Chapter three : fourth episode



 ちなみにコーネル・デュプリはデビット・T・ウォーカーと並びソウル系セッションギタ
リストを代表する名プレーヤーだ。後年セッションミュージシャンだけで構成された「ス
タッフ」を結成しフロントミュージシャンとして脚光をあびる。
「じゃあ、もう何回かやってみよう」
 ダーン、ン、ン、ダーン、ダ、ダーン、ン、ン・・・
「だいぶいい感じかな。まだちょっとリズムが甘いけど。まあそれは各自練習するとして、
次行こうか」
「Aメロは・・・う〜ん、野口はビート半分ね。あとは、そう・・・」
「うん、アトランタ・リズム・セクションだな。というよりクラシックス4かな」
「ワニはDのペダルでたまにオクターブ上げて、村松君は5弦の7フレットから・・・」
 山下のヘッドアレンジが続き徐々に曲が形になっていく。

「じゃあ頭からやってみよう。ワン、ツー、スリー、フォー」
 ダーン、ン、ン、ダーン、ダ、ダーン、ン、ン・・・

「どうもダメだなぁ」
「野口さぁ、おかずの前後でビートがぐちゃぐちゃになるの気がついてる?」
「え〜!そんなにひどい?」
 山下が野口にダメ出しをする。
「ちょっと俺ドラム見てるから4人だけでやってくれる?はい、ワン、ツー、スリー、フ
ォー」
 ダーン、ン、ン、ダーン、ダ、ダーン、ン、ン・・・
「オッケー、わかった」
「野口さあ、上半身が動くのと、おかずの時にはスティックが大振りになるんだな」
 山下が言わんとするところはこうだ。
 ドラマーの上半身が安定せずに動いていると、叩くたびにスティックから打点の距離が
微妙に変わることになる。距離が変わると打点への到達時間も変わる。本人は同じように
叩いているつもりでもビートが揺れてしまう。スティックの大振りというのも同じように
打点への距離の変化、つまり時間の変化が起きてしまう。そして自分で叩いたおかずのフ
レーズを聞いてリズムが遅れているのに気がつき、それを取り戻そうとして今度は走って
しまう。
「説明するとそういう事なんだけどさ」
「うん、わかった」
「って、いっても頭でわかっただけじゃ意味ないもんなぁ・・・じゃあ、こうするか」
 そう言って山下は野口の背後にまわり、上半身を羽交い締めにした。
「うわぁ〜!何すんの」
 野口は驚く。
 山下は野口に腕だけは自由に動かせるようにしながら、上半身を強固に固定した。
「いいから、いいから。じゃあ、この状態でもう一度頭から。ワン、ツー、・・・」
 鰐川、村松、大貫の3人は唖然とした。
・・・こんなんあり?・・・
「お〜い、何やってんの。はい、いくよ。ワン、ツー、スリー、フォー」
 特訓は続く。

 今まで練習してきたのは外国曲のカバーと長門の友人小宮の作品数曲だけだった。「風
の吹く日」はシュガーベイブ初のオリジナル楽曲になる。山下がバンドを結成しようと思
ったきっかけのひとつが自分のオリジナルを演奏する事だった。その意味では願いが成就
したのだが、まだ不満だった。「自分の曲を自分で歌いたい」この想いがますます強くな
ってくる。
 そして翌週、山下は新曲を書き上げた。
「ふ〜ん、夏の終りに、っていう曲なんだ」
 またも鰐川がつぶやく。
 ツインリード・メジャー7thのリフで始まるイントロが印象的なこの曲は、初期シュ
ガーベイブの代表曲になる。ところで、山下の文学青年としての素養は一般にはあまり認
識されていないようだが、この曲の「つるべ落しの秋」のくだりなどそのあたりが色濃く
出ていると思う。

 長門から電話がかかってきた。
「もしもし、長門です」
「初めての仕事決まったよ」
「長崎でライブやるから」