第二章:第二十六話



・・・残るはマネージャーをどうするかだ・・・
 山下が野口に会って話をすると、野口はあっさりとバンド加入を了承した。そして山下
の心は最後の問題に移っていった。
 プロとしてやっていく以上、企画に裏付けられたプロモーション展開が必要不可欠なの
だが、山下には自信もなければやる気もなかった。だから自分の音楽性を理解してくれた
上でのプロモーションができる人間を確保する必要があった。そう、村松に「プロとして
活動する」と言って誘った事を実現させるためにも。
・・・長門君だな・・・

「はい、ディスクチャートです」
「もしもし長門君?山下です」
「おっ、しばらく」
「あの、こんど大貫さんとバンド組んだんですけど」
「らしいね、ター坊から聞いてる」
「で、よかったら成増までバンドのリハ見に来ませんか」
「それは面白そう。もちろん行く」
 電話から数日後、山下と連れ立って成増のN宅に到着した長門はまたもや大貫と同じ反
応を示した。
「すごいね、これは」
 バンドのリハを見終わって帰る道すがら、山下が長門に話しかけた。
「頼みがあるんだけど」
「はい。何」
「マネージャーをやって欲しい」
「そうくると思ってた」
「OK。やるよ」
 長門にはたぶんそんな事だろうという予感があった。
「ところでバンドの名前はなんていうの?」
「まだ決めてないんだ」
「早く決めた方がいいね。僕も考えてみるよ」
「了解。次に来る時までに考えとく」

 5月中旬サーフィン・ラビット・スタジオ。
「で、先週の宿題だったバンドの名前なんだけど」
 リハの小休止のとき山下が言いだす。
「いや〜、あんまり思いつかなくて」
 と鰐川。
「だめ。降参」
 と村松。
「わたしも」
 と大貫。
「あっ忘れてた」
 これは野口。
「しょうがないなぁ。じゃあ僕が考えてきたので決まりかな」
「なに、なに」

 そのころ長門は成増に向かう電車の中だった。
「この前見たアントニオーニの砂丘、良かったなぁ」
「とくにあの砂漠のシーンでヤング・ブラッズの曲が流れてくるあたり」
「・・・まてよ、あの曲のタイトル・・・バンドの名前にぴったりじゃん」
「山下もヤング・ブラッズ大好きだし・・・駅についたら速攻で公衆電話探さなくちゃ」

「まぁ、ヤング・ブラッズの曲のタイトルになってるんだけどね・・・」
 山下がバンドの名前を発表する。
「あっ、それいいね」
「それでいこうよ」
「決まりだね」
 メンバーもそのバンド名を気に入ったようだ。
 突然、バンド名が決まったのを祝福するかのように電話のベルが鳴った。
 電話のとなりに座っていたター坊が受話器をとる。
「はい、もしもし」
「もしもし、あっ、ター坊?長門ですけど。すごくいいバンドの名前思いついたから山下
君に伝えてくれる?」
「えっ、もう決まったって!?」
「何ていう名前?」
「シュガー・ベイブ!」
 そう、山下と長門は奇しくも同じバンド名を考えていたのだった。


                       第2章 完