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マデリング・スルー〜音楽業界における名将の育て方:第4回/ぶらきぼう
 さらに続いて「デスク」とはなにか?ふぅー!ここまで一気に書いてきたら、チラリ疲れてしまったので、僕が以前に、デスクの新人のために書いた次の文章を掲げることで代用したい。
「デスク=ミネラル論 ? 必須ミネラルとなるために著作権をどうぞ!」

 栄養の三大要素といえば、「炭水化物」「蛋白質」「脂肪」だ。だが、人間はそれだけでは生きていけない。ビタミン、必須アミノ酸、最近話題の食物繊維など。それに微量元素と呼ばれる無機質ミネラル。それらのどれ一つ欠けても健康に生きていくことはできないと言われている。音楽事務所機能の三大栄養素は、「マネジメント」「制作」「宣伝」です。ではデスクって何なの?
 お答えします。「それこそ、まさにビタミンやミネラルのようなものでございます!」
 まぁ、一般的に「音楽事務所におけるデスクは?」、というと・・  たとえば、「求む!当方音楽事務所、職種はデスク」なんていうトラバーユの求人広告につられてノコノコ面接に行き、「・・あのぉ。ところで、デスクってなんですかぁ?」ときくと、大体において次のような答えが面接官から返ってきます。

「そうですね・・一言で言えば、いつも外で仕事をしているマネージャーやプロモーターと外部、それと内側にいるスタッフ(経理や契約とか)とのジョイント役です。それとCDやMDのコピーや資料作り・・とかですかね。あとはライブとかあればそれの現場のお手伝いなんてのもあります。」

  そのあと決まって・・
  「言ってみれば、事務所の"顔"です!だからとても大事なんですよ!」なんて少し嬉しくなるようなセリフが足されることが普通です。
 なーんだ、簡単そうじゃん・・。

 ところがどっこい、簡単じゃないんですね、これが。
 電話はいつ、どこからかかってくるか、わかりません。「突然お電話しますが・・」なんてのはしょっちゅうだし、ぶっきらぼうな電話、失礼な電話なんていつものこと。そんな不愉快な電話が大事な用件だったりもするのでやっかいなんです。外でイラついた仲間から「なんか伝言ない?」と不機嫌そうにいわれもムッとして「ありません!」というわけにはいきません。外回りはつらいんです!
  また一遍に2,3人のスタッフから「これを明日までに20枚MDにコピーしといて」なんてのが重なることもある。どれを優先してやるべきか?紙資料をつけるべきか?丁寧にやるのか、ラフでもいいのか?小耳に挟んだ情報を伝えるべきか、伝えるのなら誰に言うべきか?などなど、ここで思い切りモノをいうのは想像力です。「これぐらいでいいんだろう」と思うのか「ひょっとしてこれではだめかもしれない」と思いを巡らし、確認をするのか・・そのまま「いわれたことだけやってりゃいい」のか・・「よけいなこときくな!」と怒られるかもしれないけど聞いちゃおう!とかいろいろ想像しなければなりません。デスクの創造力は想像力が源泉です。デスクは単純労働ではありません。じゅうぶんにクリエイティビティ溢れる職種なのです。
 でも、ところが、しかし、but、そこまでして事務所の"顔"としてがんばっても・・それだけでは、やがて、もっと若くて可愛い"顔"した、気の利く、そしてなにより安価な労働力に置き換えられてしまう運命にあるもの・・それがデスクのもう一つの宿命でもアリマス。大体、事務所のオヤジ、つまり社長の8割はデスクの重要性なんて、てんで理解していないのが実状です。OOPS!
 事務所が正常に(ということは人間でいえば健康に)機能するためには全ての要素が揃っていなければならない。ところが、人間が飢餓状態に陥ったとき、ビタミンだのミネラルだのと言ってられない。とにかく、腹が膨れるものが必要だ。農薬まみれの中国産だろうと中性脂肪だらけといわれようとそれしかなければまずそれを食う。食わなければ死んでしまう。死ねば、もともこもないのだからしかたあるまい。
 もし、事務所が飢餓状態・・すなわち明日の資金繰りにも窮したとき、ビタミンやミネラルであるデスクより炭水化物や蛋白質である現場を残してとにかく生き残ることを画策するだろう。だから、デスク=ミネラルは必要だが、真っ先に切り捨てられる運命にあるともいえる。

 でも切られちゃ悲しすぎ!

  ・・・でしょ?
 で、おすすめの「著作権」は?というと、これは生きていくための「知恵」であり、生きる「目的」です。なぜか?ユニクロならT・シャツを売って終わり、トヨタはクルマを売ったところで終わり。でも音楽は売ったあと、著作権というフィルターを通してお金に変えないと終わらない。それは音楽業界のどこにいようと、どの職種にいようと、避けてとおれません。
 100万枚売れてよかったね!ではすまない。100万枚売れて、誰が、いつ、いくらもらえるか、がわからないと終わらないし、次に進めない。つまり、動物と人間をわけるのが「知恵」であるように、音楽業界人とそれ以外の業界人をわけるのが「著作権」なのです。
 ただ肉体的に健康に生きるだけなら、三大栄養素とビタミン・ミネラル・食物繊維の三大副栄養素で必要充分。でも『人』らしく生きたいのなら、つまり「音楽業界『人』」として生きていきたいのなら、それらに加えて「著作権」の知識こそ「必須」ってわけ。デスクが必要なのに捨てられないために著作権を実につけ、必須になろうよ。
  将棋でも歩がなければ将棋にならないのに「歩」は一歩づつしか進めず、簡単に敵に取られてしまう。だが、なんとか敵陣に、成り込めれば、地味な「歩」も「金」に変わるのだ! デスクが著作権を身につければそれは「と金」に成ったに同じこと。まさに「スーパー」デスクへの華麗なる変身ではないだろうか。
 あれっ!いま、読み直してみて書き落とした職種があることに気づいた。それは音楽業界における「営業」とは何か?ということだ。実は26年間のレコード業界経験があるのだが、営業経験は一度もない。でも日頃から「経験がないことだって想像力でおぎなえるはずだ」という主張をあちこちでしている手前、なんとか想像で言って見よう。
 レコード業界において「営業」とは主として、レコード店に対する販売促進活動のことを言う。でもこれって先に述べた宣伝とは何か?というところで述べたこととほぼ重なり合うのではないか?宣伝とは、作品の存在を消費者に伝えるための工夫の事であると言った。「宣伝」によりプロダクツの存在を知り得た消費者はレコード店に駆け込む。そのような動きが、いつ頃、きっとやってくる、という情報をあらかじめ小売店に宣べ伝えること・・それが営業だと思う。だから大きなくくりでいえば宣伝活動の一環、一部である。
  一般的にレコードの営業といえば、注文をとりオーダーを確認し、発注し、商品を届け、売掛金を回収し・・という機能を包含しているが、それは実は営業の「手段」であり、とても大事な基本業務であっても、その「目的」は、先に言ったお店に対する宣伝活動であろう。その宣伝が、結果的に販売促進に繋がるだけのことである。
 時代はIT時代といわれて久しい。たしかにこれ以上パッケージとしての音楽が消費されていくことはないだろう。録音物が無くなることはないだろうが、これからは、つまるところ、プロダクツ(ミュージシャンとA&Rマンとの共同作業から生まれる作品)と消費者のみが残るのかも知れない。だが、どうしても消えていかない機能がある。それが実は宣伝なのだ。
  松下翁の言葉を繰り返すが、「どんなにすぐれた製品も人に知られない限り、存在していないことと同じ」なのだ。それはIT時代になっても、いや、だからこそより重要性を増す、といって良いだろう。消費者が自分にとって「何」が良きもので、それが「どこ」にあるのか、直接にかつ早くそれを知りたい、というその貪欲な欲求にいかに応えるのか・・そのハイブリッドな宣伝活動のみがこれからのプロダクツの販売促進活動であるからだ。

 これからは、制作と消費者と、そのミッシングリンクをつなぐスーパーな宣伝と、それらをビジネスとして変換するハイパーな「著作権」・・それしか残っていかないだろう。  

   第5回へ続く...


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