Chapter three : thirty-sixth episode



 ロック・フェスティバルの出演者は以下のとおり。
  8月4日:神無月、サンハウス/イエロー/ウェスト・ロード・ブルース・バンド
       トランザム/クリス・クリストファーソン&リタ・クーリッジ
       陳信輝グループ/沢田研二&井上堯之バンド

  8月5日:ダウン・タウン・ブギウギ・バンド/つのだひろ&スペース・バンド
       あんぜんバンド/エディ藩&オリエント・エキスプレス/クリエイション
       四人囃子

  8月8日:南正人/異邦人/南無/外道/ミッキー吉野グループ
       シュガー・ベイブ/センチメンタル・シティー・ロマンス/はちみつぱい

  8月9日:デイブ平尾&ゴールデン・カップス/めんたんぴん/寺田十三夫と信天翁
       VSOP/ラブ/ブルース・ハウス・ブルース・バンド/グレープジャム
       宿屋の飯盛り/上田正樹&サウス・トゥ・サウス/オリジナル・ディラン
       かまやつひろし&オレンジ

 8月10日:宮下フミオ/サディスティック・ミカ・バンド/キャロル
       内田裕也&1815ロックンロール・バンド(クリエイション)
       ヨーコ・オノ&プラスティック・オノ・スーパー・バンド 

      *出演の順番は不明。スモーキー・メディスンの名前もあがっているが、詳
       細は不明。

「わー、ジョンが来るかもしれない」
 村松は興奮している。
「ジョン?犬?」
 と、大貫。
「ちがうよ!ジョンだよ。ジョン・レノン!」
「ふ〜ん」
 大貫はあまり興味がない。
「そしたらジョンと同じステージに立つことになるんだよ。すげ〜」
 単純な村松はジョン・レノンと同じイベントに出られるかもしれない、ということだけ
で喜んでいる。
「なんか、ユーヤさん一派が多くない?」
 野口が心配そうな顔で話す。
「確かに。でもべつに関係ないんじゃないか?」
 山下は平気そうだ。

 この時代、内田祐也を頂点とするロック・ブルース系のバンドと、はっぴいえんどに代
表されるアメリカン・ポップロック系のバンドとのあいだに対立があったのではないか、
という話をよく耳にする。
 実際はどうだったのだろう。
 現場でのいざこざは確かにあった。
 しかしそれは、エネルギーの発露であるライブの現場では日常のことで、個々のミュー
ジシャンどうしの、あるいはバンドどうしの問題であり、決して派閥間争いのようなもの
ではなかった。
 ふたつの系統のグループに確執のようなものがあったとすれば、それは当時のロックシ
ーンを取り巻く環境、ファンやメディアやスタッフの方にそれらを醸しだす土壌があった
のだろう。あるいは時代の空気の中にそう思わせる何かがあったのかもしれない。

 8月8日、昼前に郡山駅に到着したメンバーはそのままフェスティバルの会場になって
いる開成山公園に向かうため、タクシーに分乗する。
 今回の一行はパーカッションのシンペイを加えたメンバー6人と、マネージャー長門の
ほかにスタッフをもう一人加えた、総勢8名。
 同行スタッフを増やしたのは、これだけ大規模なフェスティバルになると細かなトラブ
ルが多発することや、不測の事態が起こるかもしれないことを心配したためだ。
 会場に着くと、そこは本当にだだっぴろい草地の空き地であまり公園という感じはしな
い。
 空き地のほぼ中央に巨大な仮設ステージが設営されている。そして距離をおいてステー
ジを取り囲むように、これまた巨大な照明施設が組まれている。まるでナイターの球場の
ようだ。
 タクシーを降りたところからステージまで歩くのもかなりの時間を要する。
「わあ、広いなぁ!」
「お客何人くらい入れるんだろう」
「後ろの方からだと、僕たちなんか豆つぶより小さく見えるんだろうな」
 シュガー・ベイブはまだこれだけ広大な野外ステージを経験した事がない。
 先月末の清里の屋外スケート場イベントと、学園祭で小規模な野外ステージの経験がい
くつかあるだけだ。
 あまりの規模の違いにメンバーの精神は麻痺しかかっている。
・・・ジョン、ジョン、ジョン。ジョンレ〜ノ〜ン・・・
 村松はおかしくなった。
「おっはよ〜さ〜ん」
 センチのメンバーが到着した。
「おっはよう」
「おひさしぶりぶり」
 まもなくサウンドチェックが始まる。