Chapter three : thirty-fourth episode



 京都から戻って1週間すると、渋谷ジャンジャン昼の部にこの年2度目の出演。
 村松にとってはティーンエイジャーの頃、1年間ほぼ毎週通いつめた思い出のライブハウスである。
 ショッキングだった拾得でのライブ終了後、メンバーは数組に別れて関係者の家に泊まった。翌日京都駅に集合するまでの数時間おもいおもいに行動する。
 いまジャンジャンの楽屋でそのときの事を話している。
「南禅寺で食べた湯豆腐美味しかったわね」
 山下と大貫、村松の3人は南禅寺の向いにある湯豆腐の老舗「奥丹」で京の湯豆腐を堪能したのだ。
「あ〜、いいなぁ。僕もそっちに合流すればよかった」
 と、これは野口。
「ふん、なんだよ湯豆腐なんて。あんな病人食」
 鰐川は細い身体に似合わず、意外にも肉食派。
「いやあ、さすが京都の湯豆腐はうまいね。なんか格がちがうよ」
「え〜〜!?」
 ふだん食べ物のことについて多くを語らない山下が京都の湯豆腐を誉めたので、みんなちょっと調子が狂う。
「そうそう。あれはうまい」
 自称とうふ通の村松も賛同する。
 長門がそろそろ出番だと伝えにきた。
「どう、客の入りは」
 山下が聞く。
「出てみればわかるよ」
 ステージに出るとまだ客電がついているので明るい。客席がよく見える。
・・・なんだよ〜、3人かよ〜・・・
・・・ステージの上の方が人数多いじゃん・・・
 その後もジャンジャン昼の部にはよく出演したが、客の入りはいつもこんなかんじだっ
た。

 6月に入ってから、アマチュアロックコンテストにゲストとして2つ出演する。
 その2つ目のロックコンテストでは、当時かなりの評判を呼んでいたスモーキー・メデ
ィスンと共演することになった。
 スモーキー・メディスンは、その頃「下北のジャニス」といわれた金子マリもすごかっ
たが、なにしろCharがハイ・ティーンで参加していたバンドだ。他のメンバーもつわも
ので、とにかく上手かった。そして上手いだけでなく、何かを持っていた。本当にロック
を感じさせてくれた。
 そして、そのスモーキー・メディスンのロックに触発されたかのように、この日のシュ
ガー・ベイブの演奏は熱かった。
 京都、拾得での屈辱を晴らすかのように。

 6月後半、池袋シアターグリーンに2度目の出演。
 共演は名古屋のセンチメンタル・シティ・ロマンス。
 このときからシュガー・ベイブとセンチメンタル・シティ・ロマンスの長い友情が始ま
る。

 7月にラジオ番組三ツ矢・フォーク・メイツの公開録音がある。
 メイン・アクトは大瀧詠一。そこに布谷文夫らと共に出演した。
 本番の数日前に文化放送のスタジオで通しリハをやる。
 通しリハというのは本番とまったく同じことをやって、舞台演出や照明、音響などをチ
ェックするために行うのだが、ここで小さな問題が起こる。
 今回の大瀧のバックメンバーはココナツ・バンク+シュガー・ベイブ(コーラス&パー
カッション)にくわえキーボードに岡田徹を起用し、さらにコーラスにシンガーズ・スリ
ー、ホーンセクションに稲垣次郎グループを迎えた総数15人を越す大所帯。
 いきおいリハにも熱が入るのだが・・・。
 突然ホーンセクションの一人がリズム隊にクレームを出す。
「そこんところ、どうしても僕らと合わないんだよなぁ」
 ある曲の2拍3連の仕掛けのところだ。
「2拍3連ってえのはさ、こう3角形を描くようなノリでさ」
「君たちのはさ、どうも詰まった感じがするんだよ」
 それを聞いてユカリと銀次は憮然としている。べつに彼等が2拍3連を知らないわけじ
ゃない。普通に2拍3連を演奏しているだけだ。どうもその世代のジャズミュージシャン
のノリは微妙に違うようだ。なかなか難しい。
 公開録音当日。
 この日のシュガー・ベイブの演奏曲目は「SHOW」「夏の終りに」「蜃気楼の街」「雨は
手のひらにいっぱい」「指切り」「今日はなんだか」、それにひさびさの外国曲のカバー、
ビーチボーイズの「Darlin’」を加えた計7曲。
 このうち4曲が文化放送でオンエアされた。