第二章:第二十五話



 部屋に入るなり大貫はまたも感嘆の声を上げる。
「わぁ〜、広い。それに楽器も」
「ドラムもあるし、ピアノもアップライトだけどあるし、アンプもマイクも、ぜ〜んぶあ
る。すごい!」
「キッチンもちゃんとしてるし、ベッドはひとつだけどお布団はたくさんあるし・・・あ
たしここに住みたい」
 一同あせる。
「あの、・・・一応ここはNさん個人のプライベートな部屋だから」
「冗談です」
 澄ました顔で大貫が応える。
 それから村松が初めてここを訪れた時と同じような説明がえんえんと続くので省略。

「そういうわけでドラムのオーディションをここでやろうと思ってるんだ」
 説明が一段落するとキッチンテーブルを囲んでミーティングが始まった。
「どういう形でオーディションやるのかな」
 と村松。
「まあソロでドラムを叩いてもらって、こっちは見てるだけってのもわかりづらいだろう
から、一応何か課題曲を決めようかな」
 と言ってから山下は話をター坊に振った。
「ター坊は何の曲がいい?」
「えっわたし?ちょっと待って・・・」
「という事は一緒に演奏するわけでしょ?」
「もち」
「わたしピアノ担当はOKしたけど、小学校以来ピアノ触ってないのよ。最近はずっとギ
ターで歌ってたし・・・だから、そんなに急には・・・」
「はにゃにゃにゃ」
 これにはみんなア然とした。
 ピアノ担当をOKしたからには当然ふつう程度にピアノを演奏できると思っていたから
だ。しかしこんな事でめげていてはバンド結成はおぼつかない。
「だ、だったら、まず曲を決めてそれからピアノを練習すればいいよ。ある程度は僕も教
えてあげられるから」
 さすがは当時からマルチプレーヤーの山下であった。
 というわけでオーディションよりもまずは大貫のキーボード特訓が当面の課題となる。
 大貫がかなりの時間を個人練習にあててようやく数曲をバンドで演奏できるようなった
3月末、オーディションを受けたいというドラマーがぼちぼちあらわれてきた。
 そして4月になって、とある1日をオーディションにあてた。
 結果は惨敗。
 参加したドラマーはみんなそこそこは叩けるものの、協調性がなかったり、妙な癖があ
ったり、と何かしらの見過ごせない欠点があった。
 新しいバンドのドラムを安心してまかせるためには、山下が自分と同等かそれ以上の実
力をドラマーに求めたのも当然だ。そうでなければボーカルに専念することができないの
だから。そして何よりカッコウだけで叩くドラマーには来て欲しくなかった。
・・・どうしよう。やっぱり自分で叩くしかないんだろうか・・・
 山下が黙り込んで考えているところへ唐突に大貫が言う。
「そういえば、セッション仲間の野口君覚えてるでしょ?」
「・・・・」
「彼、最近ドラム始めたんだって」
・・・そうか!全くの素人なら妙な癖がつく前に俺が仕込めばいいんだ・・・
・・・今は下手でも2、3ヶ月もすればどうにかなるだろう・・・
「よし。野口に会おう」