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01. バンドと仕事:前編


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 本コーナー最初のお悩みさんは音楽関係の専門学校を卒業して、社会人になった22歳の方です。先輩のOBや在学中にお世話になった先生方の好意もあって、アルバイトをしながらバンドをいくつかかけ持ちし、ちょっとした音楽の仕事ももらえるようになっています。
 そんな彼の悩みは「せっかく音楽で生きていくと決めたのだから、生活していくにはバイトして、音楽は自分が『これだ!』と感じたものだけを演奏するのが良い」のか?「将来立派なミュージシャンになるためには、現時点では自分の好みではなくても、いろいろな音楽を演奏した経験が必要だから、好きな仕事でも、イヤだと 思う仕事もやってみて、何かを吸収するのが大切」なのか?どちらが良いのか判らないということです。
 今回はこの悩みにファーマー、Ohjiがアドバイスします。ちょっと長いので、前編と後編とに分けてアップすることにしました。

 まず先に「お仕事」について考えてみましょう。なぜならそうすることによって、「バイトしながらバンド」のいろいろな面が見えてくるからです。まずは「お仕事」の良いところ、役にたつところを見てみます。

 基本的にちゃんとギャラのもらえる音楽の仕事なら、それがどんなものであるにせよ、やってみた方が良いと思います。勉強になるというポイントを考えると、相談者の場合、譜面は読めないのですから、「読譜力必須」のお仕事は無理なはずなのですが、あらかじめ譜面を渡されるような仕事なら是非トライしましょう。日本の義務教育を受けた人がまったく読めない譜面を使うような仕事はあまりありませんし、そういった特別な仕事の場合はある程度経験のあるミュージシャンが雇われると思います。何度か仕事をすれば、実際の仕事現場でどのような譜面が使われているのかが判り、譜面を読むコツも身についてきます。また、スタジオなど現場では自分のそれまで知らなかった業界用語などを知ることができるでしょう。
 筆者の場合は初見がダメなのに、初見(その場で譜面を渡されてすぐに弾く)の仕事に行って、恥をかきながらも、どうにかこうにかやり終えたというようなことが何度もあります。でも恥をかくということは、少なくともその次の日からいくらかは真面目に勉強するようになるので、これは決して無駄なことではありません。

 経済的な話をすると、日本の景気が悪くなってからというもの、どんな職業でも仕事が少なくなり、カラオケがあるので、アルコール飲料を提供するお店などで生演奏する仕事はさっぱりなくなってしまいました。仕事としてはタレント、歌手のサポートが中心で、演奏して手に入るお金もずいぶんと安くなっているとは思いますが、音楽仕事のギャラは通常のバイトなどと比べると破格の時給といえます。
 ですから仕事である限りビジネスと心得て、礼儀正しくし、バンドで演奏している時のような横柄な態度はやめておきましょう。「僕は仕事をもらっている立場なんだ。」ということを忘れず、仕事を入れてくれる人物には一般的な会社などでいえば「上司」に対して接するときのような態度で話した方が良く、タメ口はやめて おきましょう。

 次に「仕事」の良くない点を考えてみます。まず登場してくるのはダブル・ブッキングというもの。友達のライブ、好きな外タレのコンサートなどはシゴトが入ったら、あきらめなくてはいけません。友達や外タレならともかく自分のバンドはどうするの?と思うかもしれませんが、そんな時はできるだけ自分のバンドのスケジュール調整でダブル・ブッキングを避けたいところです。でも、どうしてもダメって場合には『トラを入れる』ということが許される仕事なら、なんとか都合をつけることもできます。
 これは常日頃から同じ楽器を演奏する友人を作っておき、自分のレパートリ−およびフレーズを覚えてもらって(譜面OKな人なら譜面を渡しておき)、緊急の場合にピンチヒッターになっていただくという方法です。もちろん自分も相手のコピーをしておき、いざというときにはお役に立ってあげることになります。この時この友人は、仕事にトラを入れるという行為によって一緒に仕事をしているミュージシャンの方々に心配や迷惑をかけてはいけないので、最低でも自分と同じ、できれば自分よりも技術的・経験的に優れている人でなくてはなりません。

 ここまでは具体的なものなので、回避する方法がありますが、逃げることのできない、精神的な問題もあります。
 あまり好きでない、あるいは向上、進歩のない同じような演奏をダラダラと続けていると、その仕事はおろか音楽全体をあまり好きでなくなってしまうということです。好きでなくなるだけならまだ良いのですが、重症になると自分ではそのことにも気付かず、ただ無意味に仕事をこなしていくだけというようなハメになります。
 自分のバンドでおもいっきり発散するという方法もありますが、そもそも演奏するモティベーションがギャラしか無いという場合、精神的に良いわけはありません。そんなタイプの仕事につぶされてしまってはいけません。
 ではいったいどんな時に辞めることを決意すればよいのでしょうか?まず相談者がコード進行に合わせてフレーズを作るのに苦労するとか、「なんでB♭の次がAmaj7なの?」だとか思っている段階では、まだまだそのシゴトから得られるものは数多いはずですから、続けた方が良いと思います。
 次の段階として、演奏中にある程度自由にアドリブを弾くことができるようになったり、たまに自分の出したアイディアが採用されるようになったりし始めた時期には、やっとその仕事がこなれてきたという証拠ですから、よほどギャラの良いシゴトが入るか、自分のバンドがブレイクしない限りはやめない方が良いでしょう。
 最後が新曲を聞かされても、その楽曲に対して不満しか出てこず、しかも自分からその楽曲をより良いものにするためのアイディアが出てこなくなる段階。これはもうヤメ時です。

 次回は、「バイトしながらバンド」について考えてみましょう。
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