Chapter three : twenty-third episode



 12月17日。晴れ。
 青山タワーホールの楽屋の壁に当日のタイムテーブルが張ってある。
 12:00 タワーホール集合 照明セッティング
  1:00 楽器搬入
  2:00 音出し(リハ)
  2:30 シュガー・ベイブ
  3:00 山本コウタローと少年探偵団
  3:30 はちみつぱい
  4:00 小宮やすゆうとレッドアイ・エキスプレス

  5:00 開場
   :30〜5:55 開演(本番)小宮やすゆうとレッドアイ・エキスプレス
  6:00〜6:30 はちみつぱい
   :35〜7:05 山本コウタローと少年探偵団
  7:10〜8:00 シュガー・ベイブ

  8:30 CLOSE
  9:00 全員引き上げ
 主役よりゲストの方が豪華な顔ぶれという異常な出演者リスト。そうまでして客を呼ん
でコンサートを盛り上げ、音楽関係者や評論家達にシュガー・ベイブを印象付けようとす
る長門の戦略だった。

 野口が1時過ぎに楽屋入りするとすでに鰐川が来ている。
「おはよう、ワニ。いつも早いね」
「おはよう。そう、だいたいいつも一番乗りだね、僕。几帳面なのかな」
「そうかもね」
 そう言ってから野口は鰐川の左手指の包帯に気付く。
「あれ?指の怪我、治ったんじゃなかったっけ」
「あはは、とっくに治ってるんだけどさ、こないだ村松君が言ってたみたいに、包帯した
まま演奏するのカッコイイかなと思って」
 そのとき大貫と村松が到着。
「あっ、ワニ、やっぱり包帯してる」
「えっへへへ」
 そこへ大貫のつっこみが入る。
「でもさぁ、鰐川君。そんなことしても客席から遠目に見たらわかんないんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、気持ちですよ。こうやる事によって普段の自分よりボルテージ
を上げてるんだ」
「そっかぁ。わたしもなんか考えようかな」
 2時前に山下が到着してようやくメンバー全員が揃う。
 最後の出演者が最初にリハをやり、オープニングの出演者が最後にリハをやることを「逆
リハ」と言うが、これはセッティングの煩雑さを少しでも軽くするためだ。
 というわけで初めにシュガー・ベイブがリハをやる。
 すぐに問題が発生。
 モニターのハウりがなかなか止まらないのだ。
 モニターのエンジニアがコンソールと格闘するがちょっとでもボーカルの返りを上げる
とすぐにハウる。
 見かねてP.A.のミキサーがアドバイスをくれる。
「もう少し生音を抑えればいけるんじゃないの?」
 言われてみんな気付く。
 ソロコンサートにはやる心がいつもよりアンプのボリュームを上げ目にしていたのだ。
「オッケー。こんどは大丈夫だろう」
 会場でのリハはスタジオでの練習とは意味合いが違う。
 P.A.やモニターのバランス取り、照明の具合、演奏者側にとっては曲間のタイミングな
どが主な目的になっている。だから50分の演奏時間に対して30分のリハだと1曲丸々
通して演奏することは少ない。
・・・あれ?もうリハ終わり?ちょっと不安だなぁ・・・
 ギターを肩から下しながら村松はそう思った。
 本ベルまであと2時間30分。