Chapter three : thirty-first episode



 一方、デモテープレコーディングと前後して始まった74年のライブ 活動は、バンド
のライブ31本、ラジオの公開録音1本、コーラスサ ポートのライブ6本。この年間の
本数は新人バンド2年目としてはかなりの数だった。
 そしてライブ活動が本格的に始動する直前、4月の半ばにそれは行われた。
「だいたい何でこんな場所に集合しなくちゃいけないのよ」
「アー写の撮影だって」
「あ〜しゃあ〜?・・・って何よ」
「アーティスト写真のことだよ」
 六本木交差点の交番の横で鰐川が野口に説明している。
「え〜!俺らの?バンドの?写真?」
「そう」
「ん〜・・・実感わかないね」
「有名な写真家らしいよ」
「ふ〜ん」
 風都市としてはデモテープとアーティスト写真をセットにすること で、よりレコード
会社へのプロモーション効果を高めようと考えていたのだろう。そのための著名なカメラ
マンを起用しての撮影だ。
「おはよう」
 そこへ山下と村松が到着。
「クマ早いじゃん」
「う〜〜」
「しかしどうしてこの業界では、こんな昼過ぎでも”おはよう”っていうのかね。なんか
変なかんじ」
 これは村松。
「まあさ、その仕事でその日最初に会ったら、昼でも夜中でも”おはよう”って言うけど
さ、こんにちわ、とか、こんばんわ、だと気が抜けるもんな。たしかに」
 野口がフォローしていると、大貫が汗をかきながらやってきた。
「遅くなっちゃった。ごめんなさい」
「あれ、ター坊、なんかおしゃれ」
 鰐川が気づく。
「えっへへ。原宿で買ってきたの」
「へ〜え」
「でも、・・・どうしたの」
「って、アー写撮るんでしょ。あたりまえじゃない」
「ふ〜ん」
 男どもの無関心さに大貫はあきれる。
 そこへカメラマンと風都市のスタッフがあらわれる。
 で、喫茶店に入り、簡単な打ち合わせをしたあと、撮影現場に向かう。
 場所は、今はもう無くなってしまった六本木防衛庁脇の路地を下っていった先だ。
「なんかすごいところだね」
「繁華街のすぐそばなのに、こんな閑散としたところがあるんだ」
 するとカメラマンが
「じゃあ君たち、そこのアパートの前にならんでくれる?」
 と言うと、やる気なさそうにぞろぞろと移動する。
「あ〜、ちょっと固いなぁ」
「もうちょい、ノッてみようよ」
・・・そんなこと言われても無理だよ・・・
 メンバーはとまどっている。それなりにアー写の意義を感じて撮影に 臨んだ大貫にし
ても、それは同じだった。何か違和感がある。
 カメラマンはノラないメンバーを相手にがんばった。が、いくらがんばってもノラない
被写体相手では限界がある。
「ここは場所が悪いな。移動しよう」
 なんとかフィルム数本撮り終えたカメラマンの提案で場所を変えることにした。
 移動先は新宿ゴールデン街。
「なんかやばそう」
「でも、けっこう馴染むな」
「ごちゃごちゃしてるけど、落ち着くわ」
「・・・・」
・・・こんな事してて意味あんのかな・・・
・・・いいじゃん、べつに。減るわけじゃないし・・・
・・・そんなことより、早くライブやりたいよ・・・
・・・ライブって真剣勝負だよな・・・
・・・カメラマンもそうか・・・
 ゴールデン街の毒気に当てられたのか、メンバーの意識が変化し始める。
・・・だったらカメラマンは今ライブをやってるんだ!・・・
・・・よし!付き合ってやろうじゃないの!・・・
「おー!イイかんじ。その調子。つづけて」
 カメラマンも彼等の変化に気がついた。
 フィルムがカシャー、カシャー、と巻き上げられてゆく。
 カメラマンとのグッドセッションになっていった。