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マデリング・スルー〜音楽業界における名将の育て方:第6回/ぶらきぼう

 この文章を読んだ時、「なるほど、そうなのか!」と思ったことがある。イラク戦争に赴く米軍兵士に「今回の戦争についてどう思うか?」という質問をすると、皆一様に「兵士に戦争の良し悪しを訊くのはナンセンスだと思う。兵士は命じられたことを、いかに遂行するか・・例えば、命じられたところにいかに正確に爆弾を落とせるかどうか、に全力を尽くすのであって、それ以上でもなく、それ以下でもない」と答えるのだ。しかもインタビュアーの目をまっすぐ見て逡巡するところもない。

 僕が兵士なら「・・・戦争・・それは良くないかも知れない・・けど・・そんな質問しないでくれよ・・」とうつむきつつ言うか、逆に胸をはって愛国心丸出しで「独裁者はこの世から抹殺するべきです!」と言うか。そのどちらかだと思うのだが、米軍兵士は、実にクールに受け答えるのだ。その答え方に違和感を持ってしまっていたが、「なるほど、アングロ・サクソンとは理由や結果よりプロセスに重きを置く人種なのか」と妙にナットクさせられた。
 だが、過去の遺物であり、歴史上のことだと思っていた16,7世紀におけるアングロ・サクソン帝国主義による植民地化のプロセスを、まさか21世紀になって、リアルタイムでナマ中継をまじえてFOXテレビで見ることになろうとはほんとに思わなかった。  

 中西輝政氏がこの文章を書いたのは1999年だ。その時は、まだマンハッタン島の上に世界貿易センタービルは建っていた。だからアフガン空爆も、アングロ・サクソン帝国によるイラク侵略も起きていない。だがそのときでさえ既に霧が立ちこめていた。今、2003年、時代は「薄もやの時代」からあっというまに「濃霧の時代」に突入した。しかも昨年までは「濃霧注意報」だったのに今や「濃霧警戒警報」が全世界に発令されている。この濃い霧の時代の果てに待っているのは、果たして悲劇なのか喜劇なのか、僕ら一般人にはさっぱりわからない。

  だが、考えてみると、人生なんてものもそんなものかも知れない。生まれてきた理由はわからない。死んでいく理由も同じくわからない。なぜこの、「今」という時代に居合わせているのかは、もっと、わからない。
「何故今生まれ、何故今死んでいくのか?」・・そんな答えの見つからない旅を続けること・・それが生まれてきた意味なんじゃなかろか?その旅のプロセスを「人生」というのかも知れない。マデリング・スルー・・まさに「泥濘の中をくぐりぬける」だ。だからその結果が喜劇か悲劇か、そんな見通しは効かない。いや、くぐりぬけられるのかどうかさえわからない。だが、「それがどうした!悲劇でも喜劇でも、くるならドンと来い!」最近そう思うようになった。人はそんな正解のない問いを抱えて旅をする生き物だ。だから、そんな旅を続けている人を殺してはならないのだし、殺されてもならないのだと思う。また、自ら死んではならないのだと思う。米軍兵士に「みんな旅の途中なんだ!だから旅人を殺すなよ!」と言いたいし、イラク軍兵士に「だから自爆テロで旅人を巻き添えにするなよ!」と言いたい。ま、どちらもきかないか・・
  僕らはよく、僕の「音楽人生」、とか「仕事人生」とか「ナニナニ人生」という意いまわしをするが、人生とは正解のない答えを見つけようとトボトボ歩きを続けること・・だから結局のところ、そのプロセスを楽しむしかないこと、だからその結果なんて「どんと来いだ」と、受けとめるしかないこと・・それは、そのまんま、仕事そのものじゃないか!仕事だって人生と同じ、と無意識で捉えているからそういうたとえ方をするのではないだろうか?
だから「部下を育てる」なんて正解のない命題に向かって何度も挑戦するのでしょう。これまでもそうであったし、これからもきっとそうだろうね。
  た、これから、音楽業界でどう生きていこう・・と悩んでいる若いスタッフも多くいらっしゃるだろう。そんな方にいいアドヴァイスはない。ここでも「さまーず」に「ここまでひっぱといて、なしかよ!」とつっこまれそうだが、「はい、ありませぬ」・・あやまります。だが、ここでもお詫びの気持ちで、そんな「守」段階のスタッフに、少しは参考になるかも知れないと思い、次の文章を掲げる。これは、もう随分前に、ある事務所に面接を受けにきた新人(その事務所の面接は落ちました)が、その後ある音楽事務所に入ったのち「自分はどの職種にむいているのでしょう?」という手紙を僕が貰ったとき、その人にあてた手紙である。
**** 様 。

 前略 わざわざご丁寧なお手紙ありがとうございます。それと、とりあえず音楽業界への扉近くにたどり着けた事に対しておめでとうございます。
 この業界へ入る扉はたくさんあいています。正面玄関から入ったひと(4大卒で大手レコード会社にはいるというのがそれに相当します)やミュージシャン上がりのひと、プロダクションからレコード会社に行くひと、逆にレコード会社からプロダクションに向かうひと、実に様々です。むしろ、入り口からそのまま、まっすぐ進んでいる人のほうが少ないかもしれません。また正しい入り方、正しい進み方というものもありません。
 「進みつつ・」、それはほとんどの場合、「迷いつつ」、というのと同意語です。入り口は無数に存在していますが、この業界は出口がどこか、自分の向かうところは一体どこか、いつも見失いそうになるものです。こればっかりはどの出口が正しいとはいえません。この迷路にも似た業界に、好きこのんでさまよい込んだその人だけが、迷いきった挙げ句に見つけられる(かも知れない)もののようです。自分にレコード会社があっているのか、プロダクションがむいているのかなんて、たかだか6ヶ月で見きわめられるものではありません。僕は,20年ちかくこの業界にいるわけですが今でも自分が音楽業界にむいているのか、わからくなることたびたびです。

 アルバイトであろうと、正社員であろうと、与えられた仕事を、とりあえず疑問をいだかずやり遂げてみることです。それができたら、とりあえず、「仕事には向いている」とは言えるでしょう。

 「とりあえず仕事は好きだ・・・」そう思えたら、ご連絡下さい。それまで履歴書は預かっておきます。

 では6ヶ月後に・・・草々

1996.10.7.            松山 誠


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