Chapter three : second  episode



 翌週、ジプシーブラッドのひょこ坊と交渉が成立して村松が手に入れたストラトは、フ
ェンダー社がCBS社に買収された直後の68年製、いわゆるラージヘッドと呼ばれるモ
デルだった。 「へへへ、いいなぁ、このサンバーストの感じ」
「あれ?前はスモールヘッドのストラトが欲しいって言ってたじゃない」
 村松がストラトを抱えて悦に入っていると、横から鰐川がツッコミをいれる。
「人がさぁギター手にいれて喜んでるのに、そういう気分を害するような事言うかなぁ。
ワニだってプレジションが欲しいって言ってたのに買ったのはムスタングじゃない」
 村松はかなりムッとしたようだ。
「あっ、ごめん。冗談だってば」
 人がいい鰐川は素直にあやまる。が、バツが悪くて山下に話を振った。
「で、クマはギターどうするの?」
「僕はとうぶんこのギターでいいや。だからまだしばらく貸しといてくれる?」
 4月頃から山下は鰐川から国産のレスポールモデルを借りて使っていた。
「それはかまわないけど、ピックアップくらい交換すれば?」
「うん、実はさ目つけてるのがあるんだけど、どうしようか迷ってたんだ」
「何を迷ってるわけ、音色?」
「音色はさ、ギブソンのシングルコイルだからいい音すると思うんだよ」
「じゃあ何、お金?」
 鰐川はピックアップくらいの金額だったら立て替えてもいいと思った。
「いや、そうじゃなくて。ほらギターの所有者はワニじゃない。だから断わりもなく、ピ
ックアップ交換したらまずいと思って」
「あ〜、そんな事か。それだったらぜんぜんOKだよ。どんどん進めちゃって。それにい
ずれはそのギター、僕のところに帰ってくるわけだし」
 鰐川の言葉に山下は「こいつ意外と商才あるなぁ」と感心する。
 そこへ野口と大貫がやってきた。
「おはよう!」
「あれ?わたしずいぶん早く来たつもりだったんだけど、もうみんな揃ってる」
 大貫は早めにきてピアノの練習をするつもりだった。
 いっぽう野口もまた早めにきてドラムの練習をするつもりだった。
 だからたまたま同じ電車に乗り合わせ途中で合流する事になった。
「別に僕ら早くきたわけじゃないよ」
 鰐川が説明する。
「昨日の晩、ジプシーブラッドの人が村松くんに売るギターを持って来てくれて、遅くな
ったからそのまま泊まっちゃったんだ」
 村松が引き続き説明する。
「いや、いちおう弾いてみないとわからないから、街のなかで受け渡しするよりここの方
がいいと思って」
「あっそうか。先週話してたストラトかぁ。で、どうだった?」
 野口が聞いてくる。
「そりゃ、もう、サイコー・・・でへへ」
 で、それから村松が新しいギターがどんなにいいか、メロメロになって話す。

「じゃあ、そろそろリハ始めようか」
 ひとしきり話が弾んだところで山下がみんなを促す。
「今日はオリジナルをやるから」