ゆったりとしたリズムで徳武がテレキャスターを弾きはじめる。サムピッキングの音色が心地よい。 大貫の繊細な声が、不安定な若者の心理を優しくアンニュイなメロディで紡ぎだす。まるで聞い ている人の心の隙間に入り込むかのようだ。 「この曲は?」 テープレコーダーの前にいる長門に山下が聞いた。 「これはター坊のオリジナル。なかなかいいでしょ。タイトルはまだ決まってないんだけどね」 「オリジナルかぁ・・・」 「前に山下君が来たときに演奏してたのは、小宮の曲に僕が詞をつけたやつだったね」 「・・・」 実は山下はオリジナルの作品を何曲か作っていたのだが、まだそれをバンドで演奏した事がな い。というよりもバンドそのものが自主製作盤完成の時点で解散しており、今はただ勝手に集まっ てセッションをくり返しているにすぎない。オリジナルをやるのなら、またバンドをつくって演奏活動 をしなければ意味がないと考えているからだ。 その夜、帰宅してからの山下の頭の中は新しいバンドの構想がぐるぐると渦巻き始めていた。 ・・・新しいバンドをつくろう・・・ ・・・メンバーはどうしよう。Nさんは無理だな、服飾のことで頭いっぱいみたいだし・・・ ・・・武川もなぁ、ちょっとダメっぽいなぁ・・・ ・・・すると俺と鰐川のふたり?・・・ ・・・そうだ、村松君を正式に誘おう。でも定職もってるしなぁ。迷うなぁ・・・ ・・・これでもまだ3人だ・・・ ・・・あの大貫さんて、結構いいセンスしてたな・・・ ・・・俺の曲の合間に彼女の曲を入れればレパートリーに幅が・・・ ・・・それにコーラスも混声の方が・・・ ・・・で、パートはどうしよう・・・ ・・・俺がボーカルとギターをやって・・・ ・・・鰐川と村松君のどちらかにベースを担当してもらって・・・ ・・・大貫さんはピアノとボーカルだな・・・ ・・・待てよ。大貫さんてピアノ弾けるのかな・・・ ・・・ドラムはどうしよう・・・ ・・・オーディションでもするか・・・ ・・・優先順位は?・・・ ・・・まずは大貫さんにアタックだな・・・ ・・・明日さっそく電話しよう・・・ ・・・あれ?電話番号聞いてたっけ・・・ ・・・じゃあ、まずディスクチャートに電話して長門さんに・・・ と、勝手な妄想を楽しんでるうちに山下は眠りについた。 そして、この山下の「勝手な妄想」が廻り出すことになる。 |