第二章:第十八話



「やっぱり象だったな」
「うん、象だった」
 象の一団の横を通り過ぎたあと、車内は妙に静かな雰囲気になっている。
「でも、なんで象が・・・」
「サーカス団の移動かな」
「そういうの普通トレーラーとかでやんない?」
「飼育係みたいな人が誘導してたな」
「じゃあ、動物園の関係とか」
「そっちの方がもっと車使うだろ」
「わからん。謎だ」
「・・・・」
 4人はめいめいに考え込んでいるふうであったが、結論の出る筈もなく車はやがてディスクチャ
ートの前についた。
「もうこんな時間だから車ここに停めておいて平気だよね」
 同意を求めるつもりで村松は聞いたが、ほかの3人はすでに車を降りて店に入ろうとしている。
「?って、もうみんな降りちゃったの。まったく。僕は運転手じゃないっつーの」

「こんばんわ」
「やあ、いらっしゃい。・・・て言うのも変か。もうみんな揃ってるから紹介するよ」
 と言って長門はセッティング中のセッションメンバーを呼び集める。
「え〜と、山下君はもう3回目だから知ってるよね。ではあらためて紹介します。彼等があのアド・サ
ムのメンバー。」
 どうやら山下はメンバーと来る前に2回も遊びに来ていたようだ。
「どうも3回目だけど。山下です」
「武川です」
「鰐川です。よろしくお願いします」
「村松です。あの、僕はあのレコードのメンバーってわけじゃないんですけど」
 村松は「アド・サム・ミュージック・トゥ・ユァ・デイ」のメンバーと紹介されたことに戸惑っている。
「じゃあこんどはこっちね。僕は長門です。で、この眼鏡をかけてるのが小宮ね」
「どうも。小宮です」
「僕と小宮でこのお店まかされてるのね」
 長門の紹介が続く。
「こちらが徳武君」
「どうも。ギターの徳武です」
 徳武弘文。後に、山本コータローと少年探偵団を経てザ・ラスト・ショウを結成。現在はDr.Kの名
でも知られている。
「で、この大きいのが野口君。今はカメラマンのアシスタントやってるんだけど、ほんとはドラマー志
望なの」
「どうも。野口です。パーカッションやってます」
「最後に紅一点、大貫さんです。みんなはター坊って呼んでます」
「こんばんわ。大貫です。よろしく」
「ター坊はね、某レコード会社から三輪車というフォークグループでデビュー寸前までいったんだ
けど、訳ありでね。今はソロのデモテープ作ろうとしてるんだ」
 すると大貫が
「あっ、そんな事はいいから・・・そろそろ始めようよ」
 大貫は三輪車の事に触れられるのがいやだった。
 その言葉をきっかけに、徳武と小宮はギターを持ち、野口はボンゴをかかえ、長門は録音の準
備を始め、大貫はマイクの前に立った。
「みんな適当な所に座って聞いてて」
 そしてセッションが始まった。