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なぜ、ミュージシャンを「アーティスト」と呼ぶのか?:前編
 洋画を見ていると、ときどき、冒頭で出会った男女が、お互い「何してるの?」とたずねるシーンがあり、女が「画を描いてるわ」というと「ふ?ん、アーティストか」と男が言うというのがある。でもそのあと、女があわてて、「えっ!アーティスト!やだやだぁ、そ、そんなだいそれたもんじゃなくって・・」とかのセリフを続けることはまずない。ごく普通に「画をかいてる」は、単に「I drow an art.」というだけのことで、特別すごいこととの認識はなさそうだ。 。
 「アイム ア ペインター」と「アイム アン アーティスト」は等価なのだ。  
 英和辞典で「ARTIST」を引くと、1.【一般的に】芸術家、「特に」画家、彫刻家、とあり、2.俳優、歌手、芸(能)人とある。
  日本の音楽業界では「アーティスト」は芸術家、という意味で使われているのだろうか?おそらく2.の俳優、歌手の意味を、カッコつけて言っているのだろう。
 なら、どうしても横文字で呼びたいのならシンガーやミュージシャンでいいやん!
 アーティストという呼称を芸術家の意味を付加して使うのなら、そのアーティストは自由であらねばならない・・・と思います。
 芸術は、あらゆるものから自由であろうとする運動だし、自由でなければ芸術にならない。
なにから自由に?
まずは、お金からです。
 今のメジャーレコード会社からCDを出しているミュージシャンで、お金から自由なミュージシャンは少ない。またアーティストと言われたいのなら事務所からも自由であるべきです。そういう意味では、むしろインディーズの方々のほうが、他者のふところをあてにせず自分でやりくりして自由に表現しているという意味ではアーティストと呼ばれるべきかもしれません。
 誤解のないように言っときますが、そういう、自由に自分の金で作っているという意味でのアーティストだから偉いとか、良いという意味ではありません。人さまのお金で作られている、ステキな音楽はごまんとあります。自由に作られていても、僕には無縁・無用の音楽もこれまた、ごちゃまんと存在しています。
 僕が感じるのは、シンガーや歌手や作家やライターでいいのに、アーティストと呼ぶことにつきまとう、うさんくささ、ごまかし、です。これが僕らの目を曇らせているのではないか?と思うのです。
 デビューのときからよく知っているシンガーソングライターに「エポ」がいます。
 いま、彼女は、事務所を持たず、もちろんマネージャーすらもいません。自分の原盤制作費も本人負担です。その彼女の歌をきくと、「あー、音楽って、本当に自由なものだったんだ」とつくづく感じさせられます。デビュー当時は事務所もマネージャーもいました。でも20年かけて、彼女は「自由」になりました。なにものからもフリーになったのです。デビュー当時の音楽だって今でもじゅうぶんステキです。でも最近の音楽は、あらゆるものから自由になった分だけ、優しい歌さえ、人々のこころに力強く響くのでしょう。
 古来、芸術家はパトロンによって保護されてきました。王様だったり、貴族だったり、超大金持ちだったりしました。でもこの人たちは、決して投資したわけではないんです。(厳密にいうと名声や名誉への投資だったかもしれませんが。直接、利益を得ようとしていたわけではない)
 でも現代の音楽業界は著作権ビジネス業界と同じ意味を持ちます。音楽は絵画や彫刻と違い、マス・マーケットがあってはじめて成立します。僕らは一点モノをつくる画家や彫刻家を、芸術家を捜しているのではないのです。一般ビジネスでは投資額に見合うリターンがあるかどうか?を無視できないように、どんだけたくさん複製(演奏を含む様々な態様による利用のこと)されるものを作れるのか、という目線でミュージシャンを捜しています。利用された額の総額がその価値を計るものとなります。
 そもそも僕らはよく「美術品」という言葉を使いますが、ピカソが書いた絵も、僕が書いた絵も、美術品のオークションで値段がつくまでは、どちらも美術品ではなく、単なる絵画に過ぎません。それまではピカソと僕は等価なんですよ。絵画の価値は描き手によって決まるわけではない、人様が決めるもの・・もちろん僕の絵はオークションで値段がつかず、したがって美術品たりえない。絵画と美術品をわけるもの、それはオークションという市場で値がつくかどうか、だけです。
以下、後編に続く...


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