凄腕のバンドの後のリハはかえって山下の闘志をかきたてた。 ・・・たしかにテクニックはすごいな。うちらより何倍も上だ。でも、それだけじゃね えか。スピリッツってもんがないよ。音が死んでる・・・ いざ音を出してみると山下のパワーがメンバー全員に伝染したかのようにいい出来だっ た。 いいバンドになってきた。 「これなら明日は心配ないな」 リハの様子を見ながら長門はそう思った。 4時間ほどのリハを終えてからミーティングをかねた食事をすることにした。 繁華街へくり出す。 「今日は姫餃子の美味い店にいきます」 長門が案内する。 「姫餃子ってどんなんだろう」 「長崎っていったら、チャンポンと皿うどんしか知らなかった」 がやがや言いながら街を歩いていると、すれ違う人々がうさんくさげな目で東京からの 集団をじろじろと見る。東京では珍しくもない、長髪にベルボトムジーンズ姿の男たちと フォークロアのくるぶしまでかくれるロングスカート姿の女が、ここ長崎では奇異に映る のだろう。 大貫が気付く。 「またじろじろ見られてる。昼間もそうだったんだから」 「気にするなよ。東京とちがうし」 と、村松。 「こんな変なかっこもしてるしね」 言いながら鰐川は自分の服を指差す。 「変なかっこって何よ。わたしのは原宿で買ったんだからね」 「お〜い、何やってんの。店に入るよ」 すこし先を歩いている野口が声をかける。 「ちょっと待って〜」 夕飯どきのせいもあって店内は混雑していたが、さいわい丸テーブルを確保することが できた。 「姫餃子4つと皿うどん3つ。あとビール3本」 長門がまとめてオーダーする。 「ところで明日のコンサートだけど」 山下がきりだす。 「ター坊MCやってくれないかな」 「え?いいけど。どうして」 「なんかさ、ター坊の方が慣れてると思って」 横で鰐川が村松にこっそり聞く。 「ねえ、MCってなんだ」 「マイクのことじゃないの?」 「それだと意味がつながらないじゃん」 みかねた長門が解説する。 「あのねえ君たち。MCってのはマスター・オブ・セレモニーの略で、要するに司会のこ と」 「な〜んだ。そう言ってよ」 「だからそう言ってるってば」 あきれる長門。 「じゃあ、わたし話すこと考えなくちゃ」 店の仲居が料理を運んできた。 並べられた料理を見て大貫が賛嘆の声を上げる。 「わあ〜姫餃子ってちっちゃい!マッチ箱の半分くらいしかない」 「そう。だから姫餃子って言うの。いちおうこれも長崎名物ね」 長門が自慢げに言う。 料理を並べ終えた仲居は何故か村松のそばで立ち止まり 「あんた男なの〜、女なの〜」 と言うなり、むんずと村松の股間をつかんだ。 「ぎゃ!なにすんのおばちゃん!」 「あら、しっかり付いてるじゃないの。あたしゃてっきり女の子かと思ってさ」 しゃあしゃあと言って仲居は去っていった。 「あ〜ショック。もうお婿に行けない。我が人生最大の恥辱」 村松はテーブルに突っ伏して号泣する。 「そう嘆くなよ。まあそういうのが好きな娘だっているよ」 野口がなぐさめる。 「わあ〜またそういうこと言う。ちっともフォローになってない〜」 なんともなコンサート前夜であった。 |