第二章:第八話



「今日はカレーです」
 材料をかかえて戻ってくるなりNはテキパキと料理を始めた。
「えーと、僕はタマネギを刻むから、ワニ手伝って」
「イエッサー」
「そこのニンジン、セロリ、ニンニク、ショウガを全部すりおろして」
「イエッサー」
「金子は米といどいて」
「あの〜、僕もなにか」
 村松がその場の雰囲気で申し出る。
「村松くんはまだいいよ。そのうち慣れたらやってもらうから」
 タマネギを刻みながらNがこたえる。
「あっ、ちょっと待って。やっぱりそこのコンビーフの缶を開けといてくれる」
 やがてタマネギを炒める音が聞こえはじめる。
「これが一番しんどいんだよなぁ」
 Nが誰にともなく話す。
「中火でじっくりキツネ色になるまで、焦がさないように炒めないとね」
 30分後。
「そろそろかな」
「ここですりおろした野菜を入れて、それからコンビーフを入れてっと」
「あっ、忘れてた。トマト、トマト」

 セロリをつまみ食いしていた鰐川に村松がこっそり聞く。
「ねえ、ここに集まる連中はみんな料理するの?」
「う、うん。まあね」
 そばにいた金子が茶々をいれる。
「そんな事ないですよ。武川くんは特別。Nさんはまあまあ。後はちょっと手伝うくらいですから」
 それを聞きつけたNが言う。
「あのねえ、今の時代は男も料理くらいできないとダメなの。わかるかなぁ」
「ふ〜ん」
「料理だけじゃなく、洗濯、掃除、家事全般できないと。そうじゃないと好きな事やっていけないで
しょ」
 ・・・う〜ん、よくわからない論理だなぁ・・・残りの全員が思った。

 さらに1時間後。
「あとはこの無唐のピーナッツペーストを入れて、ガラムマサラを・・・これくらいかな。で、塩もこれく
らいっと」
 味見をした。
「うぉっ!うまい!」
「よし。あと10分で完成」
「お〜い、みんなぁ、飯の準備してくれぇ」
 Nの号令で各自ご飯をよそったり、サラダを盛りつけたり、飲み物の準備をしたりし始める。
「いただきま〜す!」
「わ〜。うまい」
「やっぱりNさんのカレーは最高だね」
 みんなの反応につられて思わず村松も言う。
「具がなくて、しかもこんなサラサラしたカレー初めてだけど、すっごくうまいなぁ〜。これ」
「そうでしょ。うまいでしょ。どんどん食べてよ、みんな」
 バク、バク、バク。
 シャキ、シャキ、シャキ。
 ゴク、ゴク、ゴク。
 〜ピンポ〜ン〜
「なんか美味そうな匂いしてるなぁ」
 山下がレコードをかかえて入ってきた。