江戸時代同様、鎖国状態にあったのだ。つまり、さしもの中国4千年の外交戦略の歴史もその間錆びついていたということなのである。

 だがイギリスにしてやられ、日本にしてやられた眠れる獅子の外交戦略遺伝子が、ついに目覚めたのである。一端目覚めたら、かの国は強いのだ。だてに数千年にわたって、中原に鹿を逐っていたのではないのである。
 さ らには、BRICsという言葉もある。ブラジル、ロシア、インド、チャイナの頭文字を並べたものである。これは、すでに成熟しきった先進国ではこれ以上資本主義が拡張できないので、これら、人口の多い発展途上国において拡大を図ろうとするものである。

 この中に、数年後には中国を追い抜いて世界最大の人口を誇ることになるであろうといわれているインドがある。
 イ ンドの歴史・・これとて、アショカ王やムガール帝国は知っていても、現代のインドについて我々は殆ど何も高校では習わない。

 現代インド史・・これは手ごわいよ。不可触賎民が今でも人口の二割りを占めるこの国の成り立ちを理解するのは一筋縄では行かない。
 で も数年後には、インド相手に外交をしなくてはならないのである。インド史を専門講座に持つ大学が我が国にいくつあるのであろう。

 「いまの私」から将来を見据えて、その上で「いまの私」から過去の世界史を振り返って勉強することは、どう見ても「必修」のように見えるがどうであろう。

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