Chapter three : thirtieth episode



 レコーディング3日目。最終日。
 残っているのは「パレード」「指切り」のコーラス。「SHOW」のギターソロ。その他こ
まかいこと。そしてミックスダウン。
 まずは「SHOW」の間奏から始める。
 前回の屈辱を晴らすために村松はさらなる「ントイタ・トイタン」の練習漬けになって
いた。そしてこの最終日。リベンジはなるのか。
 村松は無言だ。表情も厳しい。
「じゃあ、テストで〜す」
 間奏前のアカペラ部分から再生が始まる。
♪ドゥワァ〜〜
・・・よし、いまだ。

 前にも書いたがここでさらに詳しくフレーズを説明しよう。
 まずは2小節のフレーズを16分音符32こに分解する。
 で、白丸が演奏する音符、黒丸が休符。
●○○○|○○○●|○○○○|○○●○|○○○○|○●○○|○○○○|●○○○
 これに実際のフレーズを当てはめてみる。
●トイタ|トイタ●|トイタト|イタ●ト|イタトイ|タ●トイ|タトイタ|●トイタ
 この譜割りで3弦の9フレット、11フレット、2弦の10フレットの順に弾く。3弦
の9フレ、11フレ間はスラー。
 そんなに難しくなさそう、と、そう思った多少は腕に自信のある貴方。じっさいにやっ
てごらんなさい。恐ろしく難しいから。もし1時間くらいの練習ですらすら弾ける人がい
たら、お目にかかりたい。そして秘けつを教えてもらうことにする。

 本題に戻る。
・・・で、できたよ!・・・でも、テストだ・・・
「おっ、いけそうじゃない」
「じゃあ、本番行きま〜す。どうぞ〜」
 そして。
♪ドゥワァ〜〜
 ミスった。
 ミスった。ミスった。ミスった。
 テストでうまくいっても本番でミスっては何にもならない。
 それでもどうにか2時間かけて問題の2小節はクリアした。
 が、後半部分でリズムがよれた。
「もう、だめだ」
 村松はギブアップした。
「まあデモだから、いいよ。オッケー」
 70年代も後半になれば、もっとぎりぎりのパンチインが普及してくるので、細かい録
り直しも可能だが、この当時このスタジオの設備ではそれは無理なことだった。
 村松が2時間の格闘でへばってしまったので、つぎのコーラス入れはあとにまわすこと
にした。
 その間、山下はスタジオ内を物色する。
 そしてスタジオに常設してあるハモンドオルガンとヴィブラフォーンを見つけた。
「すいませ〜ん。ここにある楽器、使ってもいいですかぁ」
「はい、どうぞ〜」
 急きょ「夏の終りに」にハモンドとヴァイブを入れることにする。
「こりゃまたゴージャスになるねぇ」
「ほんと」
「オシャレともいえるね」
「ほんと、ほんと」
 さらに山下はスタジオの隅にカバーをかけて置いてあったティンパニーを見つけた。
「これもいいですかぁ」
「どうぞ〜」
 もともとはドラマーである山下は試しに叩いてみた。
 付属のマレットで。
 ティンパニーの中央をおもいっきり。
 バシ!!!
 皮がやぶれた。
・・・なんだよ、このティンパニー。皮が古いじゃん・・・
 山下はマレットをぶらぶらさせながら、そう思った。
 2台あったので、もう一方も試してみる。
 バシュー!!!
 また、やぶれた。
・・・あ"〜〜〜〜〜あ"〜〜〜〜〜〜@@@@@@@・・・

 山下は知らなかったのだ。

   皆サ〜ン。てぃんぱにーハ中央部分ヲ叩イテハイケマセ〜ン。端ヲ叩クモノデ〜ス。中
央部分ヲ叩クト、皮ヤブレマ〜ス。あーめん。