第二章:第十四話



 鰐川のソロが終わり、村松の番になって3回り目のあたま、村松のソロも佳境に入るところだっ
た。
・・・あっ、しまった・・・
 村松はあせる。Aのペンタトニックスケールでアドリブを弾いていて、1弦の10フレットをチョーキ
ングするはずだったのだ。
・・・うゎ!2弦だ。間に合わない!・・・
 指の勢いを抑えることができず、2弦の10フレットをそのままチョーキングしてしまう。
・・・やばい、ミストーン・・・
・・・あれ、でも気持いい響きだ・・・
 村松は1度をチョーキングして2度にするという、新しい技をおぼえた。
 レベルが1上がった。

 ジリジリ。ジリジリ。ジリジリ。
「うわ!」
 寝汗にまみれたベッドの上で村松はとび起きた。
「夢かぁ。この前の学園祭の」
「それにしても、1度をチョーキングして2度にするのがあんなに気持いい響きだなんて思ってもい
なかったなぁ」
 先日の学園祭でのライブを思いだしながら、仕事へ出かける準備をする。
「そういえば今週はみんな、自主製作盤もってロック喫茶まわりか。大変そうだ」

 学園祭の翌日、自主製作盤100枚のプレスがあがったと東芝レコードから連絡があった。さっそ
く山下とNが引き取りに行く。
 LPレコード用段ボール箱2つに梱包された自主製作盤はずしりと重かった。
 N宅に戻ってからみんなが注視するなか、山下は片方の段ボール箱を開封する。
「うわぁー、すげー」
「やったー」
 6枚ほど取り出してみんなに配る。
 みんな食い入るように手のなかのジャケットを見つめる。
 表ジャケットは金子の線画のイラストが見事に描かれている。
 裏ジャケットの右下には通し番号用の「  /100」という空白がある。あとで手書きで通し番号を
記入する。
「ね、早く聞いてみようよ」
 鰐川は興奮していて自分でレコードをかけるという事を思いつかない。
「おっ、そうだな」
 そのひと言が合図になって、山下はジャケットからレコード盤を抜き出し、プレーヤーにのせる。
 レコード盤が回りだす。
 針を落とす。
 「ウェンディ」のイントロが流れはじめた。
「・・・!・・・!」
 声にならない歓声が沸きおこる。
 今でこそ誰でも手軽にCDを作ることができるが、この当時にレコードを自分達の手で作る事が
どれほど大変だったことか。いや、大変というより誰もそんな事に手を出そうとしなかった。考えられ
なかったのだ。それだけにメンバーの喜びようは天にも昇る。

 そして、憑かれたようにアルバム1枚を聞き終わった。
「よし、乾杯だ!」
 Nがさけぶ。
「よっしゃー」
 武川が冷蔵庫からサントリーのテーブルワインを2本取り出す。
「カンパ〜イ!」
「おめでとう!」
「うりゃ、にゃ、めろ、りゃりゅ、うに?!」
 言葉にならないやつがいる。
 みんなの顔が喜びにあふれている。
 自主製作盤「アド・サム・ミュージック・トゥ・ユァ・デイ」が世に出た。