「やぁ、ひさしぶり」 「どうも」 「元気?」 「で、こっちにいるのがさっき話したキーボードの武川ね」 「どうも。武川です」 と、ひととおり挨拶をすませ、山下と鰐川には、あれからどうしてただの、あんときあいつがさ〜だ の、他愛もないことを話してるうち、唐突に山下が 「これがエコーマシンね。さっそくセッティングしてみっか」 と、いいつつとなりの部屋に移動する。 「わー、ひろいなぁ。何畳あるの」 「こっちの部屋が15畳、さっきのダイニングキッチンが10畳。で、向こうにもう一つ部屋があって、 そっちが20畳くらいかな」 「何と贅沢。じゃぁNさんの部屋が20畳のところなんだ」 「いや、僕の部屋っていうかんじはもうなくてさ、毎日誰かしら泊まっていくから雑魚寝状態。それ にあっちの部屋は楽器がごろごろだし」 「プライバシー無し?」 「そう」 「うらやましいと言うか、うらやましくないと言うか」 部屋を見渡すと、片隅には10セット以上の布団が積み上げられている。反対側には小型のミキ サーと2台のオープンリールデッキがあり、山下がそれにエコーマシンを接続している。 「と、こんなもんかな。じゃあエコーマシンの調整かねて、村松君なんか聞いてみる?」 山下が言う。 「うん。聞かせて」 山下がデッキのプレイボタンを押すとシャッフルのリズムが流れてきた。 「ん?これビーチボーイズ?」 「そう、ヘルプ・ミー・ロンダ。この曲はNさんがリードボーカルなんだ」 「へ〜、Nさん、ボーカルもやるんだ」 「いやぁ、ちょっと。あんまり得意じゃないんだけどね」 Nさんが照れる。 〜 help me rhonda, help help me rhonda 〜 ガリガリ、バリ、ガリ!! 「ごめん、ちょっとエコーマシンいじった」 山下があやまったが、みんなは上気した顔つきで聞き惚れていた。 「いやぁ〜、いいなぁ〜。自宅でこんなことできるんだ。ほかの曲も聞かせてよ」 「まぁ、あわてないで。みんな腹へってるから飯にしようと思うんだ。村松君も食べるでしょ?」 「うん。食べる。出前でもとるの?」 「いや、武川がなんかうまいもん作るから、おまかせなんだ」 すでに武川はキッチンでガサゴソ何か始めている。 山下がこっそり耳打ちした。 「あいつキーボードはいまいちなんだけど、料理は天才なんだ」 |