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マデリング・スルー〜音楽業界における名将の育て方:第1回/ぶらきぼう
 「戦争学」
 戦争なんてものに「学」があるのも欧米ならではだが・・そんな「戦争学」を紹介する本の中に「名将の育て方」なる次のような文章があった。

 【 名将は育てられるものではない。育つ環境が与えられるだけである。】
 平時になると、しばしば軍の上層部は"名将になるような若い将校を育ててみたい"と言うが、いまだかって素質を持つ若き将校を優遇したためしはない。
 後に名将と呼ばれるようになる若き将校は、実はそのほとんどが自らの能力で下から這い上がってきていたのであり、平時においてはむしろ、能力があるがゆえに持て余され、冷遇されていた。
 アレクサンダー大王は父フィリップ二世から、フリードリッヒ大王は父フリードリッヒ・ウィリアムから、ほとんど後継者として見捨てられる寸前であったのだ。ローマの名将コルブロは女たらしだったし、パットン将軍はルール違反の訓練ばっかりしていて軍上層部からにらまれていた。
 古代マケドニアのフィリップ二世は、テーベの名将エパミノンダスのもとで人質として3年間暮らし、戦術を学んだ。アレクサンダー大王が父フィリップ二世から学んだ期間は5年をこえない。その大王がインダス川流域まで版図を拡大したおり人質となったチャンドラグプタは大王のもとでその後の戦に駆り出され幾多の戦術を学んだがその期間はわずか一年だったといわれている。チャンドラグプタは大王の死後マウルヤ朝を興し、インド大陸を初めて統一した。
 ハンニバルが父ハミルカル・バルカスから学んだのも約3年、シーザーが大将軍スラーから学んだ期間とて2年に満たない。フリードリッヒ大王は1年で父から見放されている。ジンギス・カーンにもナポレオンにも、名将の師がいた形跡はない。
 こうして眺めてみると、名将を育てるための「教育の仕方」をあらためて考えさせられる。
 平時において名将になる素質をもっている若い将校には共通した特色がある。第一は判断に自信があることであり、第二は実行力があることだ。
 有事はすべてが予期できない事態の連続である。彼らは上司の意向や、法律、規則などに判断の根拠を求めない。自分の直感と哲学に根拠を置く。そしてただちに実行する。周囲が納得するまで待てない。上司に直言する。この性癖が平時にも出てしまい、敬遠されるのだ。
 安全保障には名将が必須条件である。しかし、政治家も官僚も、名将になる素質を持ち、かつ直言できるような軍人を好まない。
 こんな大きな矛盾はあるまい。彼らに夢を与えてプールしておくなにかいい方法はないものだろうか?
 〜「名将たちの戦争学」〜(松村劭 著―文春新書)
 上記の文章にあるように、部下を育てるマニュアルなんてないらしい。2600年の歴史がある戦争の歴史を研究したあげくが「なにかいい方法はないものだろうか?」ときたもんだ。歴史の浅い音楽業界に部下を育てるメソッド・セオリーなどあろう筈がない。
 だが、それにしてもこの文章を読むと、名将が誰かをみている期間というのも実は意外に短いものだということに驚かされる。

 また最近寝ながら読んだ、内田 樹著「寝ながら学べる構造主義」に次のような文章があった。
曰く
 「 ・・・また、技芸の伝承に際しては「師を見るな!師が見ているものを見よ!」といわれる。弟子が「師を見ている」限り、弟子の視座は「いまの自分」の位置を動かない。「いまの自分」を基準点にして、師の技芸を解釈し、模倣することに甘んじるならば、技芸は代が下がるにつれて劣化し、変形する他ない。(現に多くの伝統技芸はそうやって堕落していった)
 それを防ぐためには師その人や師の技芸ではなく。「師の視線」、「師の欲望」、「師の感動」に照準しなければならない。師がその制作や技芸を通じて「実現しようとしていた当のもの」を正しく射程にとらえていれば、そして自分の弟子にもその心象を受け渡せたなら、「いまの自分」から見てどれほど異他的なものであろうと、「原初の経験」は汚されることなく時代を生き抜く筈だ。」
 さらに、先ほどの松村劭氏の文書の中にはこんな文章も・・
「剣道の極意に「守・破・離」というのがある。
「守」とは師の教えに従うこと。
「破」とは、師の域に達したのちこれを破ること。
「離」とは、師の教えを発展させ自己の流儀とするため、
師のもとを離れること。
だそうな。
 これは家庭における親と子どもの関係にもあてはまる。高校生までは親のいうことを守る「守」、大学から社会人初期までが「破」、配偶者をめとって独立生計を営むと「離」ということ。「離」したとしても家族の絆が切れないのと同様、音楽事務所から独立しても一家であることに変わりはない。
 でいうと、とにもかくにも「離」段階や「破」段階に既に達っしているスタッフはまだしも、実は問題は、これらのはるか手前にある「守」段階のスタッフの育成だ。音楽業界における「守」段階のスタッフをどう育成するのか?

   第2回へ続く...


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