第二章:第十話



「で、構成はどうしよう」
 と、コピーを終えた村松が聞く。
「うん、そのまんまだとセッションになんないもんね」
 鰐川が合の手をいれる。
「まあ2番まで普通にやって、歌が終わったらギターバトルに入ればいんじゃないの。16小節ずつ
まわしてさ」
 ・・・あんまりえんえんとソロやんなよな・・・
 というような顔をしながら山下が答えた。
「じゃあ僕からソロに入って16ずつ2回まわして、でさ、サビに行くところはワニにまかせていいか
な」
「いいよ。まかせてくんろ」
 で、セッションが始まった。
「1、2、3、4」
 イントロから始まってAメロ、サビを順調にこなし2回目のAメロが終わった時点から場の雰囲気
ががらりと変わった。
 それでも初めの8小節間は様子をさぐりながら、無難なフレーズを弾いていた村松が
 ・・・どうせワニは早いパッセージでアドリブを出してくるはずだから、ここでなんかやっとかないと
勝負とられちゃうぞ・・・
 と、いきなり9小節目にワウを踏んだ。
 すると今まで「サマー・イン・ザ・シティ」だった曲がワウのフレーズが始まった途端クリームの「ホ
ワイトルーム」に印象が変わってしまったではないか。
 それを聞いて他のメンバーの顔つきが変わり、サウンドにも変化があらわれた。
 まず、それまでノーマルなエイトビートを叩いていた山下が、ジンジャー・ベイカーばりのスネア
頭4つ打ちのビートに変わってきた。
 無表情にベースを弾いていたNは苦行僧のような表情になり、ますます重いベースを響かせる。
 そして鰐川は獲物を狙う肉食獣のように、いまや遅しと、村松のソロが終わるのを待ちかまえて
いる。
 ・・・・・・・・・・・
 セッションは続くのだが、描写力に限界があるので以下省略。

「うわぁー、もうだめだ。休憩しよう、休憩」
 汗まみれの山下がスティックを放り投げてドラムの椅子から立ちあがった。
 Nが壁の時計を見ながら言う。
「40分以上もやってるわ。しんどいはずだ」
「まいったなぁ、指がぼろぼろ。・・・あれ?村松君、どうしたの」
 鰐川がストラップをはずしながら村松に聞く。
「いやぁ、そのぉ・・・燃料切れ」
 みんなで冷たい物を求めて隣のダイニングキッチンに移動する。
 最初に山下が冷蔵庫にたどりつくと、おのおの勝手に「おれコーラ。ぼく麦茶。ぼくはバヤリー
ス」などと注文している。
 山下は冷蔵庫から良く冷えたペプシを4本取り出すとみんなに「はい、あんたはコーラ。おたくは
麦茶。きみはバヤリース」と言いながらペプシを手わたした。
「?」「??」「???」
 一同けげんな表情。
 山下の一言。
「いいのー!めんどくさいんだからー」