第二章:第十七話



「というわけで、デジスクチャートの真夜中セッションに参加、というか様子見かな、に行こうと思っ
てるんだけど、みんなはどうする?」
 年も押しせまった12月のある日N宅で山下がみんなに問いかけた。
「で、いつよ」
 武川が聞く。
「今夜。12時くらいからだって」
「また急な話だなぁ」
「今夜かぁ。う〜ん、バイト休んじゃおうかな」
 大塚のボンカレーを温めてバタートーストに塗って食べるという遅い昼食をとっていた鰐川は、
深夜ショーケースの搬出搬入のバイトをしている。
「僕はやめとく」
 Nは不参加を表明。
 自主製作盤のレコーディングを終えた頃からNは音楽への情熱がうすれてきて、近ごろはもっぱ
ら服飾業界のことで頭がいっぱいらしい。
「面白そうだから、僕は行くよ」
 村松は定職についている反動か、やけに積極的だ。
「やっぱ俺も行くわ」
「右に同じ」
 武川と鰐川も参加することになった。

 その夜午後11時過ぎ、4人を乗せた村松のスカイラインは四谷に向けて成増のN宅を出発し
た。
 川越街道から山手通りに入り東中野を過ぎたあたりでハンドルを握る村松が誰とはなしに聞い
た。
「どうする?青梅街道から行く、それとも甲州街道?」
「この時間青梅街道だと新宿の靖国通り付近がタクシーの客待ちでえらく渋滞してるから、多少遠
まわりでも甲州街道の方がよくないか?」
「オッケー。じゃ、甲州街道ね」
 山下の模範的な解答に村松は同意する。
 2人とももっと効率のいい裏道に入る事を思いつかない。
 甲州街道を走り新宿駅南口を過ぎたころから徐々に車の流れが悪くなり、新宿通りに入ってから
は殆どストップ・アンド・ゴーの世界。
「なんでこんな平日の深夜に渋滞するの」
「これじゃ車降りて歩いた方がマシじゃん」
「事故か?」
「工事かも」
「工事?年度末でもないのに?」
 そう。役所は予算を使い切らないと次年度の予算額を減らされるため、年度末には必要のない
土木工事をよくする。ただ道路を掘り返してまた埋めるだけ、というような無意味な工事を。だが今
は年末ではあっても年度末ではない。
 しばらくストップ・アンド・ゴーをくり返し、四谷4丁目あたりで左1車線に寄せられてしまった。
 すると後部右側の座席にいた鰐川が驚きの声をあげる。
「象だよ!象が歩いてる!」
「なんだって?」
 ほかの3人が口を揃えて言う。
「どこよ、どこどこ」
「ほら、前方100メートルくらいの道の真ん中」
「嘘だろう」
「でもなんかいるぞ」
 半信半疑ながらも、何かが道路の真ん中を占領しているのを認めざるを得なかった。
 やがてそれとの距離が近づいてくると
「象だ。ほんとに象が歩いてる」
 動物園や映画、テレビでしか見た事のない象がほんの数メートル先を、のっしのっしと歩いてい
た。しかも1頭だけではない。
「なんでこんな所に・・・」
「4頭も・・・・」
 車が象の真横を通過するとき、窓から手を伸ばせば象の肌に触れることができそうだった。