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マデリング・スルー〜音楽業界における名将の育て方:第2回/ぶらきぼう
 話を遠いところから始める。
 この音楽業界への入り口は無数にあるといってよい。4年生大学を出てメジャーレコード会社に就職するというのが正面玄関からの入り方だが、中途入社など言うに及ばず、ミュージシャンからスタッフへ、とか、事務所からレコード会社、逆にレコード会社から事務所へ、など様々だ。
 だが一応にいえるのは、「何」を、「どう」、「いつ」までに成し遂げる!、という明確な目的と、そのためのはっきりとした段取り(プランニング)を持ってこの業界に入る人は非常に少ないということだ。
 これは日本の就職状況全般にいえることだが、日本の社会においては、会社員になってから、初めて「一体、自分はなにをすべきか?」を考えるスイッチが入る仕組みになっている。
 音楽業界においても同様だ。
 この業界に入れば、「とりあえず、これをやれ!」がある。これにはたくさんの種類がある。
マネージャーにくっついて「とりあえず」あちこち回れ!ディレクターにくっついて「とりあえず」スタジオにはりつけ!プロモーターにくっついて「とりあえず」媒体を回りまくれ!先輩セールスマンにくっついて「とりあえず」お店をまわれ!などなど。デスクであれば電話が鳴ったら「とりあえず」全部でまくれ!とか。
 だいたいこの期間が1年から3年続く。
 こうして「とりあえず」日常は慌ただしく過ぎていく。そしてこのころ、ふと考える「オレって(私って)なにやる人なんだろう?」
 最初の疑問がこれです。
 別段自分が音楽を奏でるわけではなく、歌を歌うわけでもないのに「あなたのお仕事は?」と訊かれたら「一応、音楽関係です」と答える。「音楽関係?どういう関係?」と畳みかけられたら、「えーっと、そのつまり音楽を宣伝したり・・スタジオに入って音楽を作ったり・・・お店にセールスに行ったり・・・著作権を・・・電話とったり・・・・」と答えた経験がおありだろう。
 ところで、この設問(音楽業界のおいてわたし(俺)って何やる人だっけ?)に「正解」というものはない。物理や数学ではないからだ。むしろ哲学に近いのかもしれない。哲学では種々の考え方や答えが用意されてあるように、この問いに対する答えも複数あってよく、結局、その時点において一番自分が納得できる回答を、その時点における「正解」とする。
 そうしてみずから音楽をやらないのに音楽の仕事をする「職種」つまり「スタッフ」の仕事について考え始める。だが、なかなか答えが見いだせないまま、「とりあえず」ではなく「いたずらに」時は経っていく。そしてついに、スタッフの仕事に意義と意味を見いださなければもはやこの仕事を続けていけない臨界点が訪れる。勿論そんなこと微塵も考えず・・だから当然、そういう壁にぶちあたらないスタッフもいます。(業績順調なころのレコード会社に在籍していられたらそうかもしれない)そのような幸せな人(右肩上がりの高度成長期のころの会社員もそうかも知れません)は、この際置いときます。
 で、そうして考えたあげく、音楽業界におけるスタッフの仕事も大きく分ければ数種類しかないことに気づく。
 制作、宣伝、販売促進、デスク、著作権だ。当然のことながらイベンターまで範囲を広げれば、コンサート制作、それに付随する舞台監督、照明、PA,ヘアーメイクなどなどいっぱいあるし、さらに媒体まで広げればそれこそ放送局、映画、広告代理、CM制作まで無限に広がるけど、ここではレコードビジネスに限定しておくことにする。

 次にこれらのうちどれができるのだろうか?と自らに問う。「はたしてそんな能力があるんだろうか?このあたしに!このおれに!」
 この設問を立てること自体は間違ってはいないが、たてかたの順番に問題がある・・・2番目に問うてはいけない。なぜならこの時点で「おれはこれが出来る」と宣言できる人はきわめて少ないからだ。
 むしろ最初は「オレがやりたいのは一体何なんだろう?」あるいは問い方をかえて「おれのやりたいことがこの中にあるのだろうか?」と問い返してみるべきだ。答えの中に、はなから「音楽」は除外させていただく。なぜなら音楽はやっていないのだから。やっているのは音楽家だから・・ねっ!

   第3回へ続く...


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