Chapter three : fifth episode



 翌日、メンバーと長門はミーティングをする。
「その長崎のライブって、ライブハウス?」
 と、山下。
「いや、NBCホールっていう、客席300くらいの小ホール」
「じゃあ、コンサートじゃん」
 これは鰐川。
「うん。例の去年もやった大震災の4回目」
「え〜!去年は、はっぴいえんど呼んだんでしょ」
 と、ター坊。
「じゃあ、なんか大御所の前座なんじゃない」
 これは村松。
「違う違う。君たちがトリ。シュガーベイブ・フロム東京!ってなかんじでさ」
「それって、詐欺っぽいなぁ。だって僕たちまだ1回もライブやってない素人同然のバン
ドなんだよ〜」
 と、野口。
「いいの。長崎の連中は、東京から来たっていうだけでウケるんだから」
「・・・」
「オッケー、わかった。それくらいのハッタリがあったほうがいいかもしれない」
 山下がとつぜん承諾する。
・・・さすがは長門君。僕が見込んだだけのことはある。これぐらい大胆に物事を進めな
いとマネージャーは勤まらないもんな・・・
「で、演奏時間はどれくらい?」
「まぁ、3、40分ってところかな」
「だとすると、MC含めて7〜8曲くらいか」
「あ〜、ところでいつだっけ?」
「来月、8月の23日」
「ゲッ!1ヶ月しかない」
 山下は焦った。
 今までの練習のペースでは間に合わないかもしれない。もっと密度を上げて短期間で人
前で演奏できるところまで仕上げないと。
「よし、明日から練習のペース上げるから。みんなわかった?」
「は〜い」
 なぜか頼りないメンバーの返事。

 それからの練習はほんとにハードだった。そして疲れがたまってくると、メンバーの間
で小さな衝突が多くなる。
 鰐川と山下はいつもチューニングの事で揉めていた。それも決まって3弦のチューニン
グで。大貫はいつも「もっとピアノをちゃんと弾け」と、叱られて泣きべそをかいていた。
村松は「フレーズが違う。もっとレコード聞いて勉強しろ」ろ言われて、レコードを聞き
ながら勉強する悪夢にうなされた。野口だけは「もたる。はしる」と、どなられてもいっ
こうにへこたれず、かえって険悪な雰囲気になりそうな場を和らげている。
 そんな厳しい練習の中、大貫が待望の新曲を書いてきた。「時の始まり」というシャッ
フルの曲だ。これで山下の書き下ろしが2曲、大貫が1曲、小宮の曲が2曲、外国曲のカ
バーが2曲の計7曲のメニューが決まった。
 やがてメンバーの演奏も徐々に様になってきた。おかずの前後以外はドラムのビートも
安定し、村松のフレーズもかたまりつつあった。
 最後の難関の男性3人女性1人の混声コーラスもようやく先が見えてきた。