Chapter three : eighteenth episode



 ソロコンサートへ向けての猛練習が続くなか、村松が見なれない箱を小脇にかかえてリ
ハにやってきた。
「何、その箱」
 目ざとい鰐川がさっそく聞いてくる。
「へへへ。例のやつ」
 村松はにこにこしながら箱を開ける。
「ジャ〜ン!」
「あっ、レスリートーン」
「うん、やっと買えた」
「早く音出してみようよ」
 何故か鰐川の方が積極的だ。今はベースを担当しているが、やはり根っからのギタリス
トなのだろう。
 練習部屋に入るとすでに大貫がピアノの練習をしている。
「おはよう」
「ター坊、おはよう。ちょっとがさごそするけど、気にしないで続けてて」
 ター坊からちょっと離れたところでセッティングをする。
「え〜と、こっちがギター側で、そんで、こっちがアンプと」
「そうだ、電源、電源」
「で、スイッチを入れて・・・」
 村松はおもむろにコードを弾く。E一発。
「じゃ〜ん・・・て、音変わってないじゃん」
「村松君、あわてない。フットスイッチ」
「そうだった。つい、嬉しくてね」 
 エフェクトオン・オフのフットスイッチを踏む。
「気を取り直して、もう一度。じゃわわわ〜ん」
「あ〜、この音。干し芋」
 それから、セレクターやスピードコントロールを回していろいろ試してみる。
「このパイロットランプ、エフェクトオンにすると点滅するんだ」
「しかも、スピードを変えるとそれに合わせて点滅スピードも変化するよ」
「かなり、すぐれもんだね」
 いつの間にかター坊もそばに来ている。
「わ〜、そのランプきれい」
「音もいいでしょ」
「でもどの曲に使うの?」
 鋭い大貫の一言に村松はあせる。エフェクターは使い所を選ばないと逆効果になる。
「いや、いろいろ試してからね・・・」

 バンドの演奏はずいぶんとこなれたものになってきていた。
 にもかかわらず山下は漠然とした何かを必要と感じている。
・・・ソロコンサートやるのに今のままの状態でいいのか・・・
・ ・・僕たちがバンドとして認知されるためには、何かもっと強力に印象付けるものが必
要じゃないんだろうか・・・
・・・このさき将来に向けて僕たちの音楽、いや僕の音楽のコアになるような・・・
・・・そうだ、そういう新しい楽曲、今までになかったような楽曲を1曲でも・・・
・・・ショービジネスやオーバーグラウンドでも通用するような楽曲・・・
・・・タイトルは、そう、「SHOW」にしよう・・・
 山下は新曲の構想を練り始めた。